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日本酒を“世界酒”に~フランスで若者奮闘

2020年1月11日 19:31

近年、海外で人気が高まっている日本酒。フランスで、現地の米を使い本物の日本酒作りに挑戦する若者たちを取材した。

◆パリの「SAKE」は雑穀蒸留酒?

去年9月、フランス・パリ郊外のとある建物に、日本人から来た2人の若者の姿が。実はここは、酒をつくる「酒蔵(さかぐら)」。2人は、フランス産のコメと水を使って日本酒を造るという夢を抱いてフランスにやってきた。

稲川琢磨さん「酒造りに向けて走れるという感じ。ワクワクします」

2人はともに31歳。経営を担当するCEOの稲川琢磨さんは元大手外資系コンサルタント会社の社員、そして、杜氏(とじ)・CTOの今井翔也さんは東大卒の酒職人という異色の経歴の持ち主だ。“日本酒を世界に広げたい”として、3年前、酒を造るベンチャー企業『WAKAZE』を立ち上げ、今回、フランスに乗り込んできた。

世界的にも知名度が高まっている「日本酒」。しかし、パリの中華料理店で「SAKE」と注文すると……

NNNパリ・川上幸治記者「刺激的な味がしまして、蒸留酒特有の味がします。日本酒とは味が違うようです」

出てきたのは雑穀でつくった蒸留酒。まだまだ正しく認知されていない。

◆周辺住民の反対、工事の遅れ…難題次々

フランスの人にも本物の日本酒を楽しんでもらいたいと意気込む稲川さんと今井さん。しかし、酒造りを始める前からトラブルが。

「えっ何これ!?」「95パーセント!?」

原料として選んだフランス産のコメの精米の割合が、指定より高かったのだ。

さらに、周辺住民が排気設備の設置に反対したり、電気工事が遅れたりするなど、次々と難題に直面。クリスマスまでに販売を開始するという目標達成は難しくなり、稲川さんは、年末に予定していた一時帰国を取りやめる決断をした。

東京には、妻と、去年生まれたばかりの長女が……

稲川琢磨さん(31)「『お父さん、がんばってるよ』と言えるように結果を出したい」

トラブル続きの酒蔵だが、11月中旬、思わぬ朗報が。周辺住民から廃棄設備設置の合意を得られたという連絡だった。

「いい酒つくろう」

◆酒造りスタート…またもトラブル

そして、ついに酒造りがスタート!炊き上がったコメにフランス産の酵母を加え、発酵を開始。日本酒造りの大事な工程だ。

しかし、翌日、またトラブルが。

今井翔也さん「(温度が)だいぶ高いね。酵母が元気になりすぎるのと、ダメージが大きい」

発酵には適切な温度が重要だ。電力不足で冷却装置が使えないため、氷をつかって冷やすことに。今井さんが、泊まり込みで温度変化を見守った。

今井翔也さん(31)「おいしいお酒を造るまでは(日本に)帰らないと僕は決めたので」

◆黄金色に輝く酒…出来栄えは?

そして、酒造り開始から40日。ついに最初の酒が完成した。黄金色に輝く酒を、緊張した面持ちでくみ上げる今井さん。早速、味を確かめる。

今井翔也さん「ちょうどいい。バランスがとれている」

出来栄えは上々のようだ。

稲川琢磨さん「僕、泣くと思ったんですけど、泣かなかったですね。これはゴールではなくて始まりだから、わくわくしてる」

試行錯誤を重ねて造ったフランス産の「日本酒」。若者たちの挑戦は、始まったばかりだ。