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除染作業なぜ遅れるのか 楢葉町で見た現実

2013年3月12日 5:05
除染作業なぜ遅れるのか 楢葉町で見た現実

 福島県内では、東日本大震災から2年となる今も、福島第一原発事故で放出された放射性物質を取り除く「除染作業」が続いている。原発周辺の11市町村が「除染特別地域」に指定され、国が直轄で除染を行うことになっているが、本格的な除染作業は4市町村でしか行われていない。除染作業はなぜ遅れているのか。社会部原発班・川崎正明記者が取材した。

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 福島第一原発から南に16キロの地点にある福島・楢葉町は、除染特別地域に指定されている。町は去年8月から住民の一時帰宅が可能になったものの、寝泊まりが禁止されているため住民の姿はほとんどなく、原発を往復する車と除染作業員を見かける程度だ。

 斎藤清一さん(68)は、福島第一原発の事故が起きる前まで楢葉町に住んでいた。しかし、事故後、着の身、着のままで避難。その後は避難所を転々とし、現在は福島・いわき市の仮設住宅に家族4人で暮らしている。初めて一時帰宅が許されたときには、真っ先に自宅の航空写真を持って帰ったという。

 先月20日、斎藤さんの家で国による除染作業が始まった。そこで目の当たりにしたのは、あまりにも気の遠くなるほどの作業の現実だった。

 最初に行うのは放射線量の測定だ。屋根瓦表面の線量を測定した後、建物まわり15か所の空間線量を調べる。測定の結果、除染前の空間線量の平均は、毎時0.38マイクロシーベルトだった。

 斎藤さんの家の屋根瓦は約3200枚。除染作業では、これを水にぬらした紙タオルで一枚一枚拭いていく。汚染を拡大させないため、紙タオルは1回拭き取ったらその面を使わずに破棄する。また、雨どいの高圧洗浄も行われた。高圧洗浄した水は汚染されているため、ビニール袋に入れて回収しなければならない。さらに、庭の除染では、雑草を刈り取って土を3センチまで掘り下げる。それを処分した後に線量を測定し、線量が落ちたことを確認して新しい土を入れていく。

 斎藤さんの家の除染は12日間で約9割が終了した。建物のまわり15か所で測った線量の平均は、毎時0.38から0.23マイクロシーベルトに減少していた。

 除染により線量は下がった。しかし、斎藤さんは複雑な思いを語る。「せっかくここまでしてもらって、泊まれないというのが残念かな。帰ってきたいですね。私がつくった家だから」。

 楢葉町は、約2900世帯(11年3月現在)のうち、除染が終了したのはわずか288世帯(13年3月6日現在)。国は来年3月までに終わらせるとしている。

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 楢葉町では、道路脇や田んぼに黒い袋が置かれているのが目につく。袋の中には、除染で出た草や木など、放射性物質の除染で出た廃棄物が入っている。その数は楢葉町だけで10万個以上に上るという。

 また、廃棄物を保管する仮置き場では、1個1個の線量を測り、パソコンで情報管理する作業が行われている。この場所はあくまでも仮置き場だ。除染で出た廃棄物を保管する場所が決まらなければ除染作業自体は進まず、これが除染作業が遅れる原因の一つとなっている。

 国は、除染などで出た廃棄物を一定期間保管する中間貯蔵施設について、15年1月の完成を目指し、建設しようとしている。コンクリートでまわりを覆って放射線を遮へいして管理する計画だが、その場所すら決まっていないのが現実だ。

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 楢葉町にある中間貯蔵施設の建設調査候補地の一つに向かった。そこは海岸から約1キロ、津波で壊滅した集落の先にあった。山と山の間の谷のような地形を利用して施設をつくる計画だという。しかし、再び津波が襲ってきた場合はどうするのか。環境省は取材に対し、「この場所に立地が決まったとしたら、防潮堤をつくるなどの対策を講じ、住民にも丁寧に説明を行う」としている。

 中間貯蔵施設の調査候補地近くに自宅がある女性は、自宅の除染が終わったとしても戻る気にはなれないと語る。「健康に害があるかどうかは目に見えない。子供たちもいることですし、不安です」。

 除染が終わっても、住民の帰還はいつになるか、明確には決まっていない。原発事故から2年…課題はいまだ山積している。