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2020年8月31日 16:21

徹底管理15泊 バンコク特派員の隔離生活

徹底管理15泊 バンコク特派員の隔離生活
(c)NNN

新型コロナウイルスの影響で、世界中で続いている入国制限。経済活動の活性化に向け、徐々に制限を緩和している国もある。感染拡大を抑え込んでいるタイは、7月から入国制限の一部を緩和。ビジネス目的での入国も再開された。日本一時帰国から帰任することになったNNNバンコク支局の森鮎子記者が、タイ入国後の隔離生活をレポートする。


■空港の厳戒態勢

コロナ禍で、赴任先のタイ・バンコク支局から一時帰国して約4か月。7月31日、非常事態宣言下にあるタイに戻ることになった。

海外からの外国人に対し厳しい入国制限を設け、国内感染をゼロに抑え込んでいるタイ。一時は8千人近い日本人がタイへの入国待ちという情報があり、年内の帰任は難しいかと思ったが、駐日タイ大使館との1か月近い交渉の末ようやく入国許可証を得て、帰国者用の特別便でスワンナプーム国際空港に到着した。

特別便はほぼ満席だったが、密を避けるため、機内で「タイ人以外」の搭乗客から降りるようアナウンスがかかる。飛行機を降りると、普段と全く様子が異なり驚いた。防護服にマスク・フェイスシールド姿の係員が大勢待ち構え、ものものしい雰囲気だ。

搭乗客は全員、入国審査の前に、通路に社会的距離を保って設置された椅子に座るよう促され、入国許可証のほか出発前72時間以内に発行されたPCR検査の陰性証明書など、大量の書類の確認が行われた。

それが終わると、係員の指示に従い次のチェックポイントへ。検温、空港からホテルまでの車の手配ができているかの確認など、複数のプロセスを経てようやく入国がかなった。

普段何かといい加減なところもあるタイだが、水際対策の徹底ぶりには驚かされた。


■徹底管理の隔離生活

空港からは、専用車で2週間の隔離生活を送るホテルへと移動する。

タイ政府から隔離施設として認可を受けるには、感染防止対策の徹底や病院と提携し看護師らが常駐することなど、様々な条件が求められる。厳重な管理下におかれた15泊の隔離生活がいよいよ始まった。

今回お世話になったのは、5月にオープンした日系ホテル「ソラリア西鉄ホテルバンコク」だ。感染対策で一般客が使う入り口は使えず、スタッフが利用する搬入口でチェックインを済ませる。ホテル側のスタッフは、全員が防護服姿の徹底ぶりだ。

敷地内に入る前に、履いていた靴を脱ぐように求められ、使い捨てスリッパに履き替えた。大量の手荷物は消毒が済んでから部屋に運ばれるということで、外からウイルスを持ち込まないよう徹底していた。

部屋に入りまず目についたのは、バンコク中心部の景色を一望できる大きな窓だ。開閉できないので外の空気は吸えないが、後々、部屋から一歩も出られないストレスと闘う際、この景色を見るだけで多少明るい気持ちになれた。

室内は、細かいところまで感染対策がとられていた。たとえば、マグカップやグラスはなく、代わりに使い捨ての紙コップが用意されている。ソファや枕は、中までウイルスがしみこまないようカバーの内側をビニールで梱包してある。ソファに座ると、くしゃくしゃとビニール特有の音がした。

最初の1週間は、全く部屋の外に出られない。朝晩に完全防備のスタッフが検温に訪れるが、感染防止の観点から長話もできず、孤独との戦いだ。心なしか独り言が増えたような…。2日に一度部屋の清掃が入るが、清掃スタッフも防護服や手袋をしている。約20分の掃除の間は、邪魔にならないよう部屋の隅で待機した。

代わり映えのしない日々の唯一の楽しみが、食事だ。前日夕方までに、翌日の3食をオンラインメニューから選び注文する。パッタイなどのタイ料理のほか、和食も充実していた。朝から納豆定食を食べ、タイにいることを忘れそうになることも。

食事の受け取りにも感染対策がとられている。スタッフがプラスチック容器に入れた食事を運んできて、ドアの外に設置された小机に置く。ベルが鳴ってすぐにドアを開けるもスタッフの姿は無く、「忍者?」と思うほどの動きの速さ。無駄な接触を控えようという配慮を感じた。

知人から「差し入れしようか?」と連絡がきた。外部からの差し入れは、お菓子やカップラーメンなどに限り許される。病院の指導で、感染や食中毒のリスクのある弁当や生鮮食品は認められておらず、ここまで厳格なルールがあることには驚いた。

隔離生活中、5日目と13日目の2度にわたり、PCR検査を受ける。ホテルの外に出てしまうことを防ぐためか、宿泊者だけでエレベーターには乗れず、スタッフの引率で搬入口に設けられたPCR検査所へ向かう。

巨大なプラスチックの仕切り越しに検査を受け、翌日電話で陰性だと告げられた。陽性の場合は提携する病院に搬送され入院の措置がとられる。

滞在7日目。検査で陰性の場合のみ、この日から1日45分間だけ屋上のスペースを利用できるようになった。宿泊者同士が密にならないよう人数制限があり、予約制で利用する。気温が下がる夕方は人気が高いので午前中に予約し、スタッフの引率で屋上へ。部屋の外に出られずストレスがたまっていたので、「久しぶりの外だ!」と思わず歓声を上げた。

体に風を感じながら、運動不足解消のためウオーキングをする。私以外にも数人の宿泊者がいたが、同じ考えのようで、一定の間隔をあけ黙々と歩いていた。本来は眺望を楽しみながらくつろぐスペース。30秒もかからず一周できる場所を、何十周もグルグルとハムスターのように歩き回った。

屋上に出られるようになると気分転換もでき、部屋でじっと過ごしていた時間の流れが急に早く感じられるようになった。


■コロナ禍の日常

8月15日、チェックアウトの朝。ホテル側から、隔離期間と部屋番号、私の名前が刺繍されたテディベアを記念にいただいた。滞在中、不自由が多い中でも気持ちよく過ごせるようにとの、スタッフの様々な心遣いに救われた。改めて感謝の気持ちでいっぱいに。

そして、待ち望んでいた外の世界へ。目の前に広がる、バンコクの日常風景。あたりに立ちこめる屋台料理の匂いや、走り回るオートバイを見て、「タイに帰ってきたんだ」と初めて実感した。

タイは非常事態宣言が続き、観光客受け入れ再開のめどもたたず、経済は危機的状況に陥っている。国全体に新型コロナによる暗い影響が広がっている状況だ。

数多く進出する日系企業への影響も大きく、タイへの入国を目指すビジネスマンもまだ多く足止めを食らっている。一足先に現地に戻れたバンコク特派員として、タイの現状と今後の課題を取材し発信していきたい。