【独自解説】“徹夜国会”回避の舞台裏…「茂木幹事長が想定外の行動」に
来年度予算案は2日、衆議院を通過し年度内成立は確実となりました。前日の1日には一時“徹夜国会”になるのでは?との声も出る中で、ギリギリで回避されました。何があったのか?検証取材を進めると、与野党幹部が「自民党の茂木幹事長が想定外の行動に出た」と明かしました。予算案衆院通過の裏舞台を伝えます。
■「2日までの採決」にこだわった岸田首相
今月2日。国会では、土曜日にもかかわらず衆院本会議が開かれ、来年度予算案が衆議院を通過しました。異例の土曜日の本会議採決にはワケがありました。憲法の規定で、今月2日までに予算案が衆議院を通過すれば、年度内の成立が確定するからです。
仮に2日採決を逃すと、予算成立が不確実なまま、参議院の予算委員会で野党の攻勢を受けることになり、政権がさらに不安定化する可能性があったのです。岸田首相はかねて周囲に「年度内成立を確実にする」との方針を示し、「2日までの採決」を譲らない姿勢でした。ある自民党幹部は「首相が政倫審まで出てきて、もし4日採決になったら、首相も国対もメンツが立たなかった」と振り返りました。
タイムリミット前日の3月1日。国会は、朝から異様な熱気に包まれていました。
与党側が採決を急ぐため、予算委員長の職権で集中審議を設定する強硬手段に出たことから、立憲民主党が激しく反発。予算委員長への解任決議案と、財務相への不信任決議案を相次いで提出。立憲は、こうした決議案を重ねることで時間を稼ぎ、「2日採決」をタイムオーバーにさせる作戦に入りました。
立憲の安住国対委員長は、「息の長い抵抗をする。あんパンも水も用意した」と仲間の議員に呼びかけ、夜通しの抵抗する姿勢を見せていました。一方の自民党側もまた、徹底抗戦の姿勢を崩しません。国会内のコンビニの棚から食品がなくなるなど、一時は関係者は“徹夜国会”を覚悟。与野党から「このままだと死人が出る…」との声も上がりました。
ところが、1日午後8時頃までに、思わぬ動きが出てきました。それは、岸田首相の"身内"からでした。複数の与党・野党幹部によりますと、茂木幹事長が動き出したと言います。ある与党幹部は「それまで調整に関わってなかったのに…」と振り返ります。与野党協議で妥結策が見通せない中、茂木幹事長が立憲民主党側と「4日採決」に向けた、調整に動き始めたというのです。ところが、その提案は岸田首相と事前にすりあわせたものではなかったといいます。結果、この「4日採決」案が岸田首相の耳に入ると「大反対」。
この2人の姿についてある自民党幹部は「岸田・茂木ラインは、”没交渉”」とやゆしました。後日、岸田首相は周辺に「自民党幹部は、最初から2日採決でまとまっていた」と説明しています。一方の茂木幹事長は、周辺に対して「立場として調整には動いた」とした上で、「4日採決でいいとは言ってない」と否定しているということです。
岸田首相の方針が伝えられると、「4日採決でまとめる」と動いていた立憲側の戦略は暗礁に乗り上げました。安住国対委員長は、周囲に対し「岸田首相は本当に頑固だ。国対委員長や幹事長が束になってもひっくり返せるくらい、首相というのは強いんだ」と振り返りました。自民党幹部のひとりは、「結果、茂木幹事長の動きで、安住さんが流れを読み違えたかもしれない」と分析しています。
そしてもう1つ、立憲側が方針変更を迫られた理由がありました。それは、他の野党の動きです。解任・不信任決議案を連発させる立憲の姿勢に、日本維新の会のみならず国民民主党からも「さすがに単なるパフォーマンス」との声が上がるなど、批判の矛先が立憲側に向かい始めていたのです。
立憲側には、年度内の予算成立を不確定にすることで、政府与党を揺さぶりたい狙いがありましたが、結果、岸田首相の想定以上の頑固さに、立憲側が折れた形となりました。
■維新が調整に加わり深夜国会に終止符、「2日採決」で与野党合意
1日午後10時。鈴木財務相不信任決議案を処理する衆院本会議で立憲議員による趣旨弁明が始まると、「きょうはいつまで続くんだ…」という絶望的な空気が与野党に漂いました。
一方、複数の野党幹部によりますと、実はこの時点で立憲は自民党側との交渉が行き詰まり、「条件付きでの2日採決」をのむことを決め、採決までの日程案を自民党側に投げていたというのです。ところが自民党側からは、返事が来なかったといいます。
そうした中、急きょ野党の国対委員長が国会内で集まり、日本維新の会が、自民党との調整に加わることになったのです。自民党側が「立憲に合意を破られないか」と疑心暗鬼となる中、維新の国対幹部が自民党に働きかけ、政治倫理審査会を今後も行うなど条件を付けた上での「2日採決」で与野党が合意に至り、深夜国会に終止符が打たれたということです。