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プーチン大統領の“実は…”に迫る 遅刻魔、独演会、番記者…意外な素顔も?

2024年1月7日 16:00
プーチン大統領の“実は…”に迫る 遅刻魔、独演会、番記者…意外な素顔も?
「大切なことを話そう」(9月1日 ロシア大統領府HPより)

2023年12月8日にロシア大統領選挙で通算5回目の出馬を表明したプーチン大統領。24年2月24日にはウクライナ侵攻開始から2年を迎える。中東情勢でニュースへの登場回数は減っているが、良くも悪くも世界の注目度は変わらない。日々のニュースでは紹介できないプーチン大統領の実像の一端を、モスクワからリポートする。
(NNNモスクワ支局 東郷達郎)

■疾走する公用車 プーチン大統領の“出勤”

NNNモスクワ支局が面するクツゾフスキー大通りは時折、騒音が“ピタリ”と止まる瞬間がある。このとき、車は1台も走ってない。やがて空気を切り裂くような音をまとって車列が駆け抜ける。プーチン大統領自慢の国産車「アウルス」だ。郊外にある大統領公邸から、クレムリンへの出勤風景である。

「厳粛な式典を少し遅らせざるを得なくなったことをご理解いただきたい」。23年12月4日、新任大使21人を迎える式典の冒頭で、プーチン大統領は遅刻の言い訳から始めた。実は、プーチン大統領は“遅刻の常習犯”である。

この日の予定で明らかにされていたのは「ロシア展の視察」と「新任大使との式典」。ロシアメディアは「式典」を中継すべく午後2時前からスタンバイしていたが、大統領の車列がわれわれの支局の前を通ったのが、既に午後2時すぎ。ところがその車列はまず「ロシア展」に向かったため、「新任大使との式典」は大幅な遅刻となった。

このほかにも、予定された演説の開始時間が遅れることはメディアの中では“常識”である。ロシアメディアにすら伝えられないらしいプーチン大統領の「予定」。それが公に批判されることはない。

こうしたことから、プーチン大統領の「予定」はほぼ分からない。モスクワ支局からは毎週、「来週の予定」を東京に報告するのだが、大イベントでない限り、事前に「プーチン大統領の動き」を知ることはできない。

12月4日もそうだった。夜になって突然、国営タス通信がプーチン大統領のアラブ首長国連邦とサウジアラビアへの外遊を伝えた。しかし、「いつ」がない。もちろん、「時間」などない。通常、プーチン大統領の日程は、ぺスコフ大統領報道官が昼頃の記者会見でロシアメディアなどに対して明らかにする。それでも「決まったら良きタイミングでお知らせします」と述べるばかり。非友好国「日本」のメディアが「大統領の予定」を知る術はない。

■唯一、大統領に密着できる「ザルビン記者」とは?

ところが、このプーチン大統領の動向を事前に完全に知っているとみられる記者が1人だけいる。国営「ロシアテレビ」記者のパベル・ザルビン氏だ。42歳。地方出身で大学卒業後すぐに国営放送記者となり、2018年から番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」のリポーターを務めている。執務室にも出入りが許されているようで、ロシアでは知られた存在である。

ちなみに、彼がリポーターを務める番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」は、毎週日曜「夜11時頃」放送される。プーチン大統領の一週間をまとめた45分程度の番組で、登場するのは、ほぼプーチン大統領1人だ。この番組の大統領インタビューを国営メディアが速報することすらある。ザルビン記者のみが知り得ることがあるのである。

そんなプーチン大統領は、ほぼ毎日、どこかで挨拶か演説をしている。国営ニュースチャンネルは、それを必ず放送する。“毎日プーチン”状態だ。

実は、この演説は毎回かなり長い。日本のニュースで扱う場合は10~15秒に編集せざるを得ないのだが、実際には20分から1時間半以上も話しているのも珍しくない。大統領選挙が告示されてからも変わらない強力なPR活動だ。

ただ驚くのは、メモを手にしながらとはいえ、とうとうと話し続けることである。日本の政治家でここまでできる人を知らない。23年12月14日に開いた「国民直接対話」と「大規模記者会見」の合体イベントは、実に4時間3分話し続けた。これまでの最長記録は、2008年の4時間40分。プーチン大統領は相当な雄弁家である。

■自慢の高級国産車「アウルス」…黄金のロシア

話は横道にそれるが、冒頭でお伝えしたプーチン大統領自慢の公用車「アウルス」についても紹介しておきたい。大統領は以前、「メルセデス・ベンツS 600ガードプルマン」を公用車に使っていたが、18年5月7日の大統領就任式から「アウルス・セナート・リムジン」に替えた。

「アウルス」はロシアが威信をかけて開発した高級国産車ブランド。大統領公用車には防弾ガラスはもちろんのこと、パンクしても、時速60キロであればそのまま80キロ走り続けることができるタイヤも装着している。車重は約6トンで一般車の3倍以上。説明によれば「他のクルマよりも安全」なのだとか。23年9月には、極東を訪れた北朝鮮の金正恩総書記に「これが我々のアウルスだ」と自慢している。

日本ではまず見ない光景として、毎年秋に書店に並ぶ「プーチン・カレンダー」がある。12か月すべてがプーチン大統領の写真で占められている。製作しているのはカレンダー製作会社、新聞社、出版社で、一部300~800ルーブル(約470~1250円)と高くはない。販売案内には「関係者への贈り物にどうぞ」と書いてある。

大統領選を控えた2023年度版は「サングラス姿」、「柔道着姿」、「市民との歓談」など、いずれも“強さ”と“庶民性”を強調した写真が採用されている。「ウクライナ侵攻」に関する写真はない。果たして、この写真は誰が選ぶのか。大統領府なのだろうか…?

製作したサンクトペテルブルクの出版社に聞いてみたところ「大統領府が関与しているわけではない。公開された写真ライブラリーから選んでいる」というが、「古い写真を使う」のだそうで、71歳になったプーチン大統領への忖度(そんたく)が、そこに働いているようだ。

■“プーチン死去”情報と“影武者”報道

プーチン大統領の健康問題は関心の的であることは間違いない。大手メディアが報じることはないが、ネットには時々、そうした情報も流れる。23年10月26日には、ロシアでも閲覧できるフォロワー45万人のテレグラムに「プーチン大統領が自宅で死去。医師は蘇生を中止した」というのもあった。これにイギリスの大衆紙「ザ・サン」が食いつき、その後姿を見せたプーチン大統領について「生き返ったといううわさがロシア中を駆け巡っている」と“影武者”疑惑を展開した。

確かに、毎日のようにテレビで演説するプーチン大統領が23年1月は一週間程度、姿を見せなかったことはある。この1年は、演説中によく“せき払い”もしていた。23年6月には感染症を極端に警戒する大統領が突然、南部ダゲスタン共和国を訪問し、民衆の中で写真に収まる行動に出た。今回の“死亡説”と“替え玉”疑惑の発端である。

ただ、大統領府は余裕の表情だ。ペスコフ大統領報道官は11月の講演会で「専門家は“影武者”は3人なのか4人なのか、と推測しているけれど、けさの式典に出たプーチンが、“影武者”の3人目なのか4人目なのか、それはわかりませんね」と笑い飛ばした。

プーチン氏は24年3月17日、通算5回目となる大統領選挙に臨む。当選して6年の任期を全うすれば、77歳。それでも、現在81歳のアメリカ・バイデン大統領より、まだ若いのだが…。