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“多様性を推進”から逆行…トランプ大統領の発言に注目 分断のアメリカ“差別より生活”か『every.特集』

2025年2月14日 12:19
“多様性を推進”から逆行…トランプ大統領の発言に注目 分断のアメリカ“差別より生活”か『every.特集』

根強く残るアメリカの黒人差別。60年前、大規模な抗議活動が繰り広げられた地、アラバマ州のセルマで、平等な権利を訴えたデモ行進で弾圧された経験のある黒人女性を取材。トランプ政権の“多様性を認めない動き”が加速する今、思うことは。

■トランプ政権発足後 かつての“多様性を推進”から逆行

1月、アメリカの首都ワシントン近郊で起こった航空機とヘリコプターの衝突。67人が犠牲になった事故に、トランプ大統領は…

「連邦航空局は、重度の知的障害や精神疾患のある労働者を積極的に採用している」

事故原因は、社会的マイノリティーに配慮した雇用など、“多様性”を推し進めた政策のせいだと主張しました。

2月初めには、女性のスポーツにトランスジェンダーの女性が参加することを禁止する大統領令にサイン。

トランプ大統領
「今後、女性のスポーツは女性だけのものになる」

アメリカでは、トランプ政権発足後、“多様性を認めない動き”が加速。

■“黒人奴隷制度”を想起させるメッセージ

大統領選での勝利が伝えられた翌日以降、黒人などの携帯には、正体不明の送信者から人種差別的なメッセージが次々と届きました。

メッセージ
「あなたは農園で綿花を摘むために選ばれました。奴隷使用人が迎えに行きます」

“黒人奴隷制度”を思い起こさせる内容のメッセージは、少なくとも全米32州で確認されています。長い間、黒人への差別が根強く残るアメリカ。

私たちは、かつて黒人たちが平等な権利を訴え闘った、アラバマ州のセルマへ。ここは今から60年前、大規模な抗議活動が繰り広げられた地です。

■キング牧師らとともに弾圧と闘った女性は今

当時、南部ではキング牧師らが、投票権や人種差別撤廃を求める公民権運動を展開。この動きに白人は猛反発し、黒人への攻撃は激しさを増していきました。

私たちは、その時代にキング牧師らとともに弾圧と闘った女性のもとへ。リンダ・ブラックモン・ロワリーさん74歳。7歳の時に亡くなった母親は黒人であるがゆえに、病院で治療を受けられなかったといいます。

リンダ・ブラックモン・ロワリーさん(74)
「私たちは違うものとして扱われ、肌の色が異なるという理由で嫌われているということを幼いながらに知ったのです」

「この状況を変えよう」と誓ったというロワリーさん。1965年3月。14歳のときに黒人の投票権を求めるデモ行進に参加します。しかし、数百人とともにセルマから州の中心部に向かう途中で、悲劇が起きました。

■黒人の投票権を求め、デモ行進に参加した60年前

ロワリーさん(74)
「道路にアラバマ州警察が並んでいるのが見えました」

橋の向こうには、黒人のデモ隊を行進させまいと白人の警官や騎馬隊が待ち構えていたのです。

白人警官
「行進は中止だ。戻りなさい」

無抵抗のデモ隊に警棒をふりあげ、催涙ガスを発射する警察。その時でした。白人警官に蹴り飛ばされ、倒れ込む少女。

ロワリーさん
「これが私です。倒れながら警官に蹴られたんです。白いジャケットに黒いスカートをはいています」

ロワリーさんは警官に殴られ、目の上など35針を縫う怪我をしたといいます。

「保安官は小さな野球バットのようなもので私を殴りました。その隣の保安官は私を殴り、蹴りました。あのときの映像を見ると、当時の光景が脳裏によみがえります」

「私は14歳でした。私は誰に対しても脅威ではありませんでした。今でも私が涙を流す理由は、あの日の肉体的・精神的な傷痕が残っているからです」

白人が黒人に暴行を加える映像は、全米のテレビで報道され、当時の社会に衝撃を与えました。映像をきっかけに、世論は人種差別撤廃へと動きます。

しかし、60年たった今、再び…。

■優遇なし「能力主義」の大統領令

トランプ大統領
「あらゆる場面に、人種や性別を組み込もうとする政府の方針を終わらせます。肌の色にかかわらず、能力主義に基づく社会をつくります」

トランプ大統領が就任翌日に署名したのが、“人種や性別による優遇措置を停止する”という大統領令。

これはたとえるならば、フェンス越しに野球をみようとする3人の身長がバラバラだったとしても、全員に与えるのは同じ高さの台。

背の低い子どもが野球を観戦できない状態でも、全ての人に同じ機会を与える「能力主義」であるべきだと、トランプ大統領は訴えているのです。

■トランプ政権に“多様性”が奪われるのか

これまでバイデン政権では、誰もが同じ条件で野球を観戦できるよう、背の低い子どもには高い台を与えるなど、個人の境遇に配慮していましたが、トランプ大統領は、特定の人を優遇すべきではないと主張しています。

黒人の権利を得るために戦ったロワリーさんは、トランプ大統領の考えを受け入れられないと話します。

ロワリーさん
「(大統領は)全てを変えようとしていますが、多様性や公平性を奪っても、人の心は奪えません」

■差別と闘うことより“明日の生活”

ただ、ロワリーさんのように考える人ばかりではありません。今回の選挙では、黒人票がトランプ氏に流れたことが、大統領に返り咲いた一因に。

AP通信によると、トランプ氏を支持する黒人男性の割合は2020年の大統領選と比べて2倍になっています。

南部ジョージア州、黒人共和党協議会のアザド・アーマディさん。

元々は民主党を支持していましたが、2016年からトランプ大統領を支持することにしたといいます。

■トランプ大統領の“実行力”に期待

黒人共和党協議会 アザド・アーマディさん
「民主党の政策は結果を出していないのです。黒人アメリカ人は、社会的にも経済的にも底辺にいます」

貧しい黒人のために動いてくれる、“実行力のある”トランプ大統領に期待をよせています。

アーマディさん
「トランプ大統領が権力を行使し、国民の生活を改善し、安全な環境を作り出すために重要なことを成し遂げてくれることを期待しています」

■トランプ支持が増加…本当に必要な変化は?

今アメリカは、歴史的な物価高により、生活不安が大きく広がっています。差別と闘うことよりも、明日の生活を少しでも良くして欲しい。

そうした思いから、トランプ大統領を支持する黒人男性が増えているのです。

差別と戦ったロワリーさんは…

ロワリーさん
「私たち人類はもっと互いに思いやりを持つべきです」

「本当に必要な変化は心の変化です。それは個々人の問題です」

「私たちの子どもや孫のために、より良い社会を望むのであれば、私たち自身が変わらなければなりません」

(2025年2月13日『news every.』特集より)

最終更新日:2025年2月14日 12:19