「学校看護師」の育成・強化に着手、増加する“医療的ケア児”と家族のニーズに応える「保育所・学校に多様な医療ケアを安全に実施できる看護師が必要」 名古屋市立大学
学校看護師不足の解消や、専門的看護実践能力の高い保育所・学校看護師の育成を目指すべく、名古屋市立大学・看護学研究科が「医療的ケア児を支える学校看護師エンパワメントプログラム」を立ち上げました。
“医療的ケア児”とは、日常生活や社会生活を営むために、人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引など医療的ケアを受けることが不可欠である子どものこと。医療の進歩を背景として、医療的ケアが日常的に必要な在宅で生活する子どもは、全国で約2万人(推計)いるといわれ、近年増加しています。
そんな医療的ケアが必要な子どもたちを、教育現場で支えているのが「学校看護師」。その仕事内容は医療的ケア児の健康管理はもちろん、主治医など医療関係者への連絡・報告、必要な医療器具・備品等の管理、教職員への指導・助言、ヒヤリ・ハット等の事例の蓄積と予防対策など多岐にわたります。
病院や在宅とは異なり、保育・教育の場を拠点とするため、保育・教育を理解し、保育士・教諭と連携して看護を実践するには、専門的な看護実践能力が必要。すでに多くの看護師が奮闘していますが、保育所や学校では人材不足や支援体制の不足、指導的役割を担う看護師の不在など多くの課題が懸念されています。
“医療的ケアが必要な子どもが安心して保育所・幼稚園・学校に通うためには、多様な医療的ケアを安全に実施できる「学校看護師」が必須”
そんな想いのもと、名古屋市立大学が名古屋市などと連携して立ち上げたのが、「医療的ケア児を支える学校看護師エンパワメントプログラム」なのです。
名古屋市立大学大学院・看護学研究科 成育保健看護学の大橋麗子准教授によると、同プログラムの対象は、保育・教育の場で看護実践を行う看護師たち。看護師自身も不安なく、保育所や学校で看護実践をできるよう、専門的実践能力の育成を目指します。また、看護師同士が相互に情報共有や相談を行うことができるような体制の構築、リーダーシップをとれる看護師の育成についても検討していくといいます。
さらに、名古屋市立大学大学院看護学研究科に、「なごや保育所・学校看護師エンパワメントセンター」を設置。だいどう医療的ケア児支援センターやにじいろ医療的ケア児支援センター、あいち医療的ケア児支援センターなど数々の医療機関と連携し、医療的ケア児を支える保育所・学校看護師の支援やインクルーシブ保育・教育への貢献を目指していきます。
大橋准教授によると、同プロジェクトの一環として、名古屋市立大学では2025年から、看護学部、人文学部、リハビリテーション学専攻、人間文化研究科の学生を対象に講義演習科目を新設。医療的ケア児と家族を取り巻く社会環境や特徴的な健康上の課題を理解し、保育所・学校における必要な支援について多職種連携の観点から学ぶといいます。
また、医療的ケア児と家族の看護ニーズを理解し、子どもの成長発達に応じた保育所・学校における看護実践方法の習得を実施。講師は同学の看護学研究科教員に加え、保育や心理、リハビリテーション、特別支援教育、学校看護の実践・研究者、自治体担当者などの多職種が担当するほか、医療的ケアの実践演習や保育所・学校での医療的ケア児事例展開といった演習も行う予定だといいます。
学校で医療的ケアを行い、医療的ケア児の教育機会の確保・充実に貢献してきた「学校看護師」。なぜ、保育所や学校など身近な場所を拠点とする職業でありながら、“人材不足”が懸念されているのでしょうか。
大橋准教授はその理由について「多様な要因が存在する」と答えながらも、要因のひとつに「社会的認知度が低いこと」を挙げます。続けて、「地域の学校では医療的ケア児が少なく、1校につき学校看護師が1名といった配置も多い。看護師は自立して看護実践することが求められるといった勤務の形態も、看護師の継続的な勤務につながらない要因のひとつと考えられます」と、学校看護師の現状を明かしました。
2021年に施行された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」を機に、医療的ケア児が在籍する保育所、学校等に対する支援は、国・地方公共団体、保育所・学校設置者の“責務”として位置付けられた近年。
こうした現状を受けて、大橋准教授は「今後はますます地域の保育所・幼稚園・学校に通園通学したいという、医療的ケア児と家族のニーズは高まると予測されます。つまり、今後さらに学校看護師のニーズは高まると考えています」と、教育現場における学校看護師の必要性を述べました。
名古屋市立大学看護学研究科を起点に始まった新たな試み。同学では2026年、看護学部4年生を対象とした、保育所・学校にて看護実習を行う科目の新設も計画しているといいます。