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投票しないと罰金最大1万7000円の国も・・・参院選直前、海外で投票率が90%超えるワケ

2022年7月5日 17:43
投票しないと罰金最大1万7000円の国も・・・参院選直前、海外で投票率が90%超えるワケ

いよいよ7月10日に迫った参議院選挙。

日本では長年、若者の政治への関心の低下や、投票率の低下が嘆かれているが、投票率が高い国では、どんな選挙が行われているのか。現地に住む人や大使館などを通じて"生の声"を取材した。

■世界的に見ても低い日本の投票率

こちらは、日本やアメリカなど先進諸国38か国によって構成されるOECD(経済協力開発機構)加盟国とEU加盟国の議会(二院制の場合は下院)選挙での有権者人口に対する投票率を比べたグラフ。

日本はなんと下から数えて5番目だ。

なんとか、日本の投票率を上げることはできないものか。各国とも選挙や政治システムはもちろん、歴史や文化背景など様々な条件は違うが、むしろ、その違いから、政治参加へのヒントが得られるのではないか。

今回は上位にあるオーストラリアとマルタの大使館に、それぞれ「投票率が高い理由」を聞いてみた。

■ソーセージか罰金か

オーストラリアでは、選挙日に投票所でバーベキューが行われるのが恒例で、自然と投票に行くのが楽しみになるという。投票が休日の一種のイベントのようになっているのだ。

特に人気だというのが、そこで振る舞われる「デモクラシー(民主主義)・ソーセージ」をはさんだホットドッグ。これは2016年7月の総選挙から広まったが、その年の"今年の言葉"にも選ばれていて、国民に広く浸透しているのがうかがえる。

有権者という言葉どおり、日本を含む多くの国では、投票は国民の権利とされているが、オーストラリアでは18歳以上のすべての国民に投票が義務付けられている。また立候補者には決まった年齢制限がなく、若い候補者も出馬することができる。

投票をしなかった場合には罰金が課せられ、その額は地域によって異なるが、現在は20豪ドル(約2,000円)から175豪ドル(約17,000円)。罰金勧告1回目で支払えば20豪ドルだが、2回、3回と催促通知が届くたびに罰金額が上がるというシステムだ。

ただ、投票できなかった正当な理由があれば、罰金は免除となる。

投票を義務化した分、投票しやすいように郵送での投票はもちろんのこと、様々な理由で投票の日に投票所まで行くのが難しい人に対応するため、選挙委員会のスタッフが病院や高齢者施設へ出張訪問する仕組みもある。

こうした取り組みもあって、オーストラリアの投票率は上院・下院ともに、有権者登録をした人の中での投票率は90%を超えることがほとんどだという。

投票を義務としている国はほかにも、ベルギー、イタリア、シンガポール、ブラジル、メキシコ、ペルーなど多くあるが、罰則の有無やその効果も国によって異なっている。

■小さい国、高い投票率

ヨーロッパ圏で人気のリゾートとして知られるマルタ共和国。

総面積は東京23区の約1/2ほどと小さな島国で、投票が義務ではないにもかかわらず、先ほどの投票率グラフでは1位の90%超えをマークしている。

今回、アンドレ・スピテリ駐日大使が文面での取材に応じ、その理由を明かしてくれた。

アンドレ大使によると「マルタの人々は政治について強い意見を持っていて、投票することは民主的権利の一部だと考えている。歴史的にみても、この権利はイギリスの支配下にあった植民地時代から、完全に独立した主権国家になるまでの長年の闘争の末に獲得されたものであることがわかる」と歴史的背景も関係しているという。

国土が狭く、政治家と有権者の距離が近いことも要因だ。

政治家は選挙の数ヶ月前から家庭訪問を行い、有権者が何を必要としているかを確認して様々なイベントを企画するという。

さらに、選挙当日には、投票をうながすために、なんと政治家や政党が高齢者や移動に不自由のある人のために、自宅から各市町村の投票所までの交通手段を手配するのだという。

また、政党は独自のメディアチャンネルを通してコンテンツを配信するほか、新聞やテレビ局まで持っているという。

日本とは法律も制度も違い、小国ならではの政治との近さがある一方で、マルタでは近年、汚職スキャンダルから首相が辞任を発表するなど問題も起きている。

上位の国以外でも、投票率を上げるための工夫が行われている。
アメリカでは、投票した証として、 “I Voted”(投票しました)というシールがもらえる。

このシールを付けた写真をSNSにアップする人も多く、近年ではアメリカ以外でもSNS上で投票したことをステータスとして表示できる機能なども使われるようになっている。

また、インドでは投票後、人さし指の先に、インクで小さな印をつけるという。このインクは簡単には落ちないので、誤って2回投票するのを防止することが由来だというが、実は意外な効果もあるという。

いったい、どんな効果があるというのか。現地の人に聞いてみた。

インド南部・ベンガルール在住の20代男性は、インクの"隠れた"効果について、「多くの人が指先に印をつけていると、自分も印をつけてもらわないと違和感がある」と明かす。つまり、インクによって"投票に行かねば"という心理が働くのだという。周りの人たちの選挙参加が目に見えてわかるというのは、参加のきっかけにつながるのかもしれない。

日本ではまだこういった取り組みは全国的には行われていないが、SNSでの「選挙行ってきた」投稿は若年層に限らず見かけるようになっている。

身近なところでのささいなきっかけから、政治や選挙について”日頃から気軽に話せる環境”ができていく可能性もある。

こうして各国の選挙事情を覗いてみると、日本でも投票率の低さを嘆くだけでなく投票に行きたくなるような環境作りやさらに投票がしやすくなる制度の改革など、取り組むべき"伸びしろ"が垣間見えてきた。