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“好き”をとことん どの子も特別扱い フリースクールの日常(上)

2023年5月2日 16:51
“好き”をとことん どの子も特別扱い フリースクールの日常(上)

子どもの発達の程度や興味・関心が一人一人違う中、それぞれの子どもに応じた最適な学びをいかに提供できるかが、今課題となっています。そんな中、東京のあるフリースクールでは時間割も必修もなく、それぞれのペースややり方で学びを深める子どもたちがいました。

東京・渋谷区。小さなビル1棟を使った「YES(イエス)インターナショナルスクール東京校」は、公的な補助金を得ていない民間のフリースクールです。6つのスペースがあり、科学やプログラミング、英語などを学ぶほか、ボルダー(ボルダリング)の練習場もあります。ここには、様々な小中学生が通っています。学校のかたわらに来る子、学校が苦手で自宅で勉強していて、週に数回来る子など。

午前10時から正午まではゲームをせず、学習に取り組みます。学習支援の先生もいるほか、食事やおやつの時間は決まっています。週にいくつかの講座が開かれますが、出席は自由。午後から来る子、途中で帰る子、講座の途中の出入りも自由です。

ある部屋では、この日、打ち上げ予定のアメリカ・スペースX社のロケットについて、小学生と先生が話していました。

先生
「スペースX社のロケットは今までのロケットと違うことがあるんだけど、何が違うの?」

児童
「月に行く?」

児童
「コストが安い?」

先生
「コスト!  うーん、近い」

児童
「何回も打ち上げたいから」

先生
「何回も?」

児童
「再利用?」

先生
「再利用! え、ロケットって再利用できるの? どうやって?」

児童
「地球に戻って海に落ちて、それをひろって、エンヤコラって持ってくる」

児童
「…あ! わかった! そのまま打ち上げて、シューッと着地する(笑顔)」

先生
「そう!」

これは「気になる最新科学」という講座。小正理文先生がその週、世界のSNS上で一番閲覧され、話題になっている科学論文やニュースを取り上げます。参加は自由。開始時間になると、希望する子どもたちが集まります。スクリーンに、その日のテーマに関する動画や記事、英語の論文などを先生が映し出し、子どもたちの疑問に答え、先生からも質問を投げかけます。

実はこの日は、ロケットの本題に入る前にいくつもの「脱線」が。打ち上げ予定時刻はアメリカの昼間だが、日本では何時かという話から、時差について先生が解説。さらに、赤道上では排水口などに水を流しても、水の渦ができないという動画も見て、なぜか? を考えました。

本題に入ると「ロケットとミサイルは何が違うのか」「再利用のため、着陸しようとして間違って東京タワーに落ちてきたら日米戦争になっちゃう」など、子どもたちが次々につぶやき、話が発展していました。

小正理文先生
「ただ好奇心を育ててあげたいだけなんですよ。ノートも書かせないし、もちろんテストもないですし。話題の脱線はよくあります。この年代の子がどういうことに興味があるか、教科書にどういうことが載っているかは、私もだいぶ勉強できてきたので、こどもたちが色々展開してくれて、途中、寄り道しながらも『このテーマやこの論文の何がすごいか』に着地するようにはしています。普通の学校だと、この授業で10個のことを教えなくては、などと決まっているでしょうけど、私の場合教えることは『この論文のすごさ』だけなので」

――特定の分野の能力が高い、いわゆるギフテッドといわれるような子どもは公立学校で生きづらいこともあるといいます。発達のでこぼこ、得意なこともあれば苦手なこともあるという子どもの学びについてはどう考えますか?

小正先生
「私は特別支援教育に携わったこともあります。そういう子たちは“人と違う部分”ばかり見られてしまうけど、『彼はこうなんだから、こうでいいじゃん』と周りのみんなが思える、そういう寛容さが全体にあれば、特別な対応が必要とはならないですよね」

「普通といわれる子も本当は何か得意なことがあるはずですが、その得意なことは“大したことない”と思われてしまう。学力とか知能が高い子はギフテッドと呼ぶ、それ以外のことが得意な子はギフテッドと呼んではいけないのか? とかね。人にどんな能力があるかという判断のバイアスがすごいですよね。だから、わざわざギフテッドとか、そんな大げさにしなくても、個性ということで、個性は誰でも伸ばしてあげなきゃいけないと思うんです。ギフテッドとかいって特別扱いするのではなくて、私は全員を特別扱いしていきたいと思っています」

地下室に行ってみると、そこは秘密の実験室のよう。壁には様々な工具や実験道具がびっしりと置いてあります。科学実験をすることもありますが、この日はプログラミング講座が行われていました。

プログラミングに詳しい田森佳秀先生はあらかじめ講義内容を決めず、その日参加する子どもたちが知りたいテーマ、改善したいことを持ち込みます。先生はアドバイスはしつつも、一緒になって、解決策を探るスタイル。ゲーム好き男子数人が、なにやらゲームの画面を改善したいと熱心に取り組んでいました。好きなことのためなら、大学生でも理解するのが難しい内容まで習得してしまうということです。

難しい専門用語をやりとりする先輩の傍ら、一人で別のことに取り組んでいた小学生の男子児童が、PC画面を見ながら「あ! そうか!」とつぶやきました。何かを解決したのでしょうか。このスクールのあちらこちらで、そうした「!」が子どもたちからあふれ出ていました。

■竹内薫校長「多様性と自由な居場所を」

このフリースクールを設立したのは、サイエンス作家の竹内薫さんです。帰国子女で、不登校経験もある竹内さんは、多様性と自由がある居場所を作りたかったといいます。

竹内薫校長
「勉強でもプログラミングでも、やりなさいと言ったら、やらなくなりますよ、それが子どもなんで。たとえばゲームをすごくやっていると親は心配しますが、段取りの力とか、一度にいろいろなことをするマルチタスクの能力もつく、ゲームもいいところがあるわけです。親が考えている“いいこと”はあくまで親の世界の基準、20年後、30年後を生きる子どもたちの世界と全く同じだとは思えない。何が無駄で何が必要かということは事前にはわからないですよね。確立されたこれまでの親の世界、そこの枠内に子どもを入れようとしない方がいいと思いますね」

「好きなことをやっていると、いつかそれが使える時が来るかもしれない。子どもは楽しかったら言われなくてもどんどん先に進むんですよ。そしてゲームとかも、親が怒らずに子どもに任せていると、そのうち飽きますよ。そして『漢字も書けないとまずいかな』などと自分たちで気づきます。もうちょっと信用してあげてほしい」

竹内校長によれば、好きなゲームを制限なくやるうちにプログラミングに興味がでて、苦手だった数学を学ぶようになった子どもがいたということです。つまり、できないことをなくそうと強制して何かをやらせるのではなく、好きなことを伸ばすと、結果として苦手なことにも取り組み、できるようになった例がいくつもあるといいます。(中に続く)