“得意先の言いなり”…町工場苦悩 中小企業の“賃上げ”広がらず…対策は? 「価格交渉後ろ向き」企業名を公表
経済産業省は、中小企業の賃上げを実現するため、価格交渉への対応に“後ろ向きな企業”を実名で公表しました。なぜ、中小企業への賃上げは思うように進まないのか、実情を取材しました。
街で、賃上げの実感について聞いてみると──
夫が広告系中小企業(に勤務)
「(夫の)給料がすごく上がったという感じは、受けてないかな。生活が潤うほどには上がっていないと思います」
人材系ベンチャー(に勤務)
「東京だと、物価高かったりとか、家賃とかも相場が高いので、もうちょっと(給料を)上げてくれたら」
大企業では高い賃上げが実現していますが、中小企業では同じ水準までは上がっていません。
私たちは、鋼材などを扱う東京・大田区の町工場を訪ねました。
町工場の社長
「いま本当に商売じゃないもんね、お得意さんの言いなり。価格も何も、『いくらだよ』と言えば、それでやるよりしょうがない。『もっと上げてくれ』って言うと、その仕事もどこかいっちゃう」
仕事がなくなるリスクから、発注先の企業にコスト増加分の“値上げ交渉”もできず、ガマンの状態が続いているといいます。
2日、経済産業省が公表したのは、中小企業4万6000社への調査結果。取引先の大企業について、価格交渉や価格転嫁の対応を4段階で“ランク付け”しました。
その結果、最低評価となったのは、家電量販大手の「エディオン」、大手ハウスメーカーの「タマホーム」と「一条工務店」の3社です。
中小企業からは、「コスト上昇にもかかわらず、価格交渉を求めたが、応じてもらえなかった」などの声があがりました。
タマホームと一条工務店は、“今回の結果を真摯に受け止め、改善に努める”などとしています。
原材料・電気・物流費と、あらゆるものが値上がりするなかで、中小企業は、大企業に値上げを受け入れてもらわなければ、「賃上げ」の元手を確保できません。
価格交渉の難しさ──これを打破しようと、埼玉県はあるツールを開発しました。
例えば、「牛肉」や「卵」など、自社でコストが上がった製品を選ぶと、会社全体でどれくらいコストが増えたか、取引先にも一目でわかるグラフが簡単に作れるのです。
県は地元の企業をよく知る銀行などと協力し、中小企業にこのツールを広めています。
説明を受けた食品メーカーは…
埼玉県内の食品メーカー社長
「ただ言葉でお願いではなく、数字を(取引先の)お客さまに説明して、ご理解をいただくという、有効なツールだと思います」
長く続いた、中小企業がコストを抱え込む“悪(あ)しき慣行”を変えていかなければ、「賃上げ」が日本全体に広がるのは難しそうです。