中国で“最も売れる”車メーカーの秘密とは
自動車分野へ参入し、わずか18年で中国の新エネルギー車市場のトップに立つ企業「BYD」。環境政策を重視する習近平国家主席の“後押し”も受け、世界へ進出を加速。「世界のトヨタ」とも協力を発表するなど、勢いを増す中、その実態を取材した。
■モノレールが走る巨大な敷地
中国南部、広東省深セン市のバスやタクシーはEV化が進み、そのほとんどを車メーカー「BYD」の車両が占めている。一体どのような企業なのか、私たちは、その本社を取材した。
まず目に飛び込んだのは、敷地内を走るモノレールの「駅」。自社で開発したもので、従業員が工場や宿舎も含む広大な敷地を移動するために使っているという。「世界の渋滞問題を解決したい」として、モノレールの海外への輸出も視野に入れている。
■歴代王朝シリーズが人気に
BYDは、1995年、電池メーカーとして創業し、2003年に自動車業界に参入した。EVだけでなくハイブリッド車など「新エネルギー車」を販売する。中でも人気なのが「秦」や「宋」「唐」といった、歴代の王朝の名が付いたシリーズで、SUVタイプの「唐」は今年から、EV大国となっているノルウェーへ輸出を開始した。2020年、中国の新エネルギー車市場で販売台数トップとなっている。
BYDの車両のうち、中国市場で一番人気となっているのが、「漢」というセダンタイプの車だ。EVやハイブリッドなどがあり、価格は約380万円~530万円と高級車の部類に入る。デザインと加速性能が人気の理由で、時速100キロまで3点9秒で到達すると言う。さらに、BYDの車に標準装備されている機能で特徴的なのが、「アプリでの遠隔操作」だ。駐車スペースが狭く、車から出られないような場所で使用するケース、雨が降っている時に屋根がある場所まで無人の車を移動させる場合などを想定している。
■最大の武器は独自開発の車載電池
BYDは、去年新たな電池を発表した。「刀片電池(ブレードバッテリー)」と名付けたリン酸鉄リチウムイオン電池だ。刀のように薄い形状で、最大の特徴は安全性だという。「釘刺し試験」と呼ばれる、大型の釘を突き刺す試験でも、発火せず、表面温度もほぼ変わらなかった。
元々は電池メーカーでもあるBYDは、車載電池の市場でも存在感を発揮し、2020年の世界の車載電池市場ではシェア4位につけている。日中韓の企業がしのぎを削る中、安全性が売りの「刀片電池」で躍進を目指す形だ。
さらに、BYDは日本のトヨタ自動車とともに、中国市場向けのEVを開発中で、BYDの関係者は「この電池を含むBYDのプラットフォームを使う可能性が高い」としている。“世界のトヨタ”とも協業するなど、勢いを増すBYDだが、その展示ルームには、創業者と習近平国家主席が並ぶ写真が複数飾られていた。ブラジルやロンドンで国家首脳を相手に、BYDのEVバスなどをアピールしていたのだ。環境政策を重視する習主席が、トップセールスを行うことで、世界進出を後押ししていると見られる。
■日本でも乗用車が走るか?
すでに世界の300以上の都市でBYDのEVバスが走り、日本でも千葉の公道を走るほか、富士急ハイランドや上野動物園などで合わせて50台以上が導入されている。これまで、自社でモノレールも開発するなど、公共交通機関を重視してきたが、今後、乗用車の分野でも日本への進出はあるのか。
BYDの劉学亮・アジア太平洋販売事業総経理は、「今はそんなにはっきりした考えはない」とした上で、「BYDはトヨタ自動車ともこれからEVを作る、あらゆる可能性はある」と含みを持たせた。
■課題も抱える中、成長続くか
一方、課題も抱えている。中国メディアによると、今年11月、「世界的な原材料価格の高騰により、電池の販売価格を最低でも2割以上引き上げる」と顧客に通知したと言う。BYDは「現時点では値上げしない」と否定しているが、仮に電池の大幅な値上げが実施された場合は各メーカーのEVそのものの価格にも影響が出る可能性がある。
また、中国メディアによると同じく今年11月、「BYDの車両が充電中に炎上する事故があった」という。けが人はいなかった。BYDは「調査中」とした上で、搭載していたのは新たに開発した「刀片電池」ではない、とコメントしているが、好調な業績に水を差す可能性もある。
EVは動力となる電気を作るのに化石燃料を使っていることが課題としてあげられるほか、充電スタンドなどのインフラも整備する必要がある。ただ、自動車業界が「脱炭素」を求められる中、EVに期待が高まっているのも事実だ。日本企業は、BYDのような勢いのある中国企業と競いながら、時には協力も模索しながら戦略を立てていく必要がある。