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胡錦濤前主席“退場”直前の様子明らかに 習氏側近が胡氏の書類没収? 習氏自ら指示する様子も

2022年10月25日 21:03
胡錦濤前主席“退場”直前の様子明らかに 習氏側近が胡氏の書類没収? 習氏自ら指示する様子も
胡氏が書類に手をやると栗氏が慌てて制止∕ABC Spanish Daily Newspaper

中国共産党大会を胡錦濤前国家主席が中座した。習近平国家主席との確執など様々な憶測が飛び交う中、離席直前の壇上の様子が明らかになった。幹部名簿とみられる書類を確かめようとした胡氏が習氏側近らに阻止される様子も。決定的場面を捉えた映像から背景を読み解く。

■胡錦濤氏、超異例の“退場”直前に何があったのか?

10月22日、中国共産党大会の閉幕式の最中に胡錦濤前国家主席が退席する極めて異例な場面があった。すでに世界中のメディアで映像などと共に報じられているが真相は謎に包まれている。

胡氏が抵抗するような素振りを見せるなど尋常ではない様子に、何か異変が起きたのではとの憶測が絶えないが、会場にひと足早く入った一部の海外メディアがその直前の様子をカメラに収めていた。

■習氏側近が胡氏の資料を取り上げ? 習氏がスタッフに指示

シンガポールのテレビ局CNAや、スペインメディアABC Spanish Daily Newspaperが胡氏が会場を後にする少し前からの様子を動画や写真で報じている。これらを総合すると以下のように描写できる。

まず、習近平国家主席の隣に胡錦濤前主席、さらにその隣に政権ナンバー3(当時)で習氏側近の栗戦書全人代常務委員長が着席している。

栗氏が胡氏の前に置かれた書類の上に赤い表紙のようなものを被せ、胡氏の耳元でしきりと話しかけている。胡氏に書類を見せないようにした上で、何かしきりと説明しているように見える。

しかし、胡氏はなおも赤い表紙をどかして中の書類を見ようとしたのか、栗氏があわてて制止するような素振りを見せる。その様子を習氏が見ている。

続いて栗氏は右手で胡氏の手を掴み、左手で書類を押さえつつ、自分の方に引き寄せる。胡氏に書類を見せないよう取り上げたような格好だ。同時に、習氏は左を振り向き何か言葉を発している。

この後、栗氏は取り繕うような笑みをたたえてしきりと胡氏に話しかけ、一方では、引き寄せた書類をしっかり両手で押さえる。栗氏の隣から政権ナンバー5の王滬寧・中央書記局書記(当時)が横から割って入るような素振りを見せる。映像では制止するように手を振る様子も。

これが胡氏と栗氏のどちらに向けられたのかはわからない。政策ブレーンの王氏は習氏の信頼が厚く、今回も最高指導部に残ったものの、7人の中では習派カラーは比較的薄い方だ。

そしてけげんな表情の胡氏の背後に男性が現れる。男性は習主席の職務を補佐する「中央弁公庁」の副主任。習氏から何か指示を受けているように見える。

さらに別の男性スタッフも登場。習氏は自分の前に置かれた書類を指さしながらスタッフに何ごとか指示を与えているようだ。

この後、スタッフは赤い表紙をどけて書類について胡氏になにごとか説明しようとするが、栗氏がすぐにまた表紙を被せスタッフに何かささやく。

■習主席は素早い動作で胡氏の動きを封じ…習氏側近は額に汗

これら一連の出来事は、外で待たされていた各国の記者団が会場に入った直後に起きた。入場時、長い行列ができたが先に入ったメディアが異変の幕開けを捉えていた。

続きはNNNの画像と共に紹介する。直前の現象を踏まえると従来と見方が少し変わってくる。

今度は胡氏が習氏の前にあった書類を引き寄せようとする。すると制止するように習氏の手が素早く書類を押さえた。まるでかるた取りのようだ。

すると栗氏が元々、胡氏の前に置かれていた書類をスタッフに手渡し、スタッフはそれを胡氏に示して何事かをささやく。栗氏の右手は胡氏をなだめるように後ろに回され、その様子を習氏が見守っている。

胡氏の動きがおさまると習氏は一旦、正面に向き直る。胡氏が腕を抱えられるように立ち上がると、習氏は再び見送るように胡氏の方に向き直る。

しかし、胡氏はなおも外に連れ出されることに抗うような仕草を見せる。今や後ろの壇に居並ぶ幹部たちも視線を注ぎ、栗氏はハンカチで顔を拭うが習氏は表情を消している。

胡氏はスタッフが抱えた書類をその場でめくって見ようとする。しかしスタッフは胡氏の手元から書類を引き離し、会場外へと促すような動きをみせる。

会場を立ち去る前に胡氏はまず習氏に何事か言葉を放つ。習氏は少し身体を傾けただけでこれに応じる。胡氏と関係が深い李克強首相はその様子を見守る一方、同じく胡氏に近い政権ナンバー4の汪洋・全国政治協商会議主席(当時)は、不自然なほど正面を向いたまま神妙な表情を保っている。

この時すでに李・汪両氏は慣例としての定年を前に最高指導部から外れることが確定していた。最後に胡氏は李氏に肩を叩き会場を後にした。

■想定外の展開に…胡錦濤氏が確認したかったものとは?

このように見ると一連の異変は胡氏から書類が取り上げられたことから始まっているように見える。そして胡氏は何度阻止されながらも書類を見ようとしていた。

胡氏は一体、何を見ようとしていたのか。胡氏を連れ出す際にスタッフが持っていた書類の画像を拡大してみると、人名が並んだ名簿とみられるものが含まれている。

閉幕式では4つの議題が順番に処理されていったが、各国メディアが入ったのは、ちょうど最初の議題が終わった後だ。

最初の議題は中国共産党をリードする幹部205人の「中央委員」などの選出が終わった直後。上位に行くほど人数が絞られるピラミッド型の集権体制が取られる中国共産党で、トップ7人の最高指導部に入るには、まず2つ下位の「中央委員」に選ばれることがベースとなる。

ただ、中央委員の選出ですでに番狂わせが始まっていた(胡錦濤氏にとってだけかもしれないが…)。最高指導部に留任するとみられていた李克強氏と、汪洋氏が名簿から漏れたのだ。

2人は共に古くから胡氏から目をかけられてきたが、引退年齢とされる68歳に達する前に留任の道を断たれた瞬間だった。

こうした中で胡氏は耳を疑う決定が行われたことに衝撃を受けて自らの目でその名簿を確認したかったのではないか。

■平然と退場を命じた? 習主席と他の幹部の表情が語るもの

胡氏の“退場劇”をめぐり様々な憶測は出ているが、中国側から真相が明らかにされることはないだろう。中国国営新華社通信は公式ツイッターで「胡氏の体調不良」と英語で発信。ツイッターは中国国内では原則アクセスできないため、対外向けとみられる。

印象深かったのは最高幹部たちが一連の退場劇で見せた表情だ。レオナルド・ダヴィンチの名画「最後の晩餐」の中に描かれた人々のようにそれぞれの心境がにじみ出ている。

胡氏は1人、驚き狼狽し、やがて全てを悟ったかのように去って行く。習氏の側近、栗氏らはやや落ち着かない様子。

一方、胡氏に引き上げられた李克強氏や汪洋氏は、すぐ隣で起きている胡氏の異変が目に入っていないかのように神妙な表情を保っている。

この事態を予期していたのか。最高幹部の後列に控える幹部たちは何事かという表情でじっと見つめている。そして退場劇のもう一人の主役、習近平氏は終始平然とした表情を通していた。

そして胡氏が会場を出て約30秒後、何事も無かったかのように次の議事を読み上げ始めた。

このわずか数分の間に習近平氏や最高幹部たちが見せた表情に、3期目の習近平政権の姿が凝縮されているように見え、うそ寒い気持ちになった。国際社会はこの政権とこれから5年、あるいはさらに長期間、向き合わなければならない。


NNN中国総局 富田 徹