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【解説】“統一教会”側の勝訴取り消し 最高裁が“差し戻し”命じる 争点は「念書の有効性」と「献金の勧誘行為の違法性」

2024年7月11日 22:17
【解説】“統一教会”側の勝訴取り消し 最高裁が“差し戻し”命じる 争点は「念書の有効性」と「献金の勧誘行為の違法性」

世界平和統一家庭連合、いわゆる“統一教会”へ1億円以上の献金をした女性と娘が、教団と勧誘した信者に損害賠償請求を求めていた裁判。最高裁は11日、教団側勝訴の2審の判決を取り消し、裁判を東京高裁でやり直すよう命じました。

■高齢女性が献金…返還求めない念書に署名押印

元信者だった女性の娘が原告の裁判。ここまでの経緯を整理します。

女性が教団に1億円以上の献金をしたのが2005年から2010年にかけてです。娘がその事実を本人から打ち明けられたのが2015年の8月です。女性はこの頃、「娘に献金していることを話した。統一教会を辞める」と教団の幹部に伝えたということです。

ただ、同じ2015年の11月、当時86歳だった女性は、ある念書に署名・押印しています。
その内容は、「献金は、私が自由意思によって行ったもの」「損害賠償請求など、一切行わないことをここにお約束します」「私の親族らや相続人らが、後日無用の紛争を起こすことがなきよう、私の意思をここに明らかにするため、以下署名押印致します」。

さらに教団側はこの時、動画も撮影していました。

教団関係者
「書類はご自身の認識に一致するということで手続きをしてこられた?」

女性
「はい」

教団関係者
「家庭連合に返金請求することになっては断じて嫌だということで?」

女性
「はい」

教団側の関係者が多くしゃべり、女性は「はい」と答えるといった形でした。

動画で「はい」と答えた女性ですが、この動画の半年後、「アルツハイマー型認知症」の診断を受けました。

■女性と娘が提訴したものの、1審も2審も教団が勝訴…

2017年、女性と娘は教団と勧誘した信者に損害賠償請求を求めて提訴しました。

裁判では、1審の東京地裁で念書は有効だとして教団側が勝訴。
2審の東京高裁も1審を支持し、教団側が勝訴の判決となりました。

女性は1審の判決後に91歳で亡くなりました。

こうした中、教団への高額献金が改めて注目されるきっかけとなったのが、2審判決の翌日に起きた安倍元首相の銃撃事件です。

今日、最高裁は教団側勝訴の2審の判決を取り消し、裁判を東京高裁でやり直すよう命じました。

■裁判の争点が2つ、「念書の有効性」と「献金の勧誘行為の違法性」

鈴江奈々キャスター
「ここからは社会部・裁判担当の宇野記者とお伝えします。今回の裁判の争点について最高裁はどのように判断したのでしょうか」

宇野佑一記者 社会部・裁判担当
「主な争点は2つありました。『念書の有効性』と『献金の勧誘行為の違法性』です。11日の判決で最高裁は、争点に関して大きな判断基準を示しました」

「まず、1つ目の争点、元信者の女性が教団と結んだ、『賠償請求などを行わない』とする『念書の有効性』についてですが、最高裁はこうした『念書』については、憲法で保障された『裁判を受ける権利』を制約するものであるから慎重に判断すべきとし、念書を結ぶことが公序良俗に反するかどうか判断するにあたっては、『当事者の属性と相互の関係、念書を合意した経緯や目的、当事者が被る不利益の程度』などについて『総合考慮して決めるべき』として、念書の有効性の判断基準を初めて示しました」

「その上で、今回の女性については、念書を作成した当時86歳という高齢で、約半年後にはアルツハイマー型認知症と診断されたなどとして、『冷静に判断することが困難な状態にあったというべきだ』とし、さらに『女性の意思を確認する様子をビデオ撮影するなどしており、終始、信者らの主導の下に締結されたもの』と指摘し、念書については無効だと判断しました」

鈴江キャスター
「最高裁でこの念書について、初めて無効と判断されました。
そして、争点の2つ目ですが、教団の信者が女性に行った『献金の勧誘行為の違法性』についてはどんな判断だったんでしょうか?」

宇野記者
「最高裁は、『宗教団体の献金勧誘行為が違法となる場合』について、今回、初めて判断基準を示しました。『献金をするか否かについて適切な判断をすることに支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、献金により寄付をした人、またはその配偶者などの生活の維持に支障が生ずるなどした事情の有無や程度など』について総合的に考慮し、『社会通念上、相当な範囲を逸脱すると認められる場合には違法と評価される』としました。その上で、今回の女性への教団の信者による献金の勧誘行為については、『高齢で判断能力の低下が生じるなどした可能性があることは否定できない中で、1億円を超える献金をしており、異例のものと評し得る』と厳しく指摘しました。そして、2審の判決は『勧誘行為の違法性に関する法令の解釈適用を誤った』として裁判を高裁でやり直すように命じました」

鈴江キャスター
「つまり、教団側勝訴の2審の判決が見直されるという理解でいいんでしょうか?」

宇野記者
「はい。今後、東京高裁では信者の勧誘行為の違法性について、今回、最高裁が示した判断基準にそって審理がすすめられます。そして、信者の勧誘行為に違法性が認められた場合、その責任を教団が負うべきなのかについても判断されることになります」

■信者の違法性=教団の責任? 今後への影響は

鈴江キャスター
「その違法性が認められれば、賠償も認められるという理解でよろしいでしょうか?」

宇野記者
「信者の違法性が認められたから、そのままイコール教団の責任になるとは限らないと思います。そこは高裁で改めて判断がなされると思います」

鈴江キャスター
「なるほど、わかりました。教団への献金を巡っては返金を求めている人が他にも多くいますが、今回の判決の影響についてはあるのでしょうか?」

宇野記者
「今回の最高裁の判決によって、教団側と『念書』を結んだ人たちが被害を訴えることができる可能性があり、影響はあると言えます」