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宇宙への夢―“星の町”での厳しい訓練―

2012年3月21日 15:13
宇宙への夢―“星の町”での厳しい訓練―

 モスクワ郊外にある“星の町”。地図にも載っていなかった秘密都市だったが、今や宇宙への最前線基地として知られるようになった。その“星の町”で、2人の日本人飛行士が厳しい訓練に挑んだ。モスクワ支局・片野弘一記者が報告する。

 モスクワから車で2時間。深い森の中に“星の町”はある。ソビエト崩壊後、秘密都市ではなくなったが、今でも出入りする車や人は厳しくチェックされる。2月、この“星の町”に日本人宇宙飛行士・若田光一さんの姿があった。

 氷点下30℃。家庭用の温度計では測れない寒さだ。この寒さの中、ある訓練が行われた。目的地から離れて着陸してしまったソユーズ宇宙船。救援隊が来るまでどのようにして生き延びるか?という訓練だ。若田さんたち3人のクルーはまず木の皮を削り、火をおこす作業から始めた。寒さをしのぐために火のぬくもりは絶対に欠かせないという。この訓練について若田さんは「テューリンさんとマストラッキオさんと3人のチームワークを高めるためにもいいと思います」と、語ってくれた。若田さんたちはこの後、自分たちの造った丸太小屋に2泊して救援隊の到着を待った。まさに、サバイバル訓練だ。

 “星の町”は、宇宙飛行士訓練センターを中心にした人口9000人の町だ。1960年に建設され、人類で初めて宇宙を飛んだガガーリン氏など多くの宇宙飛行士がここから巣立っていった。センターでは、本物とそっくり同じに作られた宇宙ステーションや、ソユーズ宇宙船の模型を使って実践的な訓練が行われる。

 訓練機に笑顔で乗り込むのは、今年7月に宇宙に旅立つ星出彰彦さん。スペースシャトルで宇宙に行った経験はあるが、ソユーズ宇宙船での飛行は初めてだ。「火が消えていない!換気だ!」と、火災発生のアナウンスが流れ、訓練が始まる。3人の乗ったソユーズ宇宙船から漏れ出す煙…船内は一寸先も見えない。そうした中でも的確な判断を下し事態を切り抜けなければならない。

 ガガーリン宇宙飛行士訓練センター(GCTC)では1日約50人、見学者を受け入れている。お目当てはもちろん訓練施設の見学だが、もうひとつここには隠れた人気スポットがある。なかなか目に触れる機会の少ない宇宙関連のグッズを販売しているのだ。GCTCのロゴ入り腕時計(5000~1万円)や、ガガーリンTシャツ(900円)、グラス(250円~8000円)、ボストーク宇宙船(4万5000円)などがある。中でも面白い物が、ロシアのお土産として有名なマトリョーシカの宇宙版(1万1000円)だ。開けると小さな宇宙飛行士がたくさん居て、中には日本人飛行士の姿も見える。そして、ロシアの宇宙食も売っている。クルミとプラムの宇宙食を食べてみると、おいしいかどうかは別として普通に食べることができる味だった。

 宇宙は憧れに満ちている。しかし一方で、危険と隣り合わせという現実もある。ロシアでは去年8月、ソユーズ宇宙船用のロケットとほぼ同じ設計の貨物ロケットが打ち上げに失敗した。また今年1月には、ソユーズ宇宙船がテスト中に破損するなど、トラブルが相次いでいる。しかし、星出さんはこう語る。

 「キチンと対策は取られていて同じ失敗が起こらないように、ということになっていますし、我々も同じ失敗を繰り返さないように訓練しているので、特に不安はありません」

 宇宙の未来を切り開いてきた“星の町”。いま、日本人飛行士たちも、ここで宇宙への夢を育んでいる。