若い男性の8割以上が育休希望……企業は人材確保のためにも環境整備が必須
若い男性の8割以上が育休取得を、そのうち約3割が半年以上の育休を希望しているという調査結果が7月31日に発表されました。内容を分析した記者会見では、企業は人材確保のためにも、男性が育休をとりやすい、男女ともに長時間労働のない職場を作り、その情報を若い人に発信することが必要な時代になったと強調されました。
厚労省のイクメンプロジェクトが今年6月に、高校生や大学生など若い人を対象に行った調査では、男性の84.2パーセントが育休を「取得したい」「どちらかというと取得したい」と答え、そのうち29.2パーセントが、半年以上の育休を希望していました。
また、育休取得の状況がどの程度、企業を選ぶ上で影響を与えるかを若い男女両方に聞くと、「影響がある」「やや影響がある」と答えた人はあわせて約7割にのぼりました。
また「仕事も育児も熱心に取り組むつもり」と回答した人は「そう思う」「どちらかと言うとそう思う」を合わせると若い男性の87.9%、若い女性の85.9%にのぼり、男性の方が高い割合となっています。
■結婚のハードルは?
この調査で若い男女に結婚のハードルについて聞くと、お金の問題が53.9%と最も多いものの、ついで、結婚相手の働き方の問題(42.2%)、自分の働き方の問題(36.9%)となりました。この傾向は「子育てのハードル」についての回答でも同様でした。
■調査で見えてきたものは
結果を分析する記者会見では、イクメンプロジェクトのメンバーで、認定NPO法人フローレンス会長・駒崎弘樹さんが「若者が貧しくて、結婚できないケースもあるが、自分や相手の働き方がハードルとしてあるんだと言えるのではないか」と述べました。
そして、ワーク・ライフバランス社・社長の小室淑恵さんは「女性は(結婚)相手の働き方について、非常にシビアに考えている」と述べた上で、「女性が結婚や育児のタイミングで仕事を辞める、その後、仕事を再開するにしてもパートなどの場合、生涯賃金が2億円違うという東京都の試算がある。2億円を失うとなると、シビアな選択だ。」と述べました。
■何のための男性育休なのか
そして、小室さんは、男性育休がなぜ必要なのか改めて解説しました。
「産後の妻の死因の一位は自殺なんです。それも産後2週間から1か月半がピーク。この時期に大切なのはまとまった7時間睡眠や朝日を浴びての散歩などです。しかし、2時間ごとの授乳があるのでそれはできない。そして夜中に続く赤ちゃんの世話を明日仕事だという夫には頼めない。むしろ夫がちゃんと寝られるように、夫と妻子が別室で寝ることにする場合もある。すると、夫は妻が夜、どんな思いで育児をしているかわからない。一方、もし、夫が育休をとり、明日休みなら、夫も夜遅くまで起きて育児を担うことができ、産後の妻にとって睡眠などが可能になる。男性の育休は妻とこどもという2人分の命を救う大切なことだ」と述べ、背景や本質的な意義を理解してほしい、と強調しました。
そして、厚労省の追跡調査によると、第一子が生まれた時の夫の家事・育児時間が長いほど、第2子がうまれているということで、小室さんは「少子化が深刻な日本社会にとって、男性育休をさらに力強く推進していくべきだ」と述べました。
■男性育休推進には、職場全体で長時間労働をなくす必要がある
今回、育休を望む若い男性の3割が半年の育休を希望し、それを含め9割近くが2週間以上の育休を希望しているという結果をうけて、小室さんは、若い男性が望んでいるのは、数日間の「とるだけ育休」ではなく、男女がともに子育てをするための「共育て育休」であることを認識してほしいと述べました。
そしてそれを実現するには、「働き盛りの男性が数ヶ月単位で休むことが当たり前の職場を日頃から作る必要がある。育児以外にも介護など休む理由はいろいろある。誰かが休んでも回る職場が必要だ」と強調しました。
そして「これまではギリギリの人数を雇用して、休んだ人の代わりに長時間働ける人が長く働いてきた。いざとなると、残業という人海戦術で解決するので、(効率向上の)デジタル化も進まない。これからは、いかに残業をしないかだ」とし、経営者の意識を変えることが必要だと述べました。
具体的な方法の一つとして、終業から次の勤務開始まで一定の時間を確保する勤務間インターバル制度をあげました。
「2019年に努力義務になっている。一定の時間を勤務に使わないようにしていく、そうしていくと、優秀な人が深夜まで資料を作り、朝一番のプレゼンも行う……というのではなく、資料作りは後輩に任せるとか、またはプレゼンだけはほかの人が行うということになる」
「企業はさまざまなタイプの人を雇用して、短いパス回しで仕事をすることが重要になる。限られた時間の中でちゃんと仕事をするかどうかが問われるので、女性も評価され、人海戦術ではなく、デジタル投資もふえていく、こうした職場をつくることが大切だ」
「さまざまな事情の人がいて、たとえば、こどもの不登校とか不妊治療など人にいいづらい理由の場合もある。独身者も含めて常日頃から休みがとれる体制の企業に優秀な人材が集まるのではないか」と述べました。
■企業が選ばれないどころか、日本からも若者が流出する懸念
小室淑恵さんは、若者が長時間労働の企業を選択しないだけでなく、日本で働くことを選択しないで、若者が海外に流出する可能性もあると危機感を示しました。
そして、「誰もが自分が休んだら職場が回らない、と苦しさを感じている。ギリギリの人数で、そうした高いストレスの中で働くと”子持ち様”というような、子持ちの人はいいよね、優遇されて。という反発が出てしまう」と述べ、「ギリギリの人員の頑張りで耐え抜く職場」から「頭数多めでお互いの急な休みは想定済み、お互い様の職場」を増やすことが必要だと強く訴えました。
そして「人手不足の中、頭数を増やすのは無理と思われるかもしれないが、意欲も能力もありながら、時間に制約があって仕事に就けていない人がいる。退職後のシニア層や色々な事情がありながらも働きたいという人材を雇うことは可能なはずだ」と話しています。
■残業させると企業が損をする仕組みが必要
さらに、日本では、残業した従業員に支払う賃金の割り増しが1.25倍である点については、駒崎さんも小室さんも、「ギリギリの人材しか雇用せずに、残業で解決する方が企業がもうかる仕組みになっている」として、労働基準法を改正し、欧米のように割り増し率を1.5倍にし、企業が従業員に残業をさせると損をするような仕組みにすべきと訴えました。
■中小企業でも長時間労働是正は可能……すると採用に困らなくなる
少ない人数で仕事を担う中小企業で、男性育休の取得率を高めることは難しいのでは、という質問に対しては、厚労省の担当者が「企業規模によって、男性育休の取得率にものすごく差があるわけではない」と述べ、「中小企業むけの国の両立支援助成金の大幅拡充のほか、育休をとった男性の代替要員を雇う場合や代替要員を雇わないが、周りの従業員が休む人の仕事を担った場合に周りの人に手当てを出す企業には、その4分の3を助成する制度などを作っている」と説明しました。
そして、小室さんは「中小企業は経営者が意識すると大体1年以内で働き方がぐっと変わるところもある。小さい企業でも男性育休の取得率が高い例もある」と述べました。
例として紹介されたサカタ製作所(新潟県)は、「1人1人の仕事の内容を見える化して共有化し、残業時間を減らした結果、男性育休の取得率も100%、平均取得期間が5か月という衝撃的な数字になっている。一番いいのは、それによって人材の採用に全く困らなくなったというんです」と述べました。
「育休中は給与を払わなくてよくて、本人への給付金は、国が払ってくれるので、会社はその浮いた金額で様々なことができるはずだと企業には知って欲しい。サカタ製作所は、残業の少ない働き方を何年も続けたことによって、恒常的に会社が支払う残業代が減り、その分を最初は賞与に入れていったが、その後は所定の賃金に入れ込んだ」と長時間労働是正が、ベースアップや採用活動にも好影響を与えた例をあげて、取り組むよう呼びかけました。