【ウクライナ】~諦めないオリンピックへの道~ 戦争下で“戦う”柔道選手を取材
3年目に入ったロシアによる軍事侵攻。戦争が長期化する中、ウクライナの柔道選手たちが10月から日本で合宿を行った。一方で、合宿に参加できない選手も。戦争下のアスリートが抱く思いと語った夢とは…。
■ロス五輪を目指して…ウクライナの柔道選手が東京・奈良で合宿
10月28日、“柔道発祥の地”講道館では13歳から25歳のウクライナの選手が練習を行っていた。彼らは、2028年に行われるロサンゼルスオリンピックを目指している。日本での合宿は、去年に続き2回目。戦争下でも、選手たちが練習できる環境と機会を得られるようにするため、ウクライナ柔道連盟が全日本柔道連盟に要請し、ウクライナの慈善団体「オリンピック・ドリームズ」協力の下、合宿は行われた。
日程は10月15日から今月1日までの18日間。東京と奈良、2つの拠点を行き来するハードなスケジュールだ。この日は「形」の練習が行われていた。
■柔道大国・日本での合宿…選手たちは確かな“手応え”
真剣なまなざしで指導者の話を聞く選手たち。多くの選手が、休憩時間になっても自主練習を続けていた。選手同士で試行錯誤しながら、教わったことを復習する。結局、1時間半行われた練習をほとんど休憩なしでやりきった。
合宿に参加した選手に話を聞いてみると、確かな“手応え”を感じているようだった。
17歳のアンナ選手は、東京と天理(奈良)で多くの日本人選手と戦い経験を積み、さら成長したと話し、表情は自信に満ちているようだった。
同じく17歳のセルギー選手も、「今日の練習をとても楽しみにしていたので充実しています。とても楽しいです」と、インタビューに少し緊張した様子だったが、うれしそうに話してくれた。
ハードな合宿スケジュールにも、選手たちの顔は生き生きとしていた。
■“安心して練習ができない”戦争下のウクライナ
選手たちに話を聞いていると、こんなことを話す選手も。
アナスタシア選手(21)「日本は爆弾が飛んでないから安全です。防空壕で避難しなくても大丈夫です。時間通りにご飯を食べ、時間通りに練習できます。心配することはなく、安全を感じています」
選手たちの故郷・ウクライナでは、現在もロシア軍が攻勢を強めていて、緊迫した状況が続いている。練習中も空襲警報が鳴り、警報が鳴っている間は練習を中断し、防空壕に避難しなければいけないという。そんな過酷な状況で日々、練習を行っている選手たちにとって、日本での合宿は一時的に戦争を忘れ、柔道に集中できる絶好の機会なのだ。
■合宿に参加できない選手も…本人にオンラインでインタビュー
一方で、合宿に参加できなかった選手がいる。デニス・トゥピツキー選手(24)だ。
トゥピツキー選手は、ウクライナ国内やヨーロッパの大会でも数多くのメダルを獲得している選手で、去年の日本合宿にも参加していた。
なぜ、今年は合宿に参加できなかったのか。
トゥピツキー選手は、ウクライナ国家親衛隊に所属。普段は、軍の任務につきながら合間をぬって柔道の練習に打ち込んでいる。今年は、ウクライナ国内の緊張から合宿に参加できなくなってしまったのだ。
トゥピツキー選手は、日本テレビのインタビューに応じてくれた。
――合宿に参加できないと聞いた時、どう感じましたか?
トゥピツキー選手「すごく落ち込みました。日本での合宿は、柔道のスキルを高めることだけではなく、日本の文化を学んだり、人生で役に立つこともたくさん学ぶことができる機会です」
日本での合宿は、技だけでなく日本文化を肌で感じることができる特別なものだと話したトゥピツキー選手。
トゥピツキー選手「大好きなこと(柔道)に集中したいです。柔道は私にとって、ただのスポーツではなく、私の人生です」
■トゥピツキー選手についてチームメートは…
去年の合宿にも参加していたアナスタシア選手は、今回、不参加となってしまったトゥピツキー選手についてこう語る。
アナスタシア選手「デニス(トゥピツキー選手)は選手として、そして人間としてもとても勇敢です。私は来日できてうれしいですが、彼がいないと物足りないです」
来日がかなわなかったトゥピツキー選手。柔道選手としての夢について尋ねると…
トゥピツキー選手「ロス五輪は一番の目標でもあります。子どもの頃から柔道をやり始めて、オリンピックの舞台に立ちたいと思っていました。しかし、今のウクライナの状況…空襲警報の中で練習を行ったり、トレーニングの時間が不足していたりしているので、夢を実現できるか分からないです。でも、実現できるようにあらゆることをします。小さなことからはじめて大きな目標まで目指します」
夢は「オリンピック出場」と笑顔で語ったトゥピツキー選手。
4年後のロサンゼルスオリンピック出場に向け、どんな状況でも練習を続けていくという。