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消える“駅弁”に救世主 「かに寿し」復活

2019年4月9日 18:59
消える“駅弁”に救世主 「かに寿し」復活

ご当地ならではの「駅弁」。旅の楽しみにしている方も多いと思うが、コンビニ弁当などとの競争の中で、年々、その数は減りつつある。ある駅で60年以上親しまれた伝統の「かに寿し」も、ことし、消える運命にあった。しかし、思わぬ「救世主」が現れた。

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いよいよ2週間ちょっとに迫った10連休のゴールデンウィーク。鉄道の旅の楽しみと言えば「駅弁」。地元の名産品で勝負する“駅弁”や、色とりどりのおかずが詰まった幕の内の“駅弁”。

さらに、震災から8年、津波被害から復活した三陸鉄道リアス線の開通を記念し、三陸の“海の幸”だけを詰めこんだ、地域の思いがたっぷりと込められた駅弁も登場。

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都内の百貨店では、駅弁の企画も行われている。

大丸東京店 総菜・弁当担当 朝倉宏二マネジャー「4月10日が駅弁の日ということでございますので、お弁当の1年間のランキングを発表させていただきました」

実は4月10日は、駅弁の魅力をPRしようと制定された駅弁の日。数字の4と漢字の十の字を組み合わせると「駅弁」の「弁」の文字に見えること。さらに弁当の「当」は「とう」と読むことから、4月10日を駅弁の日とした。

東京駅直結の百貨店は、この「駅弁の日」を記念し、販売個数などをベースにランキングを発表。10位から5位までは肉を使ったお弁当がランクインし、4位はアナゴづくしのお弁当。

3位はシャリの中に刺身をはさんだ海鮮ミルフィーユ弁当(創作鮨処タキモト贅沢ミルフィーユ)。2位は駅弁の定番、崎陽軒の「シウマイ弁当」。

そして栄えある1位は、ナイフを入れると肉汁がしたたるハンバーグ弁当。都内の人気店が販売する、行列覚悟で食べたいお弁当(ミート矢澤黒毛和牛ハンバーグ弁当)。

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10日の「記念日」に向け、盛り上がりを見せる「駅弁商戦」。そんな中、10日の“駅弁の日”に合わせ誕生する駅弁が兵庫県神戸市にある。

地元兵庫県の「香住漁港」で水揚げされたベニズワイガニが色鮮やかな駅弁「かに寿し」。神戸駅などで駅弁を販売する「淡路屋(あわじや)」が10日から売り出すが、この駅弁、実はもともと、神戸駅から100キロ以上離れた日本海側の小さな駅、浜坂駅で60年以上前から販売されていた駅弁。

淡路屋・柳本雄基さん「浜坂駅にあった米田茶店さんがつくる『かに寿し』の味を当社が継承して復活させて販売するということになります」

なぜ別の駅の駅弁業者が味を引き継ぐことになったのか。浜坂駅で「かに寿し」を長年製造販売していた「米田茶店」を訪ねた。

米田茶店・米田雅代さん(61)「炊飯器も思い切って撤去といいますか。(調理器具が)そろってたらしたくなるので、(かに寿し)つくりたくなるし」

実は米田茶店の「かに寿し」は、今年1月に販売を終了していた。

浜坂駅の売店の閉鎖や、近隣区間での車内販売の中止で、売り上げが減少したためだという。

そんな時、ある一本の電話があった。

米田茶店・米田雅代さん(61)「かに寿しの味をそのまま引き継ぎたいとお電話いただいて」

あの神戸の淡路屋からの電話だった。

とはいえ、長い間親しまれた駅弁の味を再現することはたやすいことではなかった。

淡路屋・調理担当者「ここ難しいところなんですよ。この合わせるところ」

長年「かに寿し」を作り続けてきた米田茶店の従業員に試食をしてもらいながら、およそ2か月の試行錯誤を経て、ようやく味の再現に成功。さらに、包み紙には米田茶店の名前が残されていた。

淡路屋・柳本雄基取締役「このまま駅弁業者が減り続けると“駅弁”という言葉自体が成立しなくなってしまうのではないかと思うところがありまして、ひとつでも一件でも、名前を残し、味を残したいと思い」

昭和、平成2つの時代長く旅人に愛され続けてきた「かに寿し」。来たる次の時代「令和」も存続が決定したことについて、元祖「米田茶店」の女将は…。

米田茶店・女将 米田雅代さん「今まで本当に小さい浜坂駅で売ってたかに寿しが、神戸駅だとかあちらの方で売っていただけるのは出世だなと。立派になった我が子が旅立っていく、そんな感じですごくワクワクしています」

当面は兵庫県内での販売が中心となる「かに寿し」。いずれは東京駅でも販売されるような全国区の駅弁を目指しているという。