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まもなくアメリカ新政権誕生 「台湾有事」への影響は…“トランプ2.0”に身構える台湾

2025年1月3日 15:00
まもなくアメリカ新政権誕生 「台湾有事」への影響は…“トランプ2.0”に身構える台湾
米トランプ次期大統領・台湾頼清徳総統・中国習近平国家主席

台湾海峡の緊張が高まる中、台湾の最大の後ろ盾であるアメリカでは、まもなくトランプ政権が誕生する。アメリカ・中国・台湾の関係と、日本にとっても人ごとではない「台湾有事」への影響は。今後の見通しを専門家に聞いた。
(NNN上海支局 渡辺容代)

■中台関係“緊張高止まり” バイデン政権の「二重の抑止策」

台湾の頼清徳総統が与野党混戦の選挙戦を制してから、まもなく1年となる。頼総統は就任演説で、中国との関係について、蔡英文前総統の「現状維持」を継承しながらも、「中華民国(台湾)と中国は互いに隷属しない」と述べるなど、中国が主張する「一つの中国」の原則を拒む姿勢を鮮明にした。一方の中国は、頼総統を「台湾独立派」とみなして敵視し、台湾周辺での軍事演習をくり返すなど威圧を強めている。

中台関係に詳しい法政大学の福田円教授は、こうした現状を“緊張が高止まり”していると話す。大きな役割を果たしてきたのが、アメリカのバイデン政権による「二重の抑止策」だ。

「バイデン政権は、武器売却も含め台湾に対する支援を強化して中国の軍事行動を抑止しつつ、台湾の頼政権に対しても中国を刺激しないようにけん制してきた。お互いが均衡を崩さないように踏みとどまっているのが今の状況だ」

その均衡が崩れてしまう可能性をはらむのが、まもなく就任するトランプ次期大統領の新政権誕生だ。

■トランプ政権誕生…中台がともに“様子見”か

トランプ氏は大統領選挙の期間中、「台湾は我々の半導体ビジネスをすべて奪った」「台湾はアメリカに防衛費を支払うべきだ」などと述べていて、台湾ではトランプ氏の当選に対して警戒が広がった。

頼総統はトランプ氏の勝利宣言の直後にX(旧ツイッター)で祝意を表明。また初の外遊の経由地として、アメリカのハワイとグアムに立ち寄り、アメリカ共和党の下院議長や民主党の下院トップ・院内総務らと電話やオンラインで会談した。トランプ氏の就任を前に、米台関係の安定に腐心する様子がうかがえる。

では、トランプ氏就任後のアメリカ、中国、台湾をめぐる関係はどうなるのだろうか。

トランプ氏は1期目の際、台湾問題を十分に理解していないとも受け取れる言動をしたこともあり、台湾にはそれに振り回されたという記憶が残っている。

福田教授は、トランプ氏の打ち出す政策が過度に中国側を刺激するなどして「二重の抑止策」のバランスが崩れると、台湾海峡の軍事的緊張はさらに高まる可能性があると話す。バイデン政権は同盟国や友好国との連携を重視してきたが、トランプ氏は「アメリカ第一主義」を掲げている点も、多国間での対中抑止を弱め、中国を利する形になりかねない。

「バイデン政権は“地域の同盟国を束にして台湾問題にも対処しよう”という傾向が強かった。中国は、これがたまらなく嫌だった。おそらくトランプ政権になると同盟国との間にもあつれきが生じるので、中国側はそこに割って入る形でアメリカと同盟国のつながりを切り崩していこうとするだろう」

一方で、トランプ氏はすでに中国にも台湾にもトランプ流の“ディール”ととれる政策をちらつかせているため、福田教授は双方が新政権の出方を警戒した結果、中台関係は“様子見”が続くと見ている。またトランプ次期政権の人事について、対中強硬派を次々と起用する方針が伝えられると、台湾の中では楽観が広がっているという。

「アメリカの“台湾への支援を強化する”という流れは、議会を中心として党派を超えたもの。とくに国務長官への起用が発表されたマルコ・ルビオ上院議員は、以前から台湾支援に積極的に取り組んできた。超党派的な支援が今後も受け継がれていくのではないかという期待につながっている」

■台湾の若者は…「半導体産業に自信」「米中対立の捨て駒に」

台湾の次世代を担う若者たちは、どのように感じているのだろうか。

住民自らがニュースなどを発信する独立系のアカウント「セルフメディア」で活動する34歳の男性は、台湾には半導体産業という強みがあるため「台湾は過度に心配する必要はない」と冷静だ。

「台湾にはTSMCをはじめとしたハイテク産業があり、こうした企業はアメリカにも工場を構えている。同時にアメリカの企業もTSMCの半導体にとても依存している。だから、台湾に防衛費増額を要求するなど台湾経済に過度の打撃を与えることはしないはずだ」

一方、台北市内の大学院に通う23歳の女性は「トランプ氏にとって台湾は、中国をけん制するための駒にすぎない」と警戒する。

「(中国との間に)戦争が始まれば、アメリカが助けてくれるという保証はない。台湾は第二のウクライナになるかもしれない」

トランプ氏は「ウクライナでの戦闘を終わらせ、アメリカの多額の軍事・財政支援を終わらせたい」と明言していて、ウクライナ支援に後ろ向きな姿勢を示していた。政権発足後、実際に支援が停止されれば、“有事の際、アメリカは台湾を助けない”という「疑米論」が拡大し、親米路線をとる頼政権に打撃を与える可能性もある。

■「台湾有事」…日本にできることとは

頼総統は就任式当日、演説を終えた直後にも日本からの来賓との昼食会や会談を行うなど、日本に対する期待は大きい。福田教授は日本が、アメリカの台湾やアジアの周辺諸国に対する安全保障上の関与をつなぎ止め続ける役割を果たすことが必要だと話す。

「バイデン政権の政策は同盟国と連携し、台湾問題に対処することを重視していたので、日本はアメリカに要求される枠内で台湾と関わっていればよかった。それがトランプ政権になると、台湾との関わりをより主体的に模索していく必要がある」

日本にとって「台湾有事」は人ごとではない。中国が台湾侵攻に踏み切れば、日本にとって死活的な海上航路となっている台湾周辺の海空域を、中国が封鎖すると想定されている。中国に侵攻を思いとどまらせ続けるには、日本の防衛上の備えと日米同盟の対応能力を高めることが必要になってくる。一方で中国にとって日本は第2の輸出相手国で、人的交流も多い。中国との対話を通じて交渉力を発揮していくことも、日本の果たせる役割なのではないだろうか。

最終更新日:2025年1月3日 15:00