SNS“トランプ排除”で進む情報分断 1
今、ツイッターなどのSNS各社が、ソーシャルメディア上からトランプ支持者らを排除する動きが相次いでいる。締め出された支持者らは別の新興SNSに流れ、異なる考え方の人たちとの関わりを持つ機会が失われていく。バイデン新大統領は「すべてのアメリカ国民の大統領となる」と訴えたが、実はその裏で、アメリカ社会の「情報の分断」はさらに深刻さを増している。
■トランプ支持者が集まる新興SNS「パーラー」とは?
「私をパーラーでフォローして」-去年11月、トランプ前大統領の長女・イバンカ氏がツイッターにこう投稿した。「パーラー」とは新興のSNS。ツイッターやフェイスブックなどのSNSが、トランプ氏が主張する「選挙は盗まれた」という投稿や、新型コロナウイルスに関する誤った情報の投稿について、削除や警告などの対応をする中、「検閲なし」を“売り”に登録者数を伸ばしてきた。
大統領選前の去年10月、トランプ支持者が「パーラー」を多く利用していると知り、情報収集のために記者も登録した。登録すると、インフルエンサーとして、トランプ前大統領の家族や共和党議員、保守系テレビ局「FOXニュース」のキャスターなどのアカウントと並び、極右団体「プラウド・ボーイズ」や陰謀論をとなえる「Qアノン」の信奉者のアカウントなどが次々と表示される。
これらをフォローすると、大手メディアや民主党議員などを攻撃する写真や記事が大量にタイムラインに流れる。それを、利用者がツイッターでの「リツイート」にあたる「エコー(反響)」をして拡散したり、コメントを書き込んだりする仕組みだ。
こうした中で迎えた、1月6日。首都ワシントンで、トランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂を占拠する事件が起きた。パーラー上ではこの時、「裏切り者は再び首つりに」「暗殺せよ」などの暴力的な内容が数多く投稿されたが、パーラー側は削除などの対応をとらなかった。
これを問題視したアップルやグーグル、アマゾンが、パーラーの運営に必要なサービスを相次いで停止したため、利用者のアプリのダウンロードやサイト閲覧ができなくなった。1月24日現在、サイトの一部は復旧している。
■行き場を失うトランプ支持者
議会占拠事件後、トランプ氏が支持者を「愛国者」と表現した投稿などが「暴力を助長する可能性がある」として、ツイッター社はトランプ氏のアカウントを恒久的に停止した。ほかのSNSも、トランプ氏や支持者のアカウントについて、相次いで停止などの措置をとった。
こうした事態について、トランプ支持者に話を聞くと、一様に「自分たちの声は締め出されている」と話す。ニューヨークの中でも、トランプ氏を支持する保守系住民が多いとされるスタテン島に住む、アーティストのスコット・ロバイド氏もその1人だ。
彼は、民主党のペロシ下院議長を揶揄した絵を描いたことで知られる。ペロシ議長は去年、トランプ氏の一般教書演説の際に、彼の原稿を破ったのだが、その場面をあたかも憲法を破っているように描いたものだ。ペロシ議長はトランプ氏と対立していることでも知られ、議会占拠事件では一部のトランプ支持者に部屋に侵入されるなど、標的となった人物の1人だ。ロバイド氏がこの絵をインスタグラムに投稿したところ、「規約違反」にあたるとしてアカウントが停止されたという。
ロバイド氏は暴力的な行動は批判しながらも、怒りの矛先を巨大IT企業やメディアに向ける。「メディアの多くや巨大IT企業は保守的な考え方やトランプ氏を嫌っている。SNSで検閲したり締め出したりすることは、怒りを増幅させることになる」
■進む「情報の分断」
トランプ氏を支持する理由は人それぞれだ。経済政策や移民政策、銃規制への反対など、支持者はそれぞれの生活や価値観に基づく理由を挙げる。また、そもそもリベラルな考え方やメディアへの反発も大きい。こうした中、トランプ氏は自身に批判的なメディアに対し「フェイクニュース」だと攻撃することで、敵・味方の構図をつくり出し、支持層の結束を図る手法をとってきた。
パーラー上では、トランプ氏に同調するように、大手メディアが報じるものは「フェイクニュース」であり、「選挙は盗まれた」「本当はトランプ氏が勝利した」という認識が投稿の大部分を占めていた。また、彼らに視聴するテレビを聞くと「ニュースマックス」や「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク」などといった聞き慣れないテレビ局の名前が挙がる。これらは、バイデン氏の勝利確定後も「選挙は盗まれた」と繰り返し発信し続けている新興テレビ局だ。
これまで保守層が多く視聴していたFOXニュースがバイデン氏の勝利を報じた後、熱烈なトランプ支持者はこうした新興テレビに流れている。世論調査でも、共和党支持層の67%が「バイデン氏の勝利は合法ではない」と回答している。(キニピアック大学調査、1月15日~17日)
一方で、民主党支持者などリベラルな考え方を持つ国民は、時に露骨なトランプ氏批判を行うCNNやMSNBCなどの大手メディアの視聴にさらに傾いている。選挙の結果すらも、正反対の内容が“事実”として報じられる。両者の間での「情報の分断」が深刻になっている。(2へ続く)