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高いワクチン接種率─日本の戦略とは

2022年1月3日 20:00
高いワクチン接種率─日本の戦略とは

2022年、新型コロナワクチンの3回目接種が本格化する。1年前の今頃、国内では、ワクチンはまだ承認すらされていなかった。欧米に比べ遅れた接種開始、厳しい“ワクチン争奪戦”もあったが、結果的には日本の接種率は世界トップクラスに。日本のワクチン戦略の舞台裏に迫る。

■数人で決断した極秘契約

2020年7月、新型コロナウイルスの第2波のさなか、厚生労働省の部屋に集まった数人は、極秘で、ある決断を下した。

「アメリカの製薬大手・ファイザーから、6000万人分の新型コロナワクチンの供給を受ける」

契約の金額は非公表。まだ臨床試験が始まったばかりで、開発に成功するか未知数のワクチンを、国民の半数分確保するという大きな決断だった。「ここで全ての勝負がついた」。当時、交渉に加わった厚労省の担当者はこう振り返った。

未知のウイルスだった新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めた当時、ワクチンの開発が何より急がれていた。世界中の製薬会社などが名乗りを上げ、開発がスタート。開発が成功する前のこの段階で、世界の“ワクチン争奪戦”は、早くも始まっていた。当時の交渉担当者は言う。「他国がどのように交渉を進めているのか全く見えない状態だった」

2020年7月下旬、厚生労働省は、ファイザーと6000万人分のワクチン供給の基本合意を結んだ。その頃、イギリスも3000万回分(1500万人分)でファイザーと合意したと発表し、アメリカも、1億回分(5000万人分)の供給(追加で最大5億回分=2億5000万人分)を受ける契約を結んでいた。

■臨床試験途中での“賭け”…未知数のワクチン

しかし、これは大きな賭けでもあった。ファイザーが、ドイツのバイオベンチャー「ビオンテック」と共同で開発していたワクチンは、「mRNA(メッセンジャーアールエヌエー)ワクチン」と呼ばれる新しいタイプのもの。体への影響も未知数で、2020年7月の時点では、臨床試験は始まったばかり。有効性も安全性もまだ確認されていなかった。

日本政府は、開発競争を見据えて、モデルナやアストラゼネカなど複数の製薬会社などとも交渉。全国民に十分足りる量のワクチンの確保を急いだが、接種に向けて次に立ちはだかったのは、“承認の壁”だった。

■遅すぎた承認…世界に出遅れたワクチン接種

日本では、ワクチンの申請から承認までには、通常1年ほどかかる。緊急に必要な場合に通常より承認を早める「特例承認」でも、いくつかの条件がつく。その1つが「先に海外で承認されていること」だ。

2020年12月、アメリカやEUなどが相次いで新型コロナのワクチンを承認し、欧米やイスラエルなどで接種が始まった。

日本では、「特例承認」に至ったのは2021年2月14日、接種開始はその3日後。世界からは大きく出遅れた。ここからどう接種を進めるか、課題を抱えながらのスタートだった。

■“1日100万回接種”日本の巻き返しが始まった

Our World in Dataによると、先行したイスラエルでは、2021年3月末時点で2回接種を終えた人は、すでに人口の5割を超え、アメリカでは19.1%、イギリスでは6.6%。当時日本では、医療従事者への接種が始まったばかりで、接種率はわずか0.1%だった。

日本は、接種率を上げるため、2021年6月、若い世代が接種しやすい企業や大学などでの職域接種を、当時の菅総理大臣の指示で急きょ始めた。しかし、準備不足の中、申請数が急増したことで、一時的にワクチンの供給が追いつかなくなるなど、大きな混乱を招いた。

自治体の接種が軌道に乗り始めた6月以降、一時、自治体へのワクチン供給が足りなくなったほどだったが、日本は、目標だった1日100万回以上の接種を達成しはじめ、1日あたりの接種回数は世界でもトップクラスに伸びていった。

2021年12月23日時点での、日本の接種率は78.1%。イギリスが69.2%、イスラエルが63.1%、アメリカが61.2%にとどまる中、日本の接種率は、世界の上位に位置し、欧米などの多くの国々を突き放していた。

■自治体と医療従事者の奮闘は続く

ワクチン接種を推し進める原動力となったのは、全国の自治体と医療従事者などだった。2021年12月20日時点で83.5%の住民への接種を完了した東京・八王子市の担当者は、「医師会や地域の協力を得て、大きなトラブルもなく、希望する方への接種を完了でき安堵している」と語り、達成感をにじませていた。

さらに、間髪を入れず八王子市では、2022年1月から、高齢者への3回目接種が始まる。「関係者とこれまで培ってきた基礎がある。今後の接種にも邁進していく」。担当者は、言葉に力を込めた。

■“第6波”を防ぐ新たな闘いへ

2021年12月、オミクロン株の市中感染が相次いで確認され始めた日本。厚生労働省の専門家会議では、オミクロン株の感染者1人が、何人に感染させるかを示す「実効再生産数」は、デルタ株の約4倍だとして、感染者数が類を見ない速度で増加しているとの分析結果が公表された。専門家の会議は「次の流行が起きてもおかしくない状況」として、“第6波”への警戒感を強めている。

岸田総理大臣は、ワクチンの3回目接種の時期について、前倒しを表明した。原則、2回目接種から8か月後としてきたが、医療従事者や重症化リスクの高い高齢者施設の入所者などは「6か月後」に、一般の高齢者の接種は「7か月後」に、前倒しすることを決めた。

2022年、本格的に始まる3回目接種。ワクチン接種を加速させることで、新たな感染の波を防ぐことはできるのか。新型コロナウイルスとの闘いは、続く。