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「愛知にこどもホスピスを作りたい!」地元企業の心を動かした、親たちの願い

2024年8月9日 13:38
「愛知にこどもホスピスを作りたい!」地元企業の心を動かした、親たちの願い

「重い病気のこどもや家族のための、『こどもホスピス』をつくりたい」
今年6月9日、そんな想いをのせた無数のシャボン玉が、名古屋の空に一斉に舞い上がった。資金面の課題から、設立まで長い時間を要する『こどもホスピス』。しかし、設立に向けた地道な活動は、着実に名古屋の企業や人々の心を動かしていた。

立ちはだかる“設立費5億円”の壁

2024年6月9日、名古屋市昭和区にある『鶴舞公園』の広場。子どもから大人まで、約50人が一斉に飛ばしたシャボン玉には、“ある願い”が込められていた。

シャボン玉が舞い上がった広場で行われたのは、“ある願い”への寄付。「こどもホスピスプロジェクトの活動資金として、大切に使わせていただきたいです」と寄付金の使い道について語るのは、「愛知こどもホスピスプロジェクト」理事の安藤晃子さんだ。

シャボン玉と寄付金に込められた、“願い”。それは、重い病気のこどもや家族のための「こどもホスピス」の設立だ。

「こどもホスピス」とは、緩和ケアのための施設ではなく、子どもらしく思いっきり遊んだり、家族と過ごしたり、宿泊できる、子どもたちの“やりたい”を応援する施設のこと。

まだ全国に2か所しかなく、愛知県には設立されていない施設だ。設立の壁となっているのが、資金面の課題。「愛知こどもホスピスプロジェクト」代表の畑中めぐみさんによると、設立には5億円もの費用が必要となるが、資金調達の目途は全くついていないという。

亡き娘が教えてくれた、“やりたいこと”を“できた”に変える大切さ

建設まで長い道のりとなる、「こどもホスピス」の設立。しかし、「愛知こどもホスピスプロジェクト」で精力的に活動を続ける1人、安藤晃子さんには「こどもホスピス」を設立したい大きな理由があった。

その理由の軸となっているのが、安藤さんの長女・佐知ちゃんの存在。活発で、やりたいことははっきりと口にするタイプだったという佐知ちゃん。“お医者さんになりたい”という夢を抱いていた年長さんの冬、血液のがん「白血病」と診断された。

「パニックなんですよね。もう受け入れられないし。本当に、診断されたときから、変わるんです。家族のありようが全く」と、当時の心境を明かす安藤さん。

3度の入院に、人工透析。佐知ちゃんはもちろん、支え続ける家族の疲労も、蓄積されていった。

「薬をいくつか飲むんですけど、しんどくて飲めないときがあるんですね。佐知の気持ちじゃなくて、“飲ませないと”っていうので、『飲まないともっと悪くなるよ』とか心ない言葉を言ったこともあって」と話す安藤さん。さらに、必死に治療と向き合うあまり、まだ小学生だった佐知ちゃんの兄・まさきくんのケアも、十分にできなかったという。

「息子からすると、いきなりママはいないし、妹は入院になっちゃって。そういう気持ちを抱えながら生きていたことに、軽くしか気付けていなかったと思います」と闘病の日々を振り返った。

再発が分かったとき、佐知ちゃんがお母さんに宛てた手紙。

そこには、
“ママへ。いつもありがとう。いろんなことを毎日させて、ごめんね。前むきで明かるくて、おもしろいママ、大好きだよ”
と書かれていた。
子どもながらに、佐知ちゃんも家族の異変に気付いていたのだろう。

2021年、佐知ちゃんは9歳6ヶ月で天国へ旅立った。闘病を振り返り、安藤さんは“ある出来事”が、現在の活動につながっているという。

安藤さんが見せてくれたのは、幼稚園の卒園式の映像。そこには、卒園式の会場に設置された画面を通して、先生から卒園証書を受け取る動きをする佐知ちゃんの様子が映っていた。式の当日、佐知ちゃんがいたのは病院。“どうしても出たい”という佐知ちゃんの願いを聞き、園が特別にリモートで卒園式に出席させてくれたのだ。

卒園式の経験から、“やりたいこと”を“できた”に変える経験の大きさを実感した安藤さん。「いま置かれている状況下で、最大限楽しめるようにできるといいですよね」と話す。

そんな安藤さんたちが目指すのが、佐知ちゃんのように“できないこと”が多い子どもたちの、“やりたい”をかなえる場所の設立。その場所こそが、『こどもホスピス』なのだ。

病院や行政の補助に頼らない理由とは?

8年前、大阪に日本で初めてオープンした『TSURUMIこどもホスピス』。太陽の光が多く差し込み、木のぬくもりが感じられる館内。棚には、たくさんのおもちゃが並ぶ。

「ホスピスが“第二のおうち”として、存在したいという願いがある」と話すのは、『TSURUMIこどもホスピス』の西出由実さん。館内には、看護師や理学療法士がスタッフとして常駐しているため、子どもたちは安心して遊ぶことができると施設について説明する。

『TSURUMIこどもホスピス』を利用した濵田あずささんは「(子どもが)しんどくなったりすることが起こりえることも、分かっていてくれているから、子どもを中心に遊ばせてもらえる」と施設の良さを語る。

あずささんの娘・心絆ちゃんは小児がんと闘病中。病院スタッフや家族以外の人と関わる機会は、心絆ちゃんにとって貴重な機会だという。

「私が席を外していたら、看護師さんと仲良くしゃべっていたりとか。あの子にとっても、“吐き出す場所”じゃないですけど、できる限りのやりたいことをかなえてくれる場所」と、“こどもホスピス”ならではの魅力を語った。

『TSURUMIこどもホスピス』では、イベントや施設の利用料は無料。運営にかかる費用はすべて、企業や個人からの寄付でまかなっている。資金面については、病院や行政からの補助には頼っていないという。

その理由について、『TSURUMIこどもホスピス』西出さんが挙げたのが、子どもたちの“自由”。「重い病気とひとくくりにしても本当にさまざまで、子どもたちの思いもさまざま。そのニーズに応えるためには、行政サービスでは難しい。チャリティーで自由度を高めている」と明かした。

子どもたちが自由に過ごせるよう、企業や個人からの寄付で資金をまかなう『TSURUMIこどもホスピス』。愛知県でも、この活動を理解し、協力してもらえる、人や企業を見つけることが今後の課題なのだ。

地元企業も協力「活動が広がるキッカケになりたい」

「愛知こどもホスピスプロジェクト」の活動に対して、すでに動き始めている企業がいた。名古屋の老舗精肉店『肉のスギモト』だ。

2024年6月、名古屋市中区にある『SD FOOD MARCHE』で行われたのは、病気と闘う子どもとその家族を招待したイベント「お肉DEケーキ」。「肉のスギモト」の肉を使って、家族全員で肉のケーキを作るイベントだ。

卵割りに挑戦したり、親と一緒に包丁で野菜を切ったり、楽しみながら料理に取り組む子供たち。そこには、「愛知こどもホスピスプロジェクト」が目指す、“やりたいこと”をかなえる子どもたちの姿が溢れていた。

「愛知こどもホスピスプロジェクト」安藤さんが注目したのは、我慢することも多い“きょうだい”が活躍する姿。「あの目見てください、すごくうれしそうじゃないですか?“きょうだいさん”がね、主役になれるから」と、家族みんなが楽しむ様子に嬉しさを滲ませた。

参加者から好反響を集めた今回のイベント。親たちからは、「この年代の子ができる経験があまりできないので、イベントを通していろんな経験をさせてもらえるのがありがたい」、「安心して参加できたのが本当によかったです。いつも食べない娘もけっこう食べています」など、さまざま声が寄せられた。

「お肉DEケーキ」を主催した『肉のスギモト』の杉本達哉社長は、「(愛知こどもホスピスプロジェクトは)素晴らしい活動ですし、必要な活動だと思った。こういった活動がもっと広がるきっかけになれば」と開催への思いを語った。

“病気の子ども”を真ん中に置くのではなく、みんなで輪になるという考えを主軸とする「こどもホスピス」。“助けてあげる”、”助けてもらう”という思いで一人一人が向き合うのではなく、スタッフも含めて“みんなで楽しむ”ということが大切なのだ。

現在、「愛知こどもホスピスプロジェクト」では、『こどもホスピス』の仮施設を募集中。寄付を募りつつ、まずは仮施設からスタートしたいという意向からだ。

「愛知こどもホスピスプロジェクト」を筆頭に、少しずつ協力の輪が広がり始めた『こどもホスピス』の設立。引き続き、地元の企業や人々の支援が必要とされている。

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