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大統領選の争点にも 不法移民とドリーム法

2012年4月25日 16:57
大統領選の争点にも 不法移民とドリーム法

 11月に行われるアメリカ大統領選挙。その争点の一つに、1100万人もの不法移民に対する政策がある。アメリカの現状をニューヨーク支局・柳沢高志記者が取材した。

 アメリカで最も移民が多いカリフォルニア州。一人の卒業生が母校で講演を行った。ジャーナリストのホセ・アントニオ・バルガスさんだ。優れた報道に与えられる“ピューリッツアー賞”を受賞した経験もある。講演で語られたのは、高校時代に知った“ある事実”だった。

 「免許の試験を受けに行ったのですが、担当者が私の永住権証明書を見て、『これは偽物です。二度と戻ってきてはいけません』と言ったのです。それで初めて自分が不法移民であることを知ったのです」

 12歳の時、フィリピンからアメリカにやってきたホセさん。2011年、新聞紙上で不法移民であることを告白した。なぜ、いま、告白することを決心したのだろうか。その理由をホセさんはこう語ってくれた。

 「私は、マンハッタンの高級マンションに住み、欲しいものは何でも買うことができます。それでも、私はウソの人生を生きていたのです。こんなにも多くの若者が不法移民であることを告白している時に私は隠れて怖がっているのがひきょうだと思ったのです」

 成功の陰にあった苦しみ。実は、アメリカには不法移民が1100万人もいるのだ。ホセさんを動かしたのは不法移民の若者たちだった。その一人のウェンドリンさん(19歳)を訪ねた。彼女も6歳の時にペルーから両親に連れられてアメリカに来た不法移民だ。ペルーを旅立った日の空港での写真を手に、彼女は「これから何が起きるのかまったく分かっていませんでした」と、語ってくれた。

 16歳になったころから、不法移民である事実が、次々と彼女の生活に重くのしかかってきた。

 「友達が私に聞くようになったんです。『何で運転免許を取らないの?』って」

 身分を証明するものがないウェンドリンさんは、運転免許を取ることができない。高校の卒業旅行ではカリブ海のバハマに行くはずだった。しかし、彼女にはパスポートもないのだ。そのとき、こんな事があったという。

 「友達の祖母が私がお金がないから行けないのではと心配して、私の分の旅費も払ってくれると言ってきてくれたのです。でも私は『ペンシルベニアで家族の婚約を祝う会に行かなければならない』と、ウソをつきました。小さなウソの積み重ねが本当に悲しくて心が傷ついていきました」

 そして、不法移民であることは彼女の夢さえも奪っていった。常に高校での成績がトップクラスだったというウェンドリンさんは、出願した13の大学すべてに合格した。しかし、奨学金の申請ができないため希望する大学には行けず、最も学費が安い短大に進学せざるをえなかったのだ。ついに、彼女はこの現状を打破するためにある行動に出た。

 「私はオバマ大統領に手紙を書きました。『ドリーム法を成立させてください』と」

 2年前、オバマ大統領は学歴など一定の条件を満たした不法移民の子供たちに在留資格を与えるというドリーム法の成立を目指した。演説で「アメリカは移民の国だ。アメリカの理念のもと暮らしたいというのであれば誰でも歓迎する」と語っていたオバマ大統領。不法移民になることを自ら選択したわけではない、子供たちを救おうという法律だったが、野党・共和党の反対で法案は否決された。ウェンドリンさんは、このもどかしい状況に「私たちはアメリカの出身ではないけれども、この国の役に立ちたいのです。そのために、教育を受ける機会を与えてほしいのです」と、心情を吐露した。

 また、移民をとりまくアメリカの現状に、ホセさんがこう苦言を呈した。

 「アメリカの移民法は非生産的で、時代遅れで、不公平で、この国の現状にそぐいません。この国を作っているのは移民なのです」

 いま、多くの不法移民の若者がドリーム法の成立を各地で訴え始めている。彼らの「夢」はかなうのか、11月の大統領選挙の結果が大きなカギを握る。