安倍首相の米議会演説 政治部長が解説
アメリカを公式訪問している安倍首相は日本時間30日未明、日本の首相としては初めて、アメリカ連邦議会の上院と下院の合同会議で演説した。演説の内容について、政治部・伊佐治健部長が解説する。
Q:安倍首相の演説をどう聴いたか?
A:今回の演説では、立ち上がって拍手をする「スタンディングオベーション」の回数が成功のバロメーターとして注目されていたが、数えてみたところ、12~13回はあった。全体的に首相として期待していたある程度の反応はあったのではないか。
Q:演説のポイントは?
A:大きく3つあった。(1)歴史認識をどう示したか (2)戦後の発展“日本の貢献” (3)日米同盟新時代の姿とは
■歴史認識をどう示したか
今日の演説は8月に発表する戦後70年の首相談話のベースになるとみられ、中国・韓国は、戦後50年の村山首相談話の表現がそのまま踏襲されるかどうかを特に注目している。1995年の村山談話では、「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「深い反省」「心からのおわび」という表現が使われた。安倍首相は、「引き継いでいくと言っている以上、もう一度書く必要はないだろう」と、過去の村山談話で使われた表現は使わない考えを表明していたが、今回の演説には「痛切な反省」という表現を盛り込んだ。英語での演説は「deep remorse(ディープ リモース)」と表現していた。「深い反省」と読めるが、政府の公式な訳は「痛切な反省」としている。
「侵略」や「おわび」というキーワードは今回は使われなかったが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から「目をそむけてはならない」との強めの表現もあった。安倍首相が今回の演説で一つの目的としていた、「安倍首相は『歴史修正主義者』との認識は誤解」だとの主張がにじんでいる。ある政府関係者は、「率直に話して聴いている人が納得するような話し方」を模索する考えを示していた。これを中国、韓国がどう評価するか。ある外務省幹部は、「アメリカ議会での演説で賛同が得られるかどうかが、戦後70年談話の成功に向けた試金石」と語っていた。
■戦後の発展“日本の貢献”
戦後70年の歩みを振り返り、アメリカがつくったといえる戦後の自由と民主主義に基づく世界秩序の中で、日本が世界平和や経済発展に果たしてきた役割を強調した。今回の演説で、安倍首相、さらに日本政府が一番、強調したかった部分ではないか。特に、協議が大詰めを迎えているTPP(=環太平洋経済連携協定)について、民主主義や法の支配といった共通の価値を広めるものだとアピールした。裏を返すと、AIIB(=アジアインフラ投資銀行)の設立で新たな金融ルールを作ろうとする中国を強くけん制した形。
■日米同盟新時代の姿とは
28日に行われた首脳会談でも、日米同盟が新たな段階に入ったことが強調された。大きく意識されているのはやはり中国の存在だ。新しい日米防衛協力の指針(=ガイドライン)により、尖閣諸島で有事があれば、安保条約に基づいてアメリカも一緒になって守ってくれることが改めて確認され、中国の強引な海洋進出に対して抑止力が働くことになった。今日の演説でも、安倍首相は法の支配による海の平和を強調して、中国をけん制した。
一方で、新ガイドラインにより、日本の自衛隊の役割は日本周辺から世界規模へ大きく拡大した。アメリカから評価され期待される一方で、日本の責任は重くなった。安倍首相は、積極的平和主義を強調することで日本は世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たすとうたい上げ、必要な法案の成立を今夏までに必ず実現すると約束した。新たなガイドラインを裏付ける安全保障法案は、国会でこれから審議が始まる状態。野党側が反発する中で、思い切った発言だった。こうした状態でアメリカと約束をすることに、アメリカ議会では拍手を受けたが、今後の国会においては、野党側の闘志に火をつけた面もあったかもしれない。