「もののけ姫」「千と千尋」… 宮崎駿監督ジブリ映画×フランス伝統工芸タペストリー 日本でも展示へ
フランス中部の町で、宮崎駿監督のジブリ映画のワンシーンを巨大な“タペストリー”に織り上げるプロジェクトが進んでいる。フランスでも絶大な人気を誇るジブリは、衰退する伝統工芸タペストリー復興の起爆剤となるのか? 全5部作。2023年には日本でも展示される予定だ。
■全5部作…ジブリ映画の“名シーン”が巨大タペストリーに!
森の中に身を隠し、右腕に負った“呪いの傷”を水で癒やす主人公のアシタカ。プロジェクトの第1弾は、「もののけ姫」のワンシーンを描いた、縦5メートル・横4.6メートルの巨大なタペストリーだ。約1年かけて織り上げられたという。
王宮などで壁掛けに使われてきた室内装飾用の織物であるタペストリーは、1平方メートルを織るのに約700時間かかるとも言われている。
完成したタペストリーは、まさに圧巻の美しさだ。見る者は、そこから放たれる力に圧倒され、織り上げられた世界の中に引き込まれるような感覚にとらわれてしまうだろう。
第2弾は「千と千尋の神隠し」。縦3メートル・横7.5メートルの巨大なタペストリーで、2023年1月に完成式典が予定されている。
続く第3弾、第4弾は「ハウルの動く城」で現在制作中。第5弾は「風の谷のナウシカ」で、2024年に完成する予定だ。
■ジブリ“起爆剤” 伝統工芸タペストリー復興へ
人口約3500人、フランス中部の町オービュッソン。この町のタペストリーは、600年以上の歴史を誇る。
1800年代に最盛期を迎えた後、国や教会からの発注の減少や担い手不足などで衰退の一途をたどったが、2009年にはユネスコ(=国連教育科学文化機関)が「オービュッソンのタペストリー」を無形文化遺産に登録。
これを機に、2016年にタペストリー専門の博物館「国際タペストリーセンター」が開設した。復興を探るエマニュエル・ジェラール館長が「タペストリーの技術を若い世代に親しんでもらえる」として目を付けたのが、フランスでも絶大な人気を誇るジブリ映画だった。
スタジオジブリとの提携は、日本人の織物職人の仲介もあり、直接協議からわずか1年で成立。宮崎駿監督からも使用するシーンの角度などについてアドバイスがあったという。
ジェラール館長は、今回のプロジェクトが、タペストリー復興の“起爆剤”となることに期待を寄せている。さらに、2022年9月には、フランスのマクロン大統領もオービュッソンを訪問。「職人の技を伝承するため、保護することが私たちの義務だ」と力強く語り、伝統工芸の復興に国としても支援することを約束した。
■日仏の芸術が織りなす巨大タペストリー 日本でも展示へ
タペストリー作りには、下絵も重要だ。 糸を裏側から編み込むため、完成品とは正反対に、そして実物と同じ大きさで下絵を描く。また、それぞれの糸がどのような質感を出すのかも考慮しながら、織り手のために、糸の色や太さなどの細かい情報も記入する。そうしてできた下絵は、いわば“設計図”のようなものとなり、下絵にもかかわらず、見る者を壮大な世界に引き込んでいく。
そして、職人はその下絵を頼りに、どのようにすれば奥行き感が出るのかなどを考え、糸の素材を選び、丁寧に編み込んでいく。プロジェクトに携わっている職人のパトリック・ギヨーさんは「それぞれのタペストリーで、作品の解釈や色の模索、質感の模索が必要になってくる」とやりがいを語る。彼女たちのような若手の職人は、少しずつ増えてきているという。
日本とフランス、2つの国の芸術が織りなす巨大タペストリーは、衰退する伝統工芸復興の起爆剤となるのか? 完成したタペストリーは、2023年には日本でも展示される予定だ。