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自宅で暮らしたい…訪問型精神科医療の挑戦

2011年12月5日 22:52
自宅で暮らしたい…訪問型精神科医療の挑戦

 うつ病などの精神疾患で病院に通う人は年間300万人。その数は国民の40人に1人にあたり、01年の1.5倍となっている。日本では、重い精神疾患の場合は入院治療が中心だが、患者からは「住み慣れた自宅で生活したい」という切実な声が上がっている。こうした中、重症患者に訪問型の医療を提供し、希望をもたらしている、医師やソーシャルワーカーらの取り組みを取材した。

 黒川常治さん(42)は、グラフィックデザイナーとして活躍していた99年、うつ病を発症し、職を失った。病状が安定した今、心の病に理解と支援を求める活動を続けている。黒川さんは「テレビのリモコンを取る、それすらできないひどい時がある。病院に行くほど力がない時に、ドクターや支援者が家に来てサポートしていただけると、かなり助かります」と話す。

 京都市にある訪問型の精神科「ACT-K(アクト・ケー)」では、医師や看護師、福祉に詳しいソーシャルワーカーらがチームを組み、自宅で暮らす重度の精神障害者を支えている。看護師らが患者を訪問し、会話を通じて、病状だけでなく、食事や現金が足りているかなどを把握し、生活全般を支援する。当番の職員は、深夜も電話を持ち歩き、24時間体制で患者の相談に応じている。

 海外で普及している精神科の訪問支援を実現した、ACT-Kを主宰する高木俊介医師は「統合失調症は100人に1人がなる。絶対、他人(ひと)事じゃないんです。重度の人がきちんと支援されて地域で人間らしく暮らす姿がないと、(軽度の人も)自分が悪くなったら、精神科病院(入院)だとびくびくして。それでは軽度の人だって良くならない」と語った。

 ACT-Kに所属するソーシャルワーカー・金井浩一さんは現在、統合失調症の男性患者を支援している。この男性は、大学卒業後に海外で日本語教師をしていたが、約20年前に発症した。入院がつらくて、歩いて家に戻ったこともあるという。男性の母親は「誰でも、病院より家の方がいいですからね。本当に助かっています。家の者だけじゃ、対応しきれませんから」と話した。

 金井さんは、男性を気遣い、病院のような薬や治療には触れず、音楽を話題にする。音楽が好きな男性を和ませようと、いつもギターを持参して曲を演奏する。金井さんは「人間関係がまずありきで、その次に薬や医療があるかなと。3年、5年でも関わり続ければ、何か必ず変化がある。ずっと関わり続けようかなと思う」と語った。

 精神科の訪問支援組織は全国に約20しかない。誰もが精神疾患になりうる時代、「自宅で暮らしたい」という患者の願いをかなえるため、新たな支援が求められている。