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英総選挙の行方は 読売新聞編集委員が解説

2015年5月1日 20:59

 注目ニュースや話題を「読売新聞」の専門記者が解説する『デイリープラネット』「プラネット Times」。1日は「イギリスの総選挙」をテーマに、伊熊幹雄編集委員が解説する。

 イギリスの総選挙の投票が今月7日に行われる。最新の世論調査では、キャメロン首相の与党・保守党も野党の労働党も過半数に届かない情勢だ。一方、スコットランドの独立を求めるスコットランド民族党が第3位に躍進するもようで、選挙後は情勢が不透明となっている。

 イギリスは元々、「二大政党制の国」と言われ、保守党と労働党のどちらかが過半数を制して政府を作った。小選挙区制で勝ち負けがはっきりするので、日本はイギリスを手本にして今の選挙制度を作ったほどだ。

 イギリスはサッチャー氏やブレア氏のように長期政権を生んだ国として知られる。第二次世界大戦後では、どの政党も過半数に届かなかったというのは2回しかなく、そのうちの1回が前回の2010年だった。今回再び同じことになると、二大政党制は事実上崩壊したということになり、「イギリス政治の危機」とも言える。

 現在のキャメロン首相に人気がないという側面もあるが、今回の選挙では、海外では無名だった女性指導者が突然現れて話題を独占してしまった。その指導者の名はスコットランド民族党党首のニコラ・スタージョン。

 「スコットランドの女王」と呼ばれるスタージョン党首は44歳と若く、元気で歯切れがよい。母の影響で10代で民族党に入党したという筋金入りで、スコットランドなまり丸出しだが、スコットランドの人たちは元々、イングランドが嫌いで反中央志向が強いので、地元出身の女性リーダーが出てきたということで熱狂的な支持をしている。彼女の出現によって、キャメロン首相も労働党のミリバンド党首もかすんでしまった。

 スコットランドは去年9月、独立を問う住民投票で話題になった。この投票では反対55%、賛成45%で、独立賛成派は敗れた。しかし、ここがイギリスの小選挙区制の面白いところで、小選挙区で勝つには45%で十分で、スタージョン党首は独立賛成票をがっちり固め、しかも上乗せする勢いなので、スコットランドでは圧勝する情勢となっている。スコットランド民族党はスコットランドにある59選挙区のうち、50ほどは取るのではないかと予想される。

 スタージョン党首の最大の公約はキャメロン政権の打倒だ。前回選挙で保守党は過半数に届かなかったが、自由民主党との連立で過半数を制した。ところが、目下の予想で今回の選挙を占うと、保守党も労働党も過半数に届かず、50議席が予想されるスコットランド民族党が決定的な役割を持つことになる。

 一方、労働党は「絶対に連立は組まない」と言っているので、連立政権はないが、労働党は単独過半数にならないので閣外協力を取りつけないと、少数与党政権も作れない。つまり、選挙後はスタージョン党首が何を考えているか次第でイギリスの首相が決まってしまう。こうなると、選挙後の政治は大混乱になってしまうが、イギリスの政治学者の何人かは「選挙より、その後のほうが面白いぞ」と語っている。

 ただ、イギリスには「エリザベス女王」というタイムリミットがある。女王は選挙から20日後の5月27日に、議会で「クイーンズ・スピーチ(女王演説)」をすることになっている。実はこのスピーチは新首相が書かなくてはならないので、この日までに首相が決まっていなければならない。イギリスでは女王が新首相を任命する。以前は女王の意向も役割を果たしたが、今回はまず、政治家たちが話し合って、とりあえず誰が組閣をするのか政党間で決めなければならない。

 イギリス外交にも影響が出そうだ。キャメロン政権でもウクライナ問題や過激派組織「イスラム国」対策に消極的だったが、選挙後はさらに内向きになるだろう。イギリスは核兵器保有国だが、実はこの核兵器は潜水艦に搭載され、スコットランドに基地がある。時期的には新モデルに更新する時期なのだが、スコットランド民族党は「絶対にダメだ」と言っているので、イギリスでは今後、核兵器をどうするかという問題も重要になる。

 アメリカは「イギリスが核兵器廃絶なんてとんでもない」という立場を取っていて、今週、安倍首相がアメリカ議会で演説したが、イギリスが頼りにならないので日米同盟が重要になるという側面もある。

 イギリスにも、そろそろ「変化の時」が必要なのかもしれない。