かゆみ絶つ治療に期待「アトピー新薬」に道
先週、九州大学の研究チームが、イギリスの電子版の科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで「アトピー性皮膚炎のかゆみのメカニズムを発見した」と発表した。この発見で、かゆみを根本から絶つ薬の開発につながるかもしれない。
■日本人の“1割”がアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は増加傾向にあり、厚生労働省の研究によると、患者数は日本人の約1割と推定されている。国民病とも言われるアトピー性皮膚炎だが、これまでその詳しいメカニズムは分かっていなかった。
これまでアトピー性皮膚炎のかゆみを引き起こす原因は、免疫系細胞から発生した物質と分かっていた。しかし、免疫系はそもそも私たちの体の中で病原体などの異常を見つけて攻撃し、病原体から体を守る良い役割もしてくれている。
現在、アトピー性皮膚炎の治療に使われている薬は、免疫系細胞全体の働きを抑え込むことで、かゆみを和らげている。
その一方で、これまで抑え込んでいた病原体などを抑えきれずに感染症にかかりやすくなったり、その他にも様々な副作用が起きたりする可能性もあり、医師の指導の下で薬が使われている。また、これらの薬はかゆみが出た場合の対症療法なので、かゆみが出るのを根本から止めることはできなかった。
しかし、今回、九州大学の福井宣規主幹教授を中心とした研究チームがアトピー性皮膚炎のかゆみ物質を作り出すタンパク質を発見したことで、かゆみを根本から絶つ治療に道が開けた。
■発見のプロセス
研究チームはまず、かゆみ物質が作られるのをブロックするタンパク質を発見した。このタンパク質がないとアトピーになってしまうのかを確かめようと、研究チームはこのタンパク質が全くないマウスを作り、実験を行った。
実験の結果、かゆみ物質が作られるのをブロックするタンパク質が全くないマウスはしきりに体をかいた。このマウスの体内ではかゆみ物質がどんどん増加し、アトピー性皮膚炎になった。つまり、このかゆみ物質をブロックするタンパク質がないとアトピーになってしまう。
研究チームが、アトピー性皮膚炎になったマウスの免疫系細胞をさらに詳しく調べたところ、かゆみ物質を作り出し、アトピー性皮膚炎を引き起こしていたそもそもの張本人「EPAS1」というタンパク質を発見した。つまり、「EPAS1」を抑えればアトピー性皮膚炎のかゆみが出るのを防ぐことができる。
■新薬開発に期待
このことはマウスを使った実験だけでなく、アトピー性皮膚炎の患者の細胞でも確認されたという。これを受けてどのくらいで特効薬ができるということは言えないが、アトピー性皮膚炎のかゆみを根本から絶つ新薬を開発できる可能性が出てきた。
日本皮膚科学会の理事長で山梨大学学長・島田眞路教授は「現在の薬でも大半の患者は症状をコントロールすることはできるが、かゆみをピンポイントで抑える薬ができれば、効果が高くて副作用の少ない治療となる可能性がある」と話している。
アトピー性皮膚炎は悪化すると日々の暮らしだけでなく、就職活動や恋愛で消極的になってしまう人もいたりして、「クオリティー・オブ・ライフ(QOL=生活の質)」を下げる可能性がある。
かゆみが出るのを根本から防ぐ新薬が開発されれば、現在の治療で対応しきれていない患者にとって、希望の光となるだろう。