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【特集】消えゆく第三セクター…温泉施設最後の一日に密着 過疎地で果たしてきた役割とは

2025年2月7日 17:25
【特集】消えゆく第三セクター…温泉施設最後の一日に密着 過疎地で果たしてきた役割とは

国や自治体が出資する法人、第三セクターの特集です。

地域振興の旗振り役として、バブル期を中心に、全国各地に設立されましたが、赤字経営などを背景に、その数は近年、激減しています。

由利本荘市では、温泉施設を運営する第三セクターの解散が決まり、施設は先週、営業を休止しました。

その最後の一日に、カメラが密着。

過疎の進む地域で、第三セクターが果たしてきた役割を見つめ直します。

由利本荘市の中心部から、車で約30分。

2700人ほどが暮らす、東由利地区です。

先月末、道の駅の一角にある温泉施設が、ひとつの節目を迎えました。

「なんとなくむなしいというか、わびしいというか、そういう気持ちにいまはなっているところでございますけれども」
「この地域がいつまでも元気が続くように、なんとか私たちの仕事を引き継いでくれる会社が来てくれることを、心から切に望んで、期待しているところであります」

支配人を務める、畠山知也さん。

オープン当初から、この温泉施設で働いてきました。

旧東由利町の新たな観光拠点として1995年にオープンした、黄桜温泉「湯楽里」。

オープンに合わせて設立された第三セクターが運営を担ってきました。

天然温泉のほか、宴会場やレストランを備え、多いときには年間20万人以上が利用していました。

しかし、人口減少や新型コロナウイルスの影響で、近年の利用者はピーク時の半分以下にまで減少。

さらに、エネルギー価格が高騰する中、ある出来事が、綱渡りだった経営に追い打ちをかけました。

湯楽里 畠山知也 支配人
「会社としての体力が失われていたところに、大雨被災があったことだろうと思っております」

去年7月、由利本荘市などを襲った、記録的な大雨。

源泉を引く配管が被害を受け、2週間の営業休止を余儀なくされました。

夏場は施設にとって大事な稼ぎ時。

大きな宴会のキャンセルも相次ぎました。

この影響は深刻で、資金繰りが行き詰まる見通しに。

第三セクターは、今年度いっぱいでの解散を選択せざるを得ませんでした。

残った金融機関からの借り入れ、約3000万円は市が返済し、社員やパート、アルバイト、合わせて20人は、全員解雇されることになりました。

そして迎えた最後の営業日。

営業終了を惜しんで、多くの人が訪れました。

元々は、観光拠点としてオープンした、湯楽里。

いつしか地域住民にとって、無くてはならない存在となっていました。

常連客
「温泉さ入ればよ、なんぼ一日難儀しても、夕方とかな、入りに来れば、心よ、ゆっくりするもの」
「また明日も頑張ろうかなって」

歯止めがかからない少子高齢化。

東由利地区も、例外ではありません。

その中で、ここ湯楽里は、住民にとって貴重な癒やしの場でした。

しかし、ここ数年、県内では、温泉施設の廃業が相次いでいます。

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雪に覆われ、姿を確認することすら難しい建物。

かつて、第三セクターが運営していた、横手市の温泉施設です。

赤字経営を背景に、2018年に民間企業に譲渡されましたが、利用者は伸び悩み、2年で横手市に返還されました。

おととしには、水回りの設備や源泉をくみ上げるポンプの不具合が判明。

去年4月、廃止の方針が示されました。

温泉施設がある狙半内地区は、県内でも有数の豪雪地帯です。

地域住民にとっては、疲れた体を癒やすだけでなく、大切な交流の場でした。

地元の住民
「がっかりですよね。温泉に入って、みんなでお話しできる機会が増えれば元気が湧いてくるんだけども、そういう居場所が無いっていうことは、本当に残念です」

横手市では、大森地区にある温泉施設も同じような経緯をたどっていて、市は、廃止の方針を示しています。

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約30年、第三セクターが守り続けた、地域の交流の場。

湯楽里 畠山知也 支配人
「三セクは東由利には絶対必要だなって、いまだに思っていますよ。無ぐされねがったんでねがなって…だからもうちょっと…やれだがなって」

営業終了まで4時間。

常連客が集まり始めました。

隣の羽後町からほぼ毎日通っていたという親子も。


「こっちに来て、東由利の方々もいっぱいお友達出来て、この子もずっと小さい時から成長を見守っていただいて…本当に残念」
息子
「あと、もう入れないから、ゆっくり入りたい」

母と娘
「一番楽しいのは湯楽里が楽しい」
「大きくなったら何になるの?」
「湯楽里のしごと」
「保育園と家の往復だけなので、帰りに寄って地域の人たちとか地元の子どもと一緒にお風呂入って、保育園より楽しいもんね。忘れないね」

普段は事務室にいることが多い、支配人の畠山さん。

この日は、利用者一人ひとりに感謝を伝え続けました。

そして、最後の時を迎えます。

湯楽里 畠山知也 支配人
「もう一度、ここに明かりが灯って、地域の活性化する源になってくれればいいなと思っています」
「私たちの手は離れますけど、やっぱり再開してほしいというふうに思っております」

温泉施設の運営を通じて、地域の人たちの心を潤してきた、第三セクター。

その明かりがまたひとつ、消えていきました。

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由利本荘市は、4月の営業再開を目標に、運営を担う民間事業者を募集しましたが、応募はありませんでした。

今後、改めて募集が行われ、その結果をもとに、今後の方針を決めていくことにしています。

最終更新日:2025年2月7日 18:49
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