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男性の方が「セックスをしたくなくても断らない」背景にジェンダー規範?【セックスにおけるコミュニケーション調査】

2023年3月9日 20:21
男性の方が「セックスをしたくなくても断らない」背景にジェンダー規範?【セックスにおけるコミュニケーション調査】
日本テレビでは、3月8日の国際女性デーにあわせ、医師監修のもと「セックスにおけるコミュニケーションに関する調査」を実施しました。立命館大学博士課程で男性の性暴力被害について研究している宮﨑浩一(みやざき ひろかず)さんに話を聞くと、性的同意の取り方の背景に「ジェンダー規範」も見えてきました。

(調査結果はこちらのリンクから)
https://news.ntv.co.jp/category/society/5ea4bd99c3484c788782ef7b7d0442c6

■セックスは特定のパートナーとする?男女で結果にギャップ

調査で「あなたは、セックスは付き合っている相手や結婚している相手など特定のパートナーとしますか」と尋ねたところ、女性では「特定のパートナーとのみする」人が83.41%と8割を超えましたが、男性では59.39%にとどまりました。

また、「不特定のパートナーとのみする」人が女性では0.11%とほとんどいませんが、男性では4.75%で、男性の方が不特定のパートナーとセックスをする傾向がわかりました。

では、セックスのパートナーが特定か不特定かによって、性的同意(性的な行為をする前に、その行為をしていいかお互いに確認し、同意すること)の傾向は異なるのでしょうか。

■セックスのパートナーが不特定だと性的同意がうやむやに?性暴力につながる危険

「あなたがセックスに誘うとき、パートナーに対し、言葉やお互いに意味を共有している合図で意思確認をしていますか?」という質問に対する回答を見て、立命館大学博士課程で男性の性暴力被害について研究している、臨床心理士の宮﨑浩一(みやざき ひろかず)さんは、性暴力の被害者や加害者になってしまう危険性に言及しました。

宮﨑さん:
特定のパートナーとのみする人たちの中で「意識していないので分からない」「確認することはない」が一定層いて、この中にマリタルレイプ(夫婦間で無理やり性交におよぶこと)やデートDVといった、特定のパートナー間で生じる性暴力が含まれているかもしれないと、まずひとつ思いました。
もう一方で、「不特定のパートナーとのみする」人たちでは「意識していないのでわからない」が45.45%で、「確認することはない」が20.45%となっている。他の層と比べても圧倒的に高く、この中には性暴力に繋がっていることもあり得るだろうと思いました。

■「勃起」は「身体的反射」にすぎず、セックスしたいとは限らない

また、パートナーが特定か不特定かによって、意思確認の方法にも違いが見られます。

宮﨑さん:
特定のパートナーとセックスをする人が言葉で確認しているのは、相手の主体性を認めた同意のあり方なんだろうと思います。ある程度対等な関係だから、断られても関係を継続できるセックスを行おうとしているのだと思いました。



一方、特定のパートナーとセックスをする機会がある人と比べ、「不特定のパートナーとのみする」人は、「ラブホテルや寝室などセックスができる場所に行くか確認する」「性的に興奮しているかを目で見て確認する」の割合が高くなりました。

宮﨑さんは、このような確認の仕方では「相手の主体性を尊重していない」として、実際には同意を確認できていない可能性を指摘しています。

宮﨑さん:
たとえば、「性的に興奮しているかどうかを目で見て確認する」。男性の性暴力被害では、被害者の身体反応を促す加害の仕方はよくあります。「勃起している」というのは身体的な反射でしかないので、セックスしたいと思っていない可能性もある。「勃起している」ということに「性的な興奮」とか「セックスしたい」という意味を勝手に受け取ってしまうと、齟齬(そご)が生まれる可能性があります。
「ラブホテルや寝室などセックスができる場所に行く」というのも、そこで何をするかは、もしかしたら「常識的に分かるだろう」みたいに思うかもしれないけれど、パートナーはセックスを望んでいない可能性があります。そのため、勝手に意味を想像しているというところで、同意を確認できてない可能性が残ると思います。

■セックスを「したい」と言うのは“かわいらしく”ない?

男女別で比べても、宮﨑さんには気になる点があるといいます。男女間でのセックスを想定したとき、性的同意を形成するプロセスに「ジェンダー規範」が影響している可能性があるというのです。

例えば「セックスに誘われて同意したいとき、あなたはどのように伝えていますか?」という質問に対して、「ラブホテルや寝室などセックスができる場所に行く」と答えた人は、男性の方が多くなっています。

宮﨑さん:
女性が引っ張っていくことは、いわゆる"女らしさ"には当てはまらないので、自ら誘って行くというよりは、むしろ「連れていかれる」状況が多いかもしれません。そういうところの非対称性みたいなものがあるのかもしれないと思いました。



一方で、女性の方が多い項目もあります。たとえば、「ハグやキスなどのスキンシップで伝える」と答えた人は、男性では32.47%だったのに対し、女性では36.7%とやや多くなりました。

宮﨑さん:
ジェンダー規範というところに照らしてみると、女性に許されている能動的な行動ってここまでなのかもしれないと思いました。セックスをしたいという欲求を、 "かわいらしく"伝えられるギリギリのところが「ハグやキスなどのスキンシップ」なのかもしれません。
もう一つ、何もしないというところの男女の差。主体的、能動的な男性と、挿入される客体的、受動的な女性というジェンダー規範があるのかなと考えました。

■性的同意は必要なのか「わからない」人が多いのは女性

行動だけでなく、意識にもジェンダー規範が影響している可能性があるといいます。

宮﨑さんが指摘したのは、「あなたは、セックスをする際、言葉による同意の確認は必要だと思いますか」という質問に対し「どちらともいえない・わからない」と答えた人の男女差についてです。

「毎回必要だと思う」人は男性で35.41%、女性で34.55%とほとんど差が見られませんが、「どちらともいえない・わからない」と答えた人の割合は、男性では14.82%のところ、女性では21.7%と、およそ7ポイント高くなっています。

宮﨑さん:
「毎回必要だと思う」人にはジェンダー差がなくて、曖昧な人にはジェンダー差がある。女性が主体的に関われていたら、「どちらともいえない・わからない」という曖昧な回答は少なくなるのではないのかなと。
セックスをするにあたって、その当事者が平等に「性的同意」を形成するはずなのに、女性はその感覚を持ちにくい立場に置かれるのかもしれないと思いました。求められたり、能動的に関わってきたりするのは男性であって、女性はそれをどう「いなすか」みたいな固定的な役割を与えられやすいのかもしれません。

■男性はセックスしたくなくても「断りづらい」?

では、セックスをするか、しないかを決めるすべてのプロセスで、男性がより積極的に関わっているのでしょうか。

「セックスをするにあたって意思確認をされたかされていないかにかかわらず、あなたは、セックスをしたくないときは断りますか」という質問に対する回答を男女別で比べると、女性は「毎回断る」が21.82%だったのに対し、男性では10.75%とおよそ半数にとどまりました。さらに、男性で「断らない」「ほとんど毎回断らない」と答えた人をあわせると約5割にのぼりました。

宮﨑さん:
男性であれば、主体的に「NO」と言えると思われるかもしれないけれど、セックスしたくない状況の時に「断れない」という点に男性規範が関わっているかもしれません。誘われているにもかかわらずセックスをしないというのは、ある種男らしさの沽券(こけん)に関わる部分かもしれないとは思いました。「毎回断る」に女性が多いというのは、女性はある種断れる関係性を築いてからセックスをする傾向があるのかもしれません。

■調査方法

本調査は、2023年2月28日(火)~3月2日(木)に、大手リサーチ会社に登録したモニターを対象に行い、1,781人から有効回答を得ました。セックスの経験があると答えた回答のみを有効回答とし、世代間の意識の違いがわかりやすいよう、10代(16歳以上)、20代、30代、40代、50代以上でほぼ同数の回答が集まるよう設定して、男女比も国勢調査に近づけました。

監修:産婦人科専門医 稲葉可奈子氏
協力:JX通信社

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