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「助けてと言えるまちに」暴力団事務所の跡地につくる希望のまち 抱樸(ほうぼく)の新たな挑戦 特集「キャッチ」

2025年2月2日 8:00
「助けてと言えるまちに」暴力団事務所の跡地につくる希望のまち 抱樸(ほうぼく)の新たな挑戦 特集「キャッチ」
特集「キャッチ」です。北九州市で生活困窮者を支援するNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の理事長、奥田知志(ともし)さん。今、「希望のまち」という新たな拠点づくりに取り組んでいます。30年以上活動を続けてきたその信念は、誰ひとり見捨てず「つながり続けること」です。

■NPO法人「抱樸」・奥田知志理事長
「ここに並んでる方々は、路上で亡くなっていった人たちがほとんどです。」

1月3日、北九州市小倉北区の勝山公園。並べられた木の札には、路上で息絶えた人や、遺骨の引き取り手がなかった100人以上の「生きた証し」が記されています。

■奥田理事長
「この命、忘れません。黙とう。」

黙とうを呼びかけたのは、北九州市のNPO法人「抱樸」の理事長、奥田知志さん(61)です。30年以上にわたり、路上生活者などの困窮者に手を差し伸べてきました。

追悼集会のあとにはカレーが振る舞われました。多くの人の心と体を温めます。抱樸の支援を受けている男性に話を聞きました。

■山下さん(67)
「(普段は)ウロウロ、ウロウロしよるよ。ホームレスじゃん、今。金がない、住むとこも出らないけんし、家賃も払えん。兄弟がいるけど、迷惑かけたくないから。」

かつては正社員として働いていたという山下さん。借りた部屋をめぐってトラブルになったことから、やむを得ず部屋を出て、路上生活になったといいます。

■山下さん
「夜はどこか寝る所を探して寝るよ。それしかない。」

■奥田理事長
「ちょっとでも体調がおかしいと思ったら、声をかけてくださったら対応しますので、一人で悩まないようにしてください。」

「抱樸」は冬場、毎週金曜日の夜に炊き出しを行っています。食事や衣類の提供、住まいの確保に向けた援助などを通じて、これまで3700人以上の自立を手助けしてきました。

この夜の炊き出しには、先日、話を聞いた山下さんの姿もありました。

■山下さん
「楽しいよ、知り合いと話すの。」

「抱樸」が大切にしてきたのは「つながり続けること」です。

■奥田理事長
「もともと他人だけど、ここで顔を合わせたり、名前で呼び合っている人たちもいます。だから何よりもやっぱり、つながりが大事なんです。関係づくりの場所としても、この炊き出しをやっている。」

夜が深まると、「抱樸」のスタッフやボランティアは、人通りが少なくなった街に出ます。

■ボランティア部・奥田伴子さん
「毛布もらっといたら?」
■スタッフ
「風邪薬。」
■支援を受けた人
「助かります。鼻水が止まらん。」
■伴子さん
「体調悪そう。本当に悪い時は言ってよ。」

優しく声をかけるのは、理事長の奥田さんの妻、伴子さんです。

■伴子さん
「外で寝ている方々に声をかけて、健康状態や何か困ったことがないか聞いていきます。」

ピーク時に比べ大幅に減ったものの、北九州市では今も50人前後の路上生活者が確認されています。去年の秋に「抱樸」と出会ったという、30代の女性の路上生活者もいます。

■女性(39)
「最初に弁当を受け取った時も、 本当に涙が出そうになりました。 本当にありがたかった。『助けてください』とやっと言えたところです。心強いというか、つながるっていいね。」

この日、広い更地に設けられたプレハブの施設にやってきたのは、山下さんです。

■ボランティア部・奥田伴子さん
「遅かったね。」
■山下さん
「寝とった。」
■伴子さん
「寝坊かいな。」

「抱樸」とつながった人たちが集まり、週に1回の交流会が開かれていました。

■山下さん
「山下と言います。よろしくお願いします。」
■伴子さん
「遠いところから歩いてきて。」
■山下さん
「毎週毎週きついけどね。楽しいわね。」
■伴子さん
「何が楽しかった?」
■山下さん
「全部よ。」

プレハブの施設での交流会は、この日が最後でした。

ここはかつて、北九州市の特定危険指定暴力団、工藤会の本部事務所があった場所です。この土地を取得した「抱樸」は、「希望のまち」として新たな福祉の拠点づくりを始めます。

■奥田理事長
「助けてって言える、助けてって言われる“まち”にしたい。私がいる、あなたがいる、なんとかなる、これがこの“まち”のテーマです。」

資材の高騰などで計画に遅れが出ていましたが、全国からおよそ5億円の支援が寄せられ、ようやく起工式を迎えました。

2026年3月の完成を目指す福祉施設には、生活が苦しい人たちが一時的に暮らせる個室を用意し、地域住民との交流スペースも設ける予定です。

■奥田理事長
「つながりは圧倒的に量が問題です。いろんな人が包み込むように出会っていく方が強いですね。1本の太いロープで結ぶより、100本、1000本の糸でからめる方がきっとうまくいく。今度は個別の支援だけじゃなくて、まちづくりです。どういうまちがあるべきなのか、これから本格的に挑戦することになります。」

底冷えする夜の街に、ベンチに座る山下さんの姿がありました。

■山下さん
「こういう生活はもう嫌よ。今からもうちゃんとするよ。みんなから言われちょうけ。ことしはもう腹くくってせなダメよっち。今までの問題も片づけて心機一転、またせないかん。」

誰かの支えがあれば人は何度でもやり直せる、抱樸が目指すのは孤立する人のいない「希望のまち」です。

※FBS福岡放送めんたいワイド2025年1月29日午後5時すぎ放送

最終更新日:2025年2月2日 8:00
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