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たびたび登場 金正恩総書記の“ジュエ氏とみられる娘”は後継者? 否定的な見方も…

2023年12月29日 9:00
たびたび登場 金正恩総書記の“ジュエ氏とみられる娘”は後継者? 否定的な見方も…
北朝鮮空軍の飛行部隊を視察(23年11月30日・朝鮮中央通信)

ジュエ氏とみられる金正恩総書記の娘について、韓国政府の見方が変化している。これまで、後継者かどうかについては慎重だったが、政府高官から「後継者の可能性がある」との発言が相次いでいる。一方で、専門家の間では、後継者説に否定的な見方も根強い。

■対北朝鮮担当の韓国閣僚「後継の可能性も排除できない」

2023年12月、韓国で対北朝鮮政策を担当する金暎浩(キム・ヨンホ)統一相は、外国メディア向けに会見を開いた。この中で金統一相は、ジュエ氏とみられる金総書記の娘が「後継者になる可能性も排除できない」と述べた。“娘”はこれまでに北朝鮮メディアに19回登場し、そのうち16回が軍関連のものだったという(金統一相の会見時)。徐々に、登場する儀式の水準も上がってきているとした。

金統一相は23年、金総書記が娘とともに北朝鮮の海軍司令部や空軍司令部を訪問した際、軍の高官が娘に敬礼をしている点を指摘した。さらに9月の民兵組織の軍事パレードで、金総書記の側近でもある、朴正天(パク・ジョンチョン)氏が、ひざまずいて話すような場面もあった。韓国政府はこのような演出をもとに、北朝鮮が娘を早期に登場させて、4代にわたって世襲する意志を強調していると判断している。

その背景には、北朝鮮が抱える多くの困難や、体制の緩みが生じていることが指摘されていて、内部結束を高める必要があるとみている。具体的には、財政的な理由などでの在外公館の撤退、食糧難、韓国ドラマや音楽が流入していることなどを挙げた。

■「後継者か突き詰める段階」「第1書記に就任か」

韓国大統領府の趙太庸(チョ・テヨン)国家安保室長も、娘が「後継者だと思って検証をしなければならない」と言及している。この発言も23年12月になってのものだ。「以前までの認識が『後継者なのか?』と思っていたという段階ならば、今は『おそらく後継者だと思うが、合っているのかを突き詰める段階』ではないか」と、大統領府としての捉え方が変わっていることを明言した。

一方、別の韓国政府高官は、21年に新設された朝鮮労働党の第1書記の役職が空席となっていることに触れ、ジュエ氏とみられる娘を念頭に置いているのではないかと踏み込んだ。韓国メディアも、これらの論調に沿うような報道が増えてきている。

一方で、韓国の専門家の間では、後継者説に否定的な見方も根強い。北朝鮮大学院大学の梁茂進(ヤン・ムジン)教授は「まだ具体的な職位がなく、正式な肩書きや名前も北朝鮮から発表されていない状況だ」として、北朝鮮メディアが娘の情報をほとんど出していないことなどを指摘。「後継者というよりは、未来世代を強調するための宣伝用の活動をしているのではないか」と分析している。

梁教授は、金総書記には息子がいるとみていて、「北朝鮮は儒教思想で、息子に健康問題がない限りは、結局は息子が後継者になる可能性が高い」と予測。娘が後継者である可能性は低いとの見方を示した。一方、韓国政府は、息子がいるのかについては「事実かどうか気にしている」という表現にとどめている。

■「朝鮮の新星女将軍」との一部報道はあるものの…

一部では、娘の呼称が格上げされ、新たに「朝鮮の新星女将軍」の呼称が使われたという報道(ラジオ・フリー・アジア)もある。ただ、これについては慎重な見方が必要だと思われる。これまで明らかになっていた娘の呼称である「愛するご子息」や「尊貴なご子息」は、北朝鮮の国営メディアなどが国内的にも対外的にも広く使った表現だ。一方、「朝鮮の新星女将軍」は、北朝鮮内での講演会で使われたという消息筋の話だとされ、決して北朝鮮メディアが、対外的に示したものではない。

まだ10歳前後とされるジュエ氏とみられる娘。その動向を巡る北朝鮮メディアの報じ方は、2024年も大きな関心の的となりそうだ。