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【勝利の裏で】“お疲れ”だった?トランプ氏 「朝からゴルフ?」「悪口の封印?」規格外のワケ #記者たちが語る

2024年3月20日 10:10
【勝利の裏で】“お疲れ”だった?トランプ氏 「朝からゴルフ?」「悪口の封印?」規格外のワケ #記者たちが語る

アメリカ大統領選挙で、トランプ前大統領が共和党の候補者になることが確実になった。なぜ、これほどまでに支持されるのか。圧勝したスーパーチューズデー、現地で感じた“異変”とは。デスクも知らなかった規格外な「裏話」を、記者たちが語り合った。

■集会場 熱気を帯びる「陰謀論」

スーパーチューズデー(3月5日)直前のトランプ氏の集会には、熱狂的な岩盤支持層が数多く集まっていた。ニューヨーク支局・橋本雅之記者がそういった支持者を取材すると、聞こえてきたのは、根拠のない“陰謀論”の数々だった。

橋本記者
「具体的には、『4年前の大統領選挙ではトランプ氏の票が盗まれたんだ』とか、『今のアメリカを牛耳っているのは闇の政府なんだ』とか、いわゆるディープステートと言った考え、こういった陰謀論がたくさん聞かれました」

橋本記者
「実際にアメリカ・モンマス大学が2024年2月に実施した世論調査でも、有権者の35%が、4年前の大統領選で『バイデン氏が不正によって勝利した』という陰謀論を今も信じているんです。言い換えれば、有権者の3割以上が、“4年前の選挙で勝ったのはトランプ氏だ”ということを、今も考えているということなんです」

「実際に4年前の選挙で敗れたトランプ氏は、『当初から選挙では不正があった』という根拠のない主張を繰り返していて、その考えが支持者の中に浸透しているという状況だと思います。だからこそ、自身が4回も起訴されているにもかかわらず、そのたびに“政治的迫害なんだ”という主張をすることで、支持率を伸ばすことに成功したのではないかというふうに考えています」

米・マイアミ大のジョセフ・ユージンスキ教授は、「トランプ氏が今回の選挙戦でこの『陰謀論』を巧みに利用して、支持者を獲得している」と指摘しているという。

国際部・近野宏明デスク
「そうすると、何が本当のことなのかということが、その人の立場によって変わってくる。その人の立場によって見えているものが違う、見えているものが異なるっていうのが、今のアメリカ社会なのかなと思います」

ワシントン支局・山崎大輔支局長
「出口調査でも共和党の支持者に聞くと『有罪判決を受けた場合でも、トランプ氏は大統領にふさわしい』と回答している人は5割を超えている結果も出ています。トランプ氏の支持者にはこういった考えが浸透しているのかなと思っています」

近野デスク
「まさに揺るぎない信仰のような…」

■なぜ信じ込むのか… キーワードは「孤独」

トランプ氏の熱狂的な支持者で、“陰謀論”を信じ込んでいる支持者を、橋本記者は取材した。ダグラス・スイートさん、61歳。3年前(2021年)に起きたアメリカの議事堂襲撃事件で逮捕された人物で、実際に裁判では有罪判決を受けていた。

橋本記者
「事件の当事者ということで、私もかなり緊張して取材に行ったんですけれども、実際に会ってみると、非常に穏やかで、“どこにでもいるアメリカ人の男性”という印象を受けました」

「そういった男性が、なぜこの“陰謀論”を信じ込むに至ったのかということが非常に気になり取材をしたわけですが、その中で見えたキーワードは“孤独”でした」

約30年前に妻と離婚したスイートさん。男手ひとつで二人の娘を育ててきましたが、娘たちが結婚をして家を出た後、一人暮らしになりました。その後、スイートさんは自給自足の生活を送るように。だんだんと、人との交流が減っていった。

橋本記者
「そうしたなかで登場したのがトランプ氏。一人で暮らすスイートさんの心のよりどころになったということなんです。当初、トランプ氏は“アメリカ・ファースト”を前面に押し出し、『アメリカを再び偉大にするんだ』ということを演説で繰り返していました」

「そのトランプ氏の姿に、スイートさんは大変魅了されて、大ファンになっていたということなんです。それ以降、このトランプ氏に寄ったメディアばかりを見るようになり、トランプ氏の言うことを全て信じるようになっていったということなんです」

取材に訪れた日も、スイートさんはアメリカで“デマの中心地”と揶揄(やゆ)されているようなネットメディアの番組を見ていた。しかし、この番組を見てスイートさんは、「この番組こそが真実を教えてくれるんだ」と語っていた。

橋本記者
「スイートさんは、議事堂を襲撃したことを“自分の誇り”だと話しているんです。全く後悔はしておらず、『またいつでもやるんだ』とも話していて、実際、今年の大統領選挙でもし仮にトランプ氏が敗れるとすれば、またアメリカで何か起こるんじゃないか…。そんな恐怖さえ感じました」

近野デスク
「本当にスイートさんの語り口、話しぶりに迷いがなかったっていうのが、私も非常に印象に残ってます。日本でも中高年の一部でネットの偏った議論や、偏った意見に強く影響を受けて家族が困惑するという例も聞きます。こういう“陰謀論”であったり、ちょっとかなり過激な論を信じる岩盤支持層であったりというのが、トランプ氏の強さの1つの元になっている」

■スーパーチューズデー 意外にも「元気がない?」

岩盤支持層が持つ熱量の高さについては、集会に足を運んだ山崎支局長も印象に残っているという。集会の始まる何時間も前からできる行列。赤い帽子をかぶって、トランプグッズを身につけて…。トランプ氏への強い支持を表していた。

山崎支局長
「集会が始まって、トランプ氏の演説が始まると、さらに会場が熱狂的な雰囲気になるんです。トランプ氏は、エリート層など既得権層に闘うという姿勢をアピールします。一般の支持者の現状への不満というのをうまくすくい上げて、不満や不安を煽って、非常に演説を盛り上げる。そして、そこからバイデン政権の批判につなげていく。非常に演説が巧みだと感じました」

「スーパーチューズデーの当日、トランプ氏の自宅・マールアラーゴで行われた集会を取材しました。夜7時過ぎから支持者が集まってきて、立食パーティーでもびっしりと会場を埋め尽くすぐらい人が入っていました。 トランプコールだとか、USAコールが上がるといった状況が何時間も続き、ようやく満を持してトランプ氏が出てきたのは夜10時すぎで、3時間以上経過した段階でした」

「トランプ氏はここでどういう演説をするのか、非常に注目だったんですけれども、この日は予想に反して…、私も非常に意外だったんですけれども、普段と違って落ち着いた様子で、むしろ元気がないような様子だったというのが率直な印象でした」

■「余裕の戦い」裏付ける…規格外のエピソード

山崎支局長は当初、「自分だけの感想かな」と思ったという。しかし、ワシントンポストも「疲れている様子だった」と報じていた。さしものトランプ氏も、さすがに高齢で夜になると疲れが出るのか。しかし、山崎支局長は“別の可能性”を指摘した。

山崎支局長
「この日、トランプ氏は朝ゴルフをやっていました。スーパーチューズデーで圧勝することがわかっていたので、当日も自宅にいて、選挙のある州にも行かず、ゴルフをやるくらいの余裕を見せていた。そう考えると、まあ、疲れているようだったですから、“どういったことなんだろう”っていうのは思うんですけども(苦笑)」

近野デスク
「山場の日、この決戦の火曜日に朝ゴルフをやるということも驚きだし、それだけ余裕を持った戦いだっていうことの一つの裏付けにもなるんでしょうね。ちょっと常人の考えることをやることとはやっぱり違うなって今のエピソードを聞いても思います」

■周囲の助言「批判はしない方が良い」

近野デスク
「この日の演説で、戦う相手だったヘイリーさんについては、なんて言ってたんですか?」

山崎支局長
「この日はスーパーチューズデーの勝利演説に当たるわけなんですけど、唯一の対抗馬であるヘイリーさんには一言も触れませんでした。それで、何を言っていたかというと、バイデン大統領への徹底的な批判を言っていたんです」

「一つは、もはやヘイリーさんは眼中になくて、“共和党の大統領候補は俺だ”というのをアピールするっていうのがある。その一方で感じたのは、ヘイリーさんに投票した人たちの支持を、11月の大統領選に向けては得なきゃいけないので、米メディアによると、『ヘイリーさんの批判はしない方がいい』と周囲からは助言を受けていたということなんです」

「これまでトランプさんというのは、敵と味方を分け、敵を徹底的に批判することで、支持者をあおって支持を得ているという手法。これまでも、トランプさんはヘイリーさんのことを“バードブレイン(トリの脳みそ)って言っていた。これは“間抜け”という意味で、もはや批判というか悪口ですよね。そういったあだ名をつけて、ヘイリーさんを徹底的に批判していたんですけども、この日はヘイリーさんの批判を封じられたという形で…。『だから元気がなかったのかな』というのは、私はちょっと感じました」

近野デスク
「そう聞いてもすごいなと思うのは、人の批判や非難をしている時はものすごくエネルギッシュなんだけれども…。それを封印されてしまうと、『あれ?なんかちょっと精彩に欠く』というか、ちょっといい色が失せてしまうというか。そういう風にも考えられる」

山崎支局長
「私は一つの理由として、そういうのはあるのではないかなと感じました。もちろん、いつも通り、バイデン大統領の批判も、いつも通りの言葉で言っていたんですけれども。この日は割と語気を強めるというよりは、落ち着いて淡々と言っていたなというのが印象です」

■バイデン氏 “高齢不安”は払拭

近野デスク
「バイデンさんについてもそれ以上の年齢ですから、高齢については非常に懸念されているわけですが、そこはどうですか」

山崎支局長
「81歳という年齢で、高齢への不安が、常につきまとうバイデンさん。スーパーチューズデーの2日後に一般教書演説という大事な演説があったんですが、これを米メディアもみんな注目していました」

「ここで“高齢不安”を払拭できるかというところが大きなポイントだったんですけれども、実際に演説の様子を見てみましたが、非常にエネルギッシュな演説で、最後まで勢いを保ったまま演説を終えたことで、米メディアももうかなり高齢不安を払拭できたのではないか、一つハードルを越えのではないかというのが、今回の評価ではありました」

ただ、大統領選は8カ月先。今後ずっと、このエネルギッシュな演説をずっと保てるかどうか、山崎支局長は「まだわからない」という。

近野デスク
「とにかく11月の本選に向けて、対決の構図がもう事実上定まったわけです。史上最高齢の争い―――。何があるかもわかりません。アメリカがどこに向かっていくのか。また現場を見聞きしての報告をぜひ聞きたいと思います」