【解説】女性が自らのカラダや健康に関する選択をする権利とは ~国際女性デーで考える~
(国際部 オコーノ絵美)
◇◇◇
■“性交同意年齢”引き上げ
相手とのセックスに同意するかどうかを自分で判断できる年齢として刑法で定められた「性交同意年齢」。明治時代に定められた「13歳」が長年適用されてきたが、この年齢を16歳に引き上げ、年齢差が5才以上ある場合、16歳未満とのセックスは一律で処罰対象とする改正案が今年2月に示された。
【注:動画では「16歳に引き上げられた」となっていますが、正しくは「16歳に引き上げる改正案が示された」です】
若者のセックスをめぐって、興味深いデータがある。日本テレビが国際女性デーに向けて行ったアンケートでは、セックスをしたくないと思っても実際には断らないと答えた人が、10代では約34%、20代では約41%に上った。
また、セックスや避妊に関する不安について聞いた項目では、「正しく避妊が出来ているかという不安をパートナーに伝えられない」と答えた人が10代で37%に。パートナーであっても、セックスや避妊に関しては、正直な気持ちを言い出しにくい現状があるようだ。
監修:産婦人科専門医 稲葉可奈子
協力:JX通信社
■低用量ピル 低い普及率
相手の意思にかかわらず、女性自らが望まぬ妊娠を防ぐための方法の1つとして「低用量ピル」の服用がある。避妊だけでなく生理のつらい症状の緩和や、生理日をずらすためなど、様々な目的で使われている。
最近ではオンラインで処方されるピルのCMなども見かけるようになったが、2022年の日本の女性のピル服用率は1.6%と欧米諸国に比べてかなり低く、一般的な避妊方法として普及しているとは言えない状況だ。
■中絶めぐる課題とは
また、避妊をしていても妊娠してしまったり、レイプ被害や経済的な理由などから、出産を望まない場合には「人工妊娠中絶」という選択肢がある。
日本では2021年の1年間で、14万5000件以上の中絶が行われた。年代別では最も多い20代に続いて、10代でも年間1万件以上の中絶手術が行われている。
これだけの中絶が行われている日本だが、課題もある。その一つが中絶の「同意書」だ。日本では結婚や事実婚をしている女性が中絶手術を受ける場合、本人だけでなく夫も同意していることを示す「同意書」の提出が求められる。
つまり、夫がいる場合は女性本人だけの意思では中絶ができないのだ。
また、中絶手術の方法にも課題が残っている。中絶手術には、主に金属製の機器で受精卵などを掻き出す「掻爬(そうは)法」と、チューブで吸い取る「吸引法」がある。
このうち、掻爬法は感染症など合併症の発生リスクが高いとしてWHO(=世界保健機関)が2012年に「時代遅れで安全性に劣る中絶法」と指摘している。
しかし、日本で行われる初期の中絶手術では、掻爬法が約3割、掻爬法と吸引法を組み合わせた方法が約3割と、実質6割でリスクが高いとされる掻爬法が使われている。さらに一部を除き保険は適用されず、費用は十数万円と高額だ。
こうした中、注目されているのが「飲む中絶薬」だ。手術ではなく、薬を服用することで妊娠をストップする方法だ。
厚生労働省は今年春にも承認するかどうかの判断を示す予定で、承認されれば人工妊娠中絶の飲み薬としては国内初になる。
フランスでは1988年に承認されていて、現在少なくとも65以上の国と地域で使用されているが、日本で承認費用が高額になる可能性も指摘されている。
■性器切除に苦しむ女性たち
一方、女性の身体と健康の権利をめぐり、より深刻な課題を抱えている国や地域もある。
FGMという言葉を聞いたことはあるだろうか。日本ではあまり馴染みはないが、「医療目的ではなく女性の性器を切除すること」をFGM(Female Genital Mutilation)と呼ぶ。
WHOは、FGMを受けたことのある女性や少女はデータがある31か国で、少なくとも2億人に上ると推定している。中でもエジプトはFGMの割合が高く、エジプトの保健当局が2021年に行った調査では、15歳~49歳までのエジプトの既婚女性の実に86%がFGMを受けたことがあるという。
なぜFGMが行われるのか。
エジプトの首都カイロでFGMを受けた女性らの治療などにあたるRestore FGMのリハム・アワード医師に聞いた。
「(FGMの)目的は明らかに女性のセクシュアリティ(性)を抑制するためです。FGMをしていない女性は社会からふしだらとか純潔でないとみなされます。エジプトではFGMは非常に大きな文化的な問題です。イスラム教徒とキリスト教徒の間で等しく行われているため、宗教的な問題ではありません」
こうした国では、社会が女性に求める“純潔さ”を満たすため女性器を切除する行為が古くから慣習として行われているのだ。これにより、多くの女性たちが身体的・精神的な苦痛をうけ、尊厳を傷つけられ、感染症などのリスクにさらされている実態がある。
アワード医師のもとを訪れるFGMを受けた女性たちの多くは、7歳から15歳の頃に女系親族や知り合いに連れられ“大切な日”として通過儀礼のようにFGMを受けさせられるという。女性たちは"あの日のことは決して忘れない"と口を揃えて言うそうだ。
こうした事態を改善するためにはどうすればいいのか。
アワード医師は、「男女問わず性教育を通じて自分の身体が傷つけられそうなときにはNOと言っていいのだと教えたり、性や身体に関する問題をオープンに話し“タブー”をなくしていくことが必要だ」と強調する。
自分のカラダや健康について自らが選び、決める権利は「性と生殖に関する健康と権利」(SRHR)として1994年に国連人口開発会議が提唱している。そして、この権利は女性だけでなく、男性も、そしてトランスジェンダーなど、LGBTQ+コミュニティーを含むすべての人が等しく持つ基本的な人権だ。
国際女性デーをきっかけに、まずは自分やパートナー、周囲の人たちのこうした権利が守られているか、身近なところから考えるきっかけになればと思う。
◇◇◇
※「性交したくなくても断らない」グラフについて
本調査は2023年2月28日(火)~3月2日(木)に、大手リサーチ会社に登録したモニターを対象に行い、1,781人から有効回答を得ました。セックスの経験があると答えた回答のみを有効回答とし、世代間の意識の違いがわかりやすいよう、10代(16歳以上)、20代、30代、40代、50代以上でほぼ同数の回答が集まるよう設定して、男女比も国勢調査に近づけました。