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「生きてほしい」医療的ケア児と家族 深夜に響くアラーム 一人にしない…支えるため模索続く 特集【キャッチ】

2025年3月8日 6:40
「生きてほしい」医療的ケア児と家族 深夜に響くアラーム 一人にしない…支えるため模索続く 特集【キャッチ】
特集「キャッチ」です。人工呼吸器など日常的に医療のサポートが必要な「医療的ケア児」は、全国におよそ2万人いるとされています。身体的にも精神的にも大きな負担がかかる家族をどう支えていくのか。福岡で模索が始まっています。

北九州市に住む山本聖七(せな)ちゃん(7)は、脳の中枢部・脳幹に腫瘍ができる病気と闘っています。

■母・理恵さん(37)
「お熱は何度かな。」

自分で呼吸ができないため、人工呼吸器が欠かせません。鼻から胃まで入れた管で栄養を取っています。

■理恵さん
「はい、いただきます。」

母親の理恵さんと聖七ちゃんに寄り添うのは、3つ年上の姉、珠鈴(みれい)さん(10)です。

■姉・珠鈴さん(10)
「また触ろう。ほら、ふわふわやね。毎日、聖七ちゃんとお話できるだけでうれしいですけど、もっとお出かけできたらいいなって、たまに思います。」

病気が分かったのは、生後9か月の時でした。突然吐いたり抱っこをすると痛がったりして、病院を受診すると脳から腰にかけて腫瘍が見つかりました。

■母・理恵さん
「頭を打ち抜かれたような、もう悲しかったですね。珠鈴がそばにいたから、平常心を保てたくらいな感じでした。」

聖七ちゃんはすぐに入院して、放射線治療と抗がん剤治療を何度も受けました。それでも病状は悪化し、自分で呼吸することができなくなったため、気管を切開する手術を受け人工呼吸器をつけることになりました。それ以上の治療は難しく、半年後、自宅に戻りました。

深夜1時、真っ暗なリビングにアラームの音が響きました。

■理恵さん
「聖七ちゃん。」

たんを吸引したり体の向きを変えたり、2時間おきにケアをします。この生活が6年間、続いています。

■理恵さん
「最初はとても怖くて、どうしよう殺してしまったらと、とても不安でした。いつまで続くか分からないし、でも生きてほしいし。」

■NPO法人「にこり」代表 看護師・松丸実奈さん
「おはようございます。」

この日、訪問看護のスタッフが聖七ちゃんの自宅を訪ねてきました。NPO法人「にこり」の代表で、看護師の松丸実奈さんです。体調のチェックから入浴の介助まで、聖七ちゃんの生活全般を支援しています。

松丸さんは、こうした在宅でのサポートに加え、一時的に預かるデイサービスを9年間運営してきました。去年から「医療的ケア児」とその家族同士が交流できる機会をつくろうと話し合っていました。

■松丸さん
「お母さんを一人にしないことが大事かなと。同士として話をする時間を提供できたらなと思っています。」

そうした矢先、ことし1月、福岡市のマンションで医療的ケアが必要な7歳の娘の人工呼吸器を外し、窒息させて殺害したとして44歳の母親が逮捕されました。

薬を大量に服用し、同じ部屋に倒れていたという母親は「娘を殺して私も死のうと思ってやってしまいました。今はとにかく元に戻りたいです」と警察の調べにそう供述していました。

聖七ちゃんの母親の理恵さんは、ニュースで事件を知りました。

■理恵さん
「たぶん、自分も一緒にってことですよね。すごく思い悩んだと思います。私も一歩間違えればなるかもしれないし、精神的に追い詰められたりしたら、そうかなと思います。」

事件を受けて「にこり」では、つながる場が必要だという思いをさらに強くしました。この日は、準備をしてきたレストランでの交流会当日です。「にこり」の看護師が、聖七ちゃんの自宅に向かいます。

■看護師
「聖七ちゃん、キラキラ付いてる。」
■母・理恵さん
「ねえねえと一緒に付けたね。」

聖七ちゃんは、お姉ちゃんと色違いのヘアピンでおめかししていました。

■姉・珠鈴さん
「聖七ちゃんとおそろいです。家族でお出かけする機会が少ないので、めっちゃ楽しみです。」

会場のレストランは、今夜は貸し切りです。

■参加者
「久しぶり。大きくなったね。」

交流会には、聖七ちゃんたちを含む4組の家族が参加しました。

■珠鈴さん
「めっちゃおいしいです。全部おいしいです。」

姉の珠鈴さんは、これまで外食する時はほとんど、お父さんと2人きりでした。家族4人そろってのお出かけは、“きょうだい児”にとっても特別な時間です。

■理恵さん
「大変なことあります?」

聖七ちゃんの母、理恵さんは、交流会に参加していた裕香さんに声をかけました。裕香さんの1歳の娘、柚葉ちゃんは、先天性の腸の病気を患っています。

■柚葉ちゃんの母・裕香さん
「(病気を)受け入れられるまで時間が止まっちゃって。気持ちがついていかない。」
■理恵さん
「分かります、私もそうだったから。人工呼吸器を付けるか外すかの2択を迫られたことがあって、親としては別れたくないから人工呼吸器付けたんですよね。でも、それが聖七にとっていいことなのかずっと考えたりして。病気は持っているけど頑張って生きているから、すごいじゃないですか。」

この日、あまり言ってこなかった本音が話せました。

■理恵さん
「いいお友達ができました。」

全国におよそ2万人いるとされる「医療的ケア児」。その家族に必要な支援を届けるための模索はこれからも続きます。「一人じゃないよ、一緒に考えよう。」

※FBS福岡放送めんたいワイド2025年3月5日午後5時すぎ放送

最終更新日:2025年3月8日 6:40
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