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傾斜地に生きるー徳島・にし阿波の一年

2022年8月26日 13:01
傾斜地に生きるー徳島・にし阿波の一年
徳島県西部の山あい。転げ落ちそうな急斜面の畑を生かし、昔ながらの暮らしを続ける人々がいる。山の恵みをいただく自給自足の暮らし。畑仕事は手作業が多く、生活は決して楽ではない。しかし、そこには、私たちが失ってしまった温もりが溢れていた。

 ◇◇◇

転げ落ちそうな、傾斜地に生きる人々の1年を見つめます。

「大変なのは大変やけど、もう本当ほれがな仕事じゃと思うたらな」

徳島県の「にし阿波」と呼ばれる地域。農業には過酷な傾斜地で、人々は知恵を使い、自然にあるものを生かしながら作物を育ててきました。

春。黄金色に輝く畑。

「昔から手で刈るんですか?」

「そうよ、昔から手で刈る。こうして刈る」

食事は、ほとんど自給自足。

梅雨時。

「暑いな」月に1度の「女子会」に、持ち寄ったお菓子。「お団子」と呼んでいるまんじゅう。中身は「ごうしゅいも」と呼ばれる在来種のジャガイモ。

「これがあるからええんよ。1か月に1回、みんなの顔見ての」

夏。地域の中でも最も勾配がきつい「猿飼集落」。この集落では昔から変わらぬ農業が、今も色濃く残っています。

「サラエと言って土をあげるんです。傾斜がきついけん、それで上へ上げるんです」

先祖代々、農業を営む西岡田治豈さんと妻の節子さんです。3人の子どもたちはみな、集落を出ていきました。

「きのうの雨でちょっとぬれとるけん。カヤがだいぶ…」

「普段より重たい?」

「うん、そういうことなんです」

80歳の治豈さん、いつも20キロほどを背負って急な坂を上ります。

「ほとんど苦労なんですけれども、昔から慣れとるけん、当たり前みたいに思ってしよるけん」

お盆が過ぎると、畑にはトンボが飛び始めます。

「ソバまくころになったら、ソバまきトンボって飛ぶんよ。合図してくれる。『もうソバまけよ』って言うんじゃわ」

米の採れない地域で主食として食べられてきた「ソバ」。「ヒトリビキ」という農具で治豈さんが溝を掘ると、節子さんが、手際よくソバの実を落としていきます。

ソバの実をまいてひと月。秋の畑をソバの白い花が埋め尽くします。

「天気の方がええんです。虫が飛んできてくれるけんな、交配してくれるんです。これみたらなんとも言えん。朝来ても、ソバの花みたらうれしいて、『ありがとう』ってひとりでに言葉に出る」

そして、傾斜地に冬がやってきます。

大晦日。三木枋(みきどち)集落の、明美ばあちゃん。年越しそばを作るといいます。ソバを打つのは、長女のさかえさん。この辺りではソバは家で打つのが当たり前。

「このへんのソバって、ちょっと太いんですけどね」

なんでも簡単にモノが買える時代。かつては当たり前だった暮らしが、ここにはあります。

「うん、おいしいかな」

400年前から変わらぬ、この地の農法や食文化は、世界農業遺産に認定されました。

傾斜地に、再び訪れた春。明美ばあちゃんの集落では、花見の宴が開かれていました。

「着物でも食べ物でも何でも、なんでもそんなにすぐに捨てずに再生、再生しもって生活しとったんよ。ほんなんがええんかなとは思う。いっそ、豊かでないほうが考えがようけあってええ」

2022年7月17日放送 NNNドキュメント'22『傾斜地に生きるー徳島・にし阿波の一年』(四国放送制作)を再編集しました。
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