熊本地震“1年半”益城町で見た希望の光
熊本地震の発生からまもなく1年半。今も仮設住宅などでの生活を余儀なくされている人は、9月末時点で4万4986人にのぼる。先月、熊本県を訪ねた諏訪中央病院の名誉院長・鎌田實さんが、特に被害の大きかった益城町の現状を伝える。
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鎌田さんは先月23日に益城町を訪れ、今も仮設住宅で暮らす住民に話を聞いてきた。復興はまだまだこれから、という人も多かったが、明るい話も聞くことができたという。
─精神的には?
仮設住宅で暮らす續茂さん(83)「負けんこと思ってる」
─負けんこと大事だね。
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熊本地震から5か月たっても解体の進んでいなかった場所を訪れてみると、解体が終わってかなりきれいになりだし、復興の息吹は感じられた。
仮設住宅に行ってみると、出迎えてくれたのは1年前にも取材した、農業を営む笠井浩之さん(54)。熊本地震では、笠井さんの田んぼの横を流れる木山川の堤防周辺が地盤沈下を起こした。さらに、その後の大雨で堤防が決壊し、田んぼに泥が流れ込んでしまった。
今回、その田んぼを見に行くと、泥の入った所は手入れもできず、そのままの状態に。ただ、泥の被害をまぬがれた田んぼでは稲穂がよく実っていた。
─今年は豊作?
笠井浩之さん「今年は、このままいけば案外、普通並みにとれそうですね」
笠井さんは、収穫を終えるまで水害などがないように願っている、と話していた。
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続いて鎌田さんが向かったのは、仮設住宅近くの建設現場。地震で自宅が全壊した集路格さん(83)は、1年前に目標を聞いた時には「(年が)明けてから家をつくる」「早くつくらなきゃ、命がなくなっちゃうもの」と元気に話していた。
集路さんはその目標通り、しっかりと前を向いて進んでいた。
集路格さん「人生の最後だからね。頑張ってやっておかなきゃ」
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この日の午後、鎌田さんは、被災者や医療関係者400人ほどの前で講演会を行った。その中で、これまで取材した熊本地震のある被災者を例に「人のために生きること」の大切さについて話した。
─(熊本に)来るたびにこの方にお会いしましたけど、70歳を超してるんですけど、アルバイトに行って、その稼いだお金で仮設住宅で一人暮らしをしていて、体の弱い人たちの所へおかずを配って歩いているんですよね。
その被災者とは、自らも仮設住宅に住んでいる、内村光子さん(73)。毎日のように一人暮らしの住民におかずを届けている。「人のために」できることをすることが、元気でいられる秘訣(ひけつ)だという。
─自分が大切なんだけど、同時に困っている人にほんのちょっと手を差し伸べていく。1%でもいいから自分以外のものに目を向けるっていうことが、人間という生き物にとっては大事だということですよね。
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■他の人のために何ができるか考えるのは、私たちにとっても大切
震災から1年半、被災した方々は心も体も疲れていると思う。今回、熊本で見た光景は、とにかく自分が大事、ただ、困っている人に少し力を貸してあげることによってそれぞれの人が大きなパワーをもらっていた。
熊本の人は強くて明るい。今回、VTRに出てきた方たちは皆、まわりに目を配りながら復興に向けて前進していた。
■「希望の光 大切に」
仮設住宅を訪れた時に出会った20代の夫婦には、3か月前に生まれた赤ちゃんがいた。夫婦に個人の復興度を聞くと、60%と、他の人たちよりも高かった。やはり赤ちゃんが生まれたことが希望につながったと思う。
稲穂が実ったり、家の再建が始まったり、それぞれの希望の光が見えてきた、というのが現状だと思う。こういった希望を大切に、復興へ道を歩み始めた住民たちを、これからも応援していきたい。