【解説】「群衆雪崩」どう身を守る? 超過密の可能性ある“首都直下地震” 帰宅困難者になったら…
10月29日、韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で“群衆雪崩”が発生したとみられています。今回のような事故に巻き込まれないためには、どうしたらいいのでしょうか。
●“警備の不備”認める
●犠牲者の多くは女性
●身を守るために
以上の3つのポイントについて、詳しく解説します。
■事故前に危険性伝える通報相次ぐ
韓国の警察トップは1日の会見で「事故の前から梨泰院に多くの人が集まり、危険性を伝える通報が多数あった」と明らかにしました。その上で、通報の後も現場での対応が不十分だったとして、当時の状況を検証する方針を示しました。
また、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「我々の社会はまだ群衆管理、クラウドマネジメントへの体系的な研究が不足しているのが実情だ」と述べました。1日の閣議で群衆管理の不備を認め、関係部署に安全対策の構築を急ぐよう指示しました。
今回の事故の死者は1日午前11時時点で、156人となりました。このうち、年齢別では20代が104人、30代が31人と20代・30代がほとんどでした。性別では男性が55人、女性は倍近くの101人が犠牲となりました。
今回の事故で亡くなった人の死因について、日本医科大学付属病院・高度救命救急センターの横堀将司センター長は「外傷性窒息が多かったのではないか」とみています。
外傷性窒息とは、胸が強く圧迫されて呼吸しにくくなったり、血液の循環が悪くなったりすることです。これによって、低酸素や低血圧になり、その後、意識障害やショック状態に陥り、急激な場合は5分から10分で命を落とすこともあるということです。また、今回の事故はあれだけ人が密集していたので、立ったまま胸などを圧迫され、意識を失って、亡くなったという状況も考えられるということです。
どの程度の力が加わると、外傷性窒息になるのでしょうか。横堀医師によると「体重の60%程度の力がかかると、状態が悪化する」ということです。
例えば、体重60キロの人の場合、36キロくらいの力がかかると、息のしにくい状態になるといいます。そして、息のしにくい状態が30分から1時間続くと、外傷性窒息の症状が出始める可能性があるということです。
さらに、体格や筋力にも左右されるため、体が小さい子どもや筋力の弱い女性などは圧迫のダメージが大きいと考えられるとしています。
群衆雪崩の事故で知られているのは、兵庫・明石市の歩道橋で2001年に発生した事故です。
事故調査報告書によると、花火大会の見物客が歩道橋に殺到し、群衆雪崩が起きたとされています。胸部圧迫による窒息などで、11人が死亡しました。死亡した11人のうち、9人が10歳未満の子ども、2人は70歳以上の高齢者でした。この事故でも、体が小さく筋力が弱い子ども・高齢者が犠牲となりました。
混雑している場所で危険を感じた場合、意識すべき事について、東京大学大学院の廣井悠教授に聞きました。
廣井教授は「人が密集する危険な空間には、とにかく行かない」と指摘しています。例えば、混み合ったエリアでは広いところから狭いところに切り替わるポイントなどは超過密状態になりやすいため、特に注意が必要としています。
イベントなどの場合は、過密状態を避けることも可能かもしれません。しかし、どうしても避けられないケースとして、廣井教授が危険性を指摘するのは、首都直下地震が発生し、帰宅困難者が一斉に道路を歩いて帰宅しようとした場合です。
首都直下地震ではありませんが、2011年の東日本大震災でも東京都内で約350万人の帰宅困難者が発生し、歩いて自宅に帰る人で道路が混雑しました。ただ、このときは、群衆雪崩は発生しませんでした。
しかし東京都によると、首都直下地震では都内だけで東日本大震災の約1.3倍にあたる453万人の帰宅困難者が発生すると見込まれています。こうした人たちが一斉に歩いて帰ろうとした場合、「都内のターミナル駅周辺で、群衆雪崩が起きる危険性が高まる」と指摘されています。
首都直下地震が発生すると、群衆雪崩などの危険が高まることがわかる地図があります。
大規模地震などで一斉帰宅状態になった場合、歩道の密集状態を廣井教授がシミュレーションによって再現したものです。約500万人が一斉に帰宅しようと移動を始めたという想定で、1時間後はどうなるかを予測しました。
東京駅周辺など地図上には、「1平方メートルに6人以上がいる」と試算される道路が点在しています。このような場所では、満員電車以上のほとんど身動きが取れないような混雑が予測されるといいます。
ほかにも渋谷駅・新宿駅周辺などターミナル駅のエリア周辺に同様な場所があり、群衆雪崩の危険性が高いということです。ターミナル駅は利用者も多く、周囲はオフィス街もあり、人が集まりやすいのです。
廣井教授は「もし、首都直下地震が起きても、すぐに自宅に帰らず、職場にとどまったり、一時滞在施設などを利用したりしてほしい」と呼びかけています。
普段からなじみのある場所で、まさかの事故に遭遇することもあります。「自分は大丈夫」と過信せず、「この場所にはリスクがあるかもしれない」と普段から少しでも意識しておくことが大切です。
(2022年11月1日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)