VW排ガス不正 “裏切られた”人々のいま
フォルクスワーゲンが排ガス検査を不正に逃れていた問題について、ユーザーや不正を知らずに販売していたディーラーは事態をどう見ているのだろうか。問題のきっかけとなったアメリカで取材した。
■“正しい買い物”と信じていたはずが―
ニューヨークに住むアマンダ・イーゼルさんは、3年前に初めて買ったマイカーが渦中のフォルクスワーゲンのディーゼル車だった。
イーゼルさん「環境に良いことをしていると思ったし、燃費のいい車を選ぼうと思ったんです」
“ディーゼル車はガソリンよりも燃費がよく、排ガスはきれいに処理されていると信じていた”というイーゼルさん。毎月570ドル(約6万8000円)のローンを払い続けているが、不正の発覚で車への愛着は冷めてしまった。運転しながらイーゼルさんが語る。
「正しいことをしたと思っていたのに、そうではなかったと分かり、がっかりしています。この状況に失望しました」
■不正はこうして見つかった
不正に気づいたのは、アメリカ東部・ウェストバージニア州の大学の研究チーム。そのテストの方法を見せてもらった。
ウェストバージニア大学 ダニエル・カーダー氏「これは路上で使用するための装置です」
見せてくれたのは、道路を走る際にマフラーから出る排気ガスを小型の装置に取り込み成分を分析するだけのもの。しかし、そこで発覚したのは基準の40倍もの排ガス。この研究チームにはユーザーからの問い合わせが相次いでいるという。
カーダー氏「走行性能にどういう影響があるか?燃費のいい、環境に良い車が欲しくて買ったのにどうしたらいいのか?と聞かれる」「解決はまだ先のことです。待つしかないのです」
■フォルクスワーゲン販売店は―
ユーザーの厳しい視線にさらされるのが販売店だ。取材したフォルクスワーゲンの販売店では、ディーゼル車の売り上げが約10%を占めていた。しかし、今は店内にディーゼル車はない。問題のディーゼル車は販売停止となったが、フォルクスワーゲンブランド自体に傷がついた中、売り上げの維持のため対策をとっていた。
フォルクスワーゲン販売店 トム・バッカーさん「既にフォルクスワーゲン車を持っている人に2000ドル(約24万円)の割引を提供します」「購入者には3年の無料整備もします」
このためか、客足は減っていないという。しかし、事態の大きさに不安ものぞかせる。
バッカーさん「思いやりを持って対応します。可能な限り対応しますが、限界もあります。その後は本社に委ねます」
■対応の見通しは立たず
不正が行われた車はアメリカだけで48万台。今月初めてフォルクスワーゲンの幹部が議会の公聴会で説明を行った。
議員「改修を終えるには、数年かかる見通しだということですか?」
フォルクスワーゲン米法人・ホルン社長「そうです。43万台を修理するとしたら、1台につき5~10時間かかります。つまり、最低でも1~2年はかかるということです」
フォルクスワーゲンの対応には見通しがついていない。
■失った信頼―「次はアメリカ車か日本車を」
一方、ディーゼル車に乗っているイーゼルさんは、修理を待たず、フォルクスワーゲン以外のメーカーへ買い替えることを検討している。
イーゼルさん「私は、次はアメリカ車か、日本車を買うつもりです。ドイツの車で最高の技術者が造った車だと思っていたけど、だまされただけでした」
アメリカでは少なくとも27の州が刑事責任を視野に合同捜査を始めたほか、ユーザーや投資家が損害賠償を求める集団訴訟手続きを始めており、経営への影響も懸念される。何より、失った信頼をどうしたら取り戻せるのか、その道筋はまだ見えてこない。