沖縄・翁長知事の意見陳述全文(後編)
沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先をめぐり、名護市辺野古の海の埋め立て承認取り消しを撤回するよう、国が沖縄県を訴えた裁判が2日、福岡高裁那覇支部で始まり、冒頭、翁長知事が意見陳述を行った。
【翁長知事の意見陳述全文】(後編)
次に基地経済と沖縄振興策について述べたいと思います。一般の国民もそうですが、多くの政治家も、「沖縄は基地で食べているんでしょう。だから基地を預かって振興策をもらったらいいですよ」と沖縄に投げかけます。この言葉は、「沖縄に過重な基地負担を強いていることの免罪符」と、「沖縄は振興策をもらっておきながら基地に反対する、沖縄は甘えるな」と言わんばかりです。これくらい真実と違い、沖縄県民を傷つける言葉はありません。
米軍基地関連収入は、終戦直後にはGDP(=国内総生産)の約50%。基地で働くしか仕方がない時代でした。日本復帰時には約15%、最近は約5%で推移しています。経済の面では、米軍基地の存在は今や沖縄経済発展の最大の阻害要因になっています。
例えば、那覇市の新都心地区、米軍の住宅地跡で215ヘクタールありますが、25年前に返還され、当時は軍用地料等の経済効果が52億円ありました。私が那覇市長になって、15年前から区画整理を始め、現在の街ができました。経済効果としては52億円から1634億円と32倍、雇用は170名程度でしたが、今は1万6000名、約100倍です。税収は6億から199億円と33倍に増えています。沖縄は基地経済で成り立っているというような話は今や過去のものとなり、完全な誤解であります。
沖縄は他県に比べて莫大(ばくだい)な予算を政府からもらっている、だから基地は我慢しろという話もよく言われます。年末にマスコミ報道で沖縄の振興予算3000億円とか言われるため、多くの国民は47都道府県が一様に国から予算をもらったところに、沖縄だけさらに3000億円上乗せをしてもらっていると勘違いをしてしまっているのです。
沖縄はサンフランシスコ講和条約で日本から切り離され、27年間、各省庁と予算折衝を行うこともありませんでした。ですから日本復帰に際して沖縄開発庁が創設され、その後、内閣府に引き継がれ、沖縄県と各省庁の間に立って調整を行い、沖縄振興に必要な予算を確保するという、予算の一括計上方式が導入されたのです。沖縄県分は年末にその総額が発表されるのに対し、他の都道府県は独自で予算折衝の末、数千億円という予算を確保していますが、各省庁ごとの計上のため、沖縄のように発表されることがないのです。
実際に、補助金等の配分額で見ると、沖縄県が突出しているわけではありません。例えば、地方交付税と国庫支出金等の県民一人当たりの額で比較しますと、沖縄県は全国で6位、地方交付税だけで見ると17位です。
都道府県で国に甘えているとか甘えていないとかと、言われるような場所があるでしょうか。残念ながら、私は改めて問うていきたいと思います。沖縄が日本に甘えているでしょうか。日本が沖縄に甘えているのでしょうか。ここを無視してこれからの沖縄問題の解決、あるいは日本を取り戻すことなど、できないと確信をします。
沖縄の将来あるべき姿は、万国津梁の精神を発揮し、日本とアジアの架け橋となること、ゆくゆくはアジア・太平洋地域の平和の緩衝地帯となること。そのことこそ、私の願いであります。
この裁判で問われているのは、単に公有水面埋立法に基づく承認取り消しの是非だけではありません。戦後70年を経たにもかかわらず、国土面積のわずか0.6%しかない沖縄県に、73.8%もの米軍専用施設を集中させ続け、今また22世紀まで利用可能な基地建設が強行されようとしています。日本には、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか。沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常と言えるのでしょうか。国民の皆さますべてに問いかけたいと思います。
沖縄、そして日本の未来を切り開く判断をお願いします。