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中国の切り札「海と陸のシルクロード構想」

2015年5月15日 15:00
中国の切り札「海と陸のシルクロード構想」

 中国ではいま、習近平政権が掲げる大規模インフラ投資プロジェクト「海と陸のシルクロード構想」が進んでいる。そのプロジェクトで活気づくある地方都市を取材した。

 上海市政府が4月、外国メディア向けに取材ツアーを組んだ。行き先は、中国・浙江省の地方都市「義烏」。“中国の工場”と呼ばれるこの町は、世界でも有数の日用品の卸売市場があり、世界各国のバイヤーが買い付けに来る。

 営業面積550万平方メートル(東京ドームの約120倍)の市場には、約7万5000もの店舗がある。販売している商品も、おもちゃやアクセサリーから雑貨品まで「手に入らないものはない」と言われている。

 この市場の一番の魅力は「価格の安さ」だ。南米から来たバイヤーによると、ここで仕入れたおもちゃは、自分の国では仕入れ値の倍以上の価格で販売できるという。アルゼンチンのバイヤーはこう話す。

 「ドローンやそのほかのおもちゃを買いに来た」「ここは安い。自分の国では2倍か3倍かで売るよ」

 当局が、この義烏を外国メディアに案内するのはある狙いがあった。実は、義烏を起点とする鉄道は、スペインのマドリードにまでつながっている。いま、中国が国を挙げて大々的に宣伝したいのが、去年開通した貨物鉄道だ。習近平政権が推し進める“一帯一路”政策、いわゆる「海と陸のシルクロード構想」の一部とされているもので、その走行距離はなんと1万3000キロ。ロシアやドイツ、フランスなど8か国を経由し、スペインのマドリードまでを21日間で結ぶ。

 義烏では、日用品などを輸出する際、今までの輸送手段のほとんどが海上だった。しかし、この鉄道ができたことで、中央アジアやヨーロッパ方面への輸送の選択肢が増え、所要時間、コストともに削減できるという。

 鉄道会社の担当者「鉄道が、義烏に与えたメリットは、商売人たちにひとつの選択を提供しました。海運は遅すぎ、航空便は料金が高すぎます」「スペインに行く場合、鉄道なら海運に比べ、3分の1の時間を削減できます」

 経済成長率が年々落ち込み、今年の目標を7%前後とした中国。景気が減速傾向の中、このインフラ整備事業には義烏だけでなく、中国全土の地方政府が期待を寄せている。

 義烏市共産党・李一飛書記「“一帯一路”政策によって、各省には発展のチャンスが提供されます。関係国にとってもいいチャンスだと思っています」

 もちろん民間もこのインフラプロジェクトに期待を寄せている。義烏市の郊外で日用品を作っている工場では―

 一帆・陳副総経理「(商品を手に取り)これは中国国内にも売っていますが、日本や韓国にもよく売れています」

 現在は、日本や韓国に向けた商品が主力ということだが、ここ数年、ヨーロッパに向けたキッチン用品の生産にも力を入れている。このタイミングで鉄道が通ったことは、会社の事業に大きくプラスに働くとみている。

 一帆・陳副総経理「ヨーロッパ周辺のいろいろな国が、今、私たちの会社と取引関係があります。この“一路”の資源をよりよく利用するために、企画や活動などを工夫したい」

 景気の減速感が漂う中、官民ともに期待を寄せる「海と陸のシルクロード構想」。年内の設立が進められているAIIB(=アジアインフラ投資銀行)の融資先のひとつともされている。中国国外からは、「投資が回収できるほどの需要があるのか」など、疑念を投げかける声も聞かれるが、中国内ではそういった声が全くないかのような盛り上がりをみせている。