広がらない「GAP認証」メリットと課題
農産物の安全基準として注目されている「GAP」。農林水産省では今週、「GAP認証」を取得している農家や流通関係者などが集まる会議が初めて開催され、会場は満席となった。「GAP」をどう活用すべきか考える。
「GAP」とは「良い農業のやり方」を意味する英語の頭文字(Good Agricultural Practice)をとったものだ。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会では「GAP」認証を取得した食材しか使われないこともあり、注目されている。
ただ、農水省はあくまで東京五輪はきっかけとして、その後を見据えた長いスパンでの普及を目指している。認証の中では、GAPの日本版「JGAP」が主なもので、取得した食品にはマークをつけることができる。
「JGAP」認証を取るには「食品の安全性」への配慮はもちろんのこと、「環境保全」への配慮や「労働者の安全」など約120項目の基準を満たすことが必要になる。
――「認証」を取得するメリットはどこにあるのか。
何と言っても安全性の保証になるから、生産者の中にはこれを武器に取引を拡大しようという動きもある。
福島市の観光農園「まるせい果樹園」は、2011年の東京電力の原発事故の風評被害などで、売り上げは事故前の5分の1にまで激減していた。
この苦境から脱するため、試行錯誤の末たどり着いたのが「GAP認証」だったと話している。
まるせい果樹園・佐藤清一代表取締役「自分で『大丈夫です。安全』とお客さんに言っても、なかなかお客さんは納得していただけないだろうということで、(GAP)認証をいただく努力をして、今に至る。GAP認証をいただいていることから、皆さまに『なるほど、それなら安心だね』というきっかけになっている」
「認証」取得をきっかけに、これまで取引のなかった大手スーパーとの取引が始まるなど、経営は震災前の水準に戻りつつあるという。
――復興のきっかけにもなっているが、取得する農家は多いのか。
日本の認証「JGAP」を取得した農場は年々増えていて、今年3月末時点で4113となっている。ここ数年で急激に増えているが、それでもまだすべての農家のうちの1%も満たしておらず、決して多いとは言えない状況だ。
――なぜ普及しないのか。
農家の中には「必要性を感じない」という声も聞かれる。収穫を目前に控えた群馬県沼田市の個人農園では、コンクールで金賞をとるほどのコメを栽培している。
こちらでは「JGAP」ではなく「JAS有機」の認証を取得しているという。
金井農園・金井繁行代表取締役「取引先から、JGAPのご要望については、今のところ一切ない。今のところ、JGAPの認証をとる予定はありません。ほとんどの生産農家にとっては、縁のない話じゃないですか」
その一方で、「取得したくても、時間や費用の面で難しい」という声も聞かれる。
「認証取得」までには「書類審査」や「現地審査」など第三者機関によるチェックが行われる。
しかし、その費用として8万円から10万円ほどかかるほか、認証が下りるまでに数年かかることもあり、なかなか広がっていない。
さらに認証を取得した後も毎年審査が必要で、その度に8万円から10万円かかる。さらに、書類作りなどの事務負担も多く、農業以外の人材を確保しなければならないといった声も聞かれる。
――解決策はあるのか。
今回のポイントは「負担の軽減」。このままでは、東京オリンピック・パラリンピックの選手村では、日本の食材がほとんど使えないことになりかねない。
農林水産省は補正予算を組んで、認証にかかる費用を補助する仕組みを作っている。しかし、それだけではなく、事務作業をサポートする体制を整えることも大事ではないでしょうか。