世界初 iPS細胞用いた脊髄損傷治療 臨床研究の成果発表

iPS細胞で脊髄損傷を治療する世界初の臨床研究の成果が発表されました。
世界初の臨床研究を行ったのは、慶応大学などの研究チームで、脊髄損傷で運動機能も感覚も完全にまひした患者4人に対し、損傷後2週間から4週間の段階で、iPS細胞から作った神経の元になる細胞を脊髄に、およそ200万個ずつ注入しました。
リハビリも行い、1年間観察した結果、がんができた人はいないなど、安全性が確認されたほか、2人の患者で運動機能改善が確認されるなど、有効性が示唆されるデータが得られたということです。
運動機能改善が見られたうち、1人(不慮の事故で脊髄を損傷した高齢男性)は手助けなしで立っていることができるようになり、歩く練習をしているということです。
もう1人の患者(年齢が中年とのみ公表)は立つことは難しいものの、食事がとれるまでに改善したということです。
研究チームによりますと、完全にまひした患者の場合、リハビリの効果のみでこのような改善が見られるのは10-12%程度だということで、4人中2人で改善が見られたことに「手応えを感じている」とし、今後も長期にわたり経過を観察していくと話しました。
機能改善にばらつきがあったことについては、4人とも完全に脊髄損傷した患者ではあるものの、損傷部分の大きさがかなり違うとし、機能改善が見られなかった2人は損傷の範囲が非常に広かったと説明しました。
また、患者の脊髄に注入する神経の元になる細胞の量については、ラットの実験で安全性が確認されたのが200万個だったため、今回の臨床研究では、実施の承認を得るために、200万個になったと説明し、「少ないと思っている。(注入する)細胞数を増やすことは考えられる。重要な点になる」と述べました。
研究チームは、今後、脊髄損傷後1か月以内の「亜急性期」の患者を対象に、企業主導の治験をなるべく早い段階で開始し、実用化にむけた準備を続けるということです。また、脊髄損傷後数ヶ月以上たった「慢性期」の患者についても、2027年度に臨床研究を始める予定だということです。
中村雅也教授は、「ほかのiPS細胞を用いた臨床研究と違うのは、まだ増殖して分化する細胞を(患者の体内に)入れていること。安全性が検証できたのは何よりも大きい」とした上で「2例で機能改善が見られたのは大きな一歩。次につながる光が見えている」と話しています。
岡野栄之教授は「世界初のiPS細胞を使った脊髄損傷の治療で、それなりに意義があった。なかなか成果が出ないと厳しい、つらい日々がありましたけど、やっと報われた気がしております。うまくいけば革新的な治験に進むことができると思った。何合目かというのはなかなか難しいですけど、ある程度登れたなと思っています」と述べました。
脊髄損傷の患者は日本国内で毎年新たに5000人以上発生するとされ、慢性期の患者は10万人以上にのぼります。脊髄を損傷すると手足などが動かなくなりますが、治療法はなく、iPS細胞を用いた治療の実用化に期待が高まっています。