トランプ大統領が韓国国会で演説、どう見る
アジア歴訪中のトランプ大統領は8日午後、3つめの訪問先である中国・北京に到着した。これに先立ち、8日朝、韓国の国会で演説したが、この中で金正恩委員長に直接呼びかけ、「北朝鮮は地獄だ」などと表現した。この注目の演説をどう見るか―。
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印象的だったのは、金正恩委員長に「あなた」という表現を使って直接的なメッセージを送っていたこと。これまでもトランプ大統領は金委員長を何度か非難しているが、「ロケットマン」とか「明らかに狂った男」など子どもっぽい表現を使っていた。
ところが今回は、大人の表現でかなり厳しいことを言ったなと感じた。さらに、北朝鮮での強制労働や子どもが餓死している実態など人権問題も指摘したが、これは北朝鮮は160か国以上と国交があり、核ミサイル開発よりも人権問題に関心がある国もたくさんある。
そうした国際社会を引きつけて連携を求める狙いもあったといえる。北朝鮮はこのところ軍事挑発を控えている。そうした中でのこのトランプ大統領の厳しい演説は、金委員長も間違いなく注視しているので、この後どう出るのか見ていく必要がある。
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7日に開かれた、トランプ大統領を迎えての晩餐(さん)会。その晩餐会で出された料理だが、「韓国産の牛肉のカルビ」やマツタケを使った「釜飯」のほかに、エビを使った料理が出されている。メニューには「独島エビの和え物」と書かれていて、この「独島」というのは日本と韓国が領有権を主張する島根県の「竹島」のこと。
さらに晩餐会には元慰安婦の李容洙さんも招待されていて、こうしてトランプ大統領にハグを求めて、大統領が応じるという場面もあった。
こうした演出で、韓国側は領土問題や歴史認識といった面でも自国の主張をアピールしていた。露骨な感じがしてかえって外交的にはマイナスではないかという気がするが、韓国の大統領府関係者は、「日本と韓国の間には慰安婦や歴史問題がありトランプ大統領にバランスのとれた視野を持ってほしい」と話していた。
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日本でのトランプ大統領と安倍首相の仲の良さがあれほど報道されたうえ、日本と韓国の外交力の差については韓国のメディアからも批判の声が出ていたから、文大統領としては国内向けにアピールした面もある。
ただ、菅官房長官は「日米韓の緊密な連携に悪影響を及ぼすような動きは避ける必要がある」とコメントし、不快感を示した。韓国の対応をけん制する意味だが、さらには、日米韓の連携にほころびがでると一番喜ぶのは北朝鮮だということ。
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8日はこんなこともあった。トランプ大統領は8日早朝、北朝鮮との軍事境界線がある非武装地帯をヘリコプターで訪問しようとした。ところが、濃霧のために途中で引き返すことになってしまった。
過去にも、この非武装地帯には歴代のアメリカ大統領が訪れているほか、トランプ政権になってからもペンス副大統領やティラーソン国務長官らも訪れている。もし、トランプ大統領が訪れていたら北朝鮮を刺激することになっていたのは間違いないが、このタイミングで訪れようとしたのには、北朝鮮に対して強い姿勢を改めて示す狙いがあったといえる。
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トランプ大統領は、8日昼過ぎに韓国から中国に移動した。カギを握るのはこの中国。トランプ大統領のシナリオとしては、まず日本を訪問して対北朝鮮で仲の良い安倍首相と足場を固めて、韓国を交えて3か国の連携を確認する。
そして中国を巻きこむということだが、トランプ大統領はツイッターに、「韓国で国会演説の準備完了。このあと中国に。偉大な政治的勝利をとげた習主席との会談をとても楽しみにしている」と書いている。
韓国で演説する前にすでに気持ちは中国に向いているとも読み解ける。トランプ大統領のシナリオ通りに進むかどうかは、中国での会談の行方を見極めなければならない。