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気候変動難民 移住迫られるアラスカの人々

2019年12月12日 16:20
気候変動難民 移住迫られるアラスカの人々

移住を迫られているアラスカの先住民たち。

先住民「我々は…気候変動難民なんだよ。移住するほかに道はないんだ」

11月。この時期にはもう凍っているはずの海岸線。いまだに波が打ち寄せています。

アラスカ・キバリナ村の住民「今年は水ばかりで氷がほとんど見当たらないです」

海が凍ることで高波の浸食から守られてきたこの土地。陸地がどんどん削られている状況だといいます。

こちらは26年前に撮影された海岸線の映像。現在と比較すると四角い小屋の前の土地が大きくえぐられてしまっています。この家の隣は、海岸線ギリギリのところ。たくさんの大きな石で補強し、やり過ごしています。

この村で生まれ育ったエノックさん。

エノックさん「(Q:浸食があの家に到達するまで何年くらいかかりそうですか?)おそらく5年くらいで崩れてしまうね」

ここはアメリカ・アラスカ州の“キバリナ”。先住民族を中心におよそ500人が暮らす小さな村です。ほとんどの住民が狩猟や漁業で生計をたてています。

釣り人「暖かいね」「全然寒くない」

海が凍る時期は年々遅くなり、釣りのできる期間が短くなっているとのこと。今はアザラシ猟が本格化する季節。海が凍っていれば遠くの沖まで氷の上を移動し、猟ができたといいますが、今は陸から獲物を探すことしかできません。また氷の上はバギーで移動するのが常日頃ですが、バギーが氷を突き破って落下する事故も起きています。凍っている場所でも氷は薄い状態。

移住先として用意された場所があります。海に面した村からおよそ10キロのところ。アラスカでは少なくとも12の村がすでに移住を決めたり、検討したりしています。


【解説】日本テレビ映像取材部カメラマン 小川達大


――まさに先月、小川さんが取材されたということですが、いかがでしたか。

VTRの中でも、自分自身を気候変動難民だと語っていたエノックさんですけれども、人々が温暖化を信じようが信じまいが、この村で起きている様々な変化は事実であるということを強調していたのが印象的でした。

また難民という言葉自体も非常に衝撃を受けたのですが、戦争や紛争といったものが原因ではなく、環境を理由に住み慣れた場所を離れなければならないことに対しては、村の方たちはやはり様々な思いを抱えているようでした。

若者を中心に、移住先に行けば危険も少なくなり、新しく村も作られて快適な暮らしができると歓迎する声がある一方、やはり生まれ育った環境から離れて独自の文化を守れなくなる可能性があるのではないかということでこの村を離れたくないと語る村人もいました。


――今、COP25が開催中ですけれども、この村の人々はどう思われているのでしょうか。

いろいろな方にCOPについて何か期待することはありますかと尋ねましたが、自分たちの声は小さいからとあきらめのような感情も垣間見えました。村の人々は、日々変化する環境の変化に適応しながら今を生きていくということに必死で、温暖化対策をしてほしいというより、今すでに起きている問題の解決の手助けをしてほしいという気持ちが強いのではないかと感じました。


――小川さんがそもそもこの地球温暖化について取材しようと思ったきっかけはなんですか。

それは今年9月に気候変動に関する政府間パネル、IPCCという機関が報告書を出しました。(ディスプレイを指して)こちらがその報告書ですが、その中で今後対策がとられなければ2100年には1メートル近く世界の海面が上昇するという発表がされ、それに驚いたのがきっかけです。

同時にこの海面上昇の報告書の作成にも関わっているアメリカの研究機関が、日本でも海抜の低い地域は高波や洪水で、海面上昇により水没する危険性があるという推定を出していて、これまでは南太平洋の島々など日本から離れた場所の出来事という印象だったのですが、いずれ自分の身にも起こる可能性がある、他人事ではないということを日本の視聴者の方に伝えたいと思いました。

今回取材したアラスカは、小さい村の出来事ですが、すでにこういう人たちがいるという事実を伝えることで、視聴者の方が何かしらの行動をするきっかけになってもらえれば大変うれしく思います。 


――来年からは温暖化対策を具体的に取り決めたパリ協定が実施されますが、トランプ大統領は協定からの離脱を正式に通告しました。アメリカ国内ではどのように受け止められているのでしょうか。

まずメディアですが、主要メディアの多くはネガティブなとらえ方をしています。スウェーデンの16歳の少女の環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんをはじめとして、温暖化対策への行動を求める機運が高まっている中で、やはりこういった協定の離脱というのは、この流れに逆行することをしていると批判的な論調で報じています。

一般の人々ですけれども、私はニューヨークに住んでいたのですが、都市部ではリベラルな考え方を持つ方が多く、例えば紙ストローは日本に比べてだいぶ扱われる店が多いです。ファッション業界でもリサイクルの商品や自然由来の素材を使ったものが流通しているなど、環境に負荷をかけないライフスタイルが定着しています。そういった場所なので、トランプ政権の環境に関わる政策については、批判的な反応が目立ちますね。

一方で、就任1年のタイミングでも取材したのですが、地方を中心に石炭などが産業の中心になっている場所ではトランプ氏の支持者も多く、そういった場所ではパリ協定の縛りで仕事を失ってしまうということで、一方的な不利益を被るのではないかと考えている人々もいます。ですので、協定離脱に前向きな方がいるのも現状ですね。

来年アメリカ大統領選挙を迎えますが、野党民主党の大統領候補の多くは、もし当選した場合はパリ協定への復帰を検討すると示している候補もたくさんいて、来年の大統領選挙でもこの気候変動問題は重要なテーマの一つになりそうです。

【the SOCIAL futureより】