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日本製鉄・橋本英二会長「受注を一部カットせざるを得ない」と厳しい交渉も~単独取材

2024年8月2日 17:32
日本製鉄・橋本英二会長「受注を一部カットせざるを得ない」と厳しい交渉も~単独取材
日本テレビのインタビューを受ける日本製鉄・橋本英二会長 7月、長野・軽井沢にて

■経産省が大企業実名公表「価格交渉に応じない」など中小から悲鳴~エディオン、タマホーム、一条工務店など~

経済産業省は2日、大企業など290社について、価格転嫁の姿勢などをランク付けしたリストを実名で公表した。法令違反でもないものを、あえて実名で公表するところまで踏み込んだ理由は何か。

それは、取引において立場の弱い企業が、適正な価格での取引ができずに割を食っていては、賃上げの原資を得られないからだ。

物価高でコストが上がっている分を価格に上乗せする。これにより、利益拡大→賃上げ→消費→経済活性化のサイクルが回ったり、設備投資が進んで、生産性の向上→利益拡大を狙ったりすることができる。

しかし一方で、今回で4度目の調査となるにもかかわらず、いまだ多くの大企業が、価格交渉や価格転嫁に後ろ向きな企業として実名を公表されるという不名誉な事態に陥っている。

それは、意識の問題なのか? 構造的な問題なのか?

企業が価格転嫁をどう考え、どのように取り組むべきかのヒントを探るため、価格転嫁の促進に真正面から取り組んでいる企業経営者にインタビューした。

第1回は日本製鉄・橋本英二会長にうかがった。(聞き手・経済部記者・城間将太)

■「価格交渉にどう臨んだか?」 先陣を切った日本製鉄・橋本英二会長への単独インタビュー

Q.今年、大企業や中小企業で歴史的な水準の賃上げが実現した。そのためには、大企業から中小企業への価格転嫁が重要だ。経営トップとして、これまで価格転嫁にどのような姿勢で臨んできたのか。

橋本会長
日本製鉄の場合は、実は私が社長になりました5年前、2019年から価格の是正を進めてまいりました。これは、大企業から中小企業ではなく、私どもの取引先で発生したコストアップを、サプライチェーンを維持するために取引価格をアップするということで始めたんです。その時には、(近年のように)輸入物価が高騰するとか円安とかではなくて、「業種間のバランスが取れてない、それでは素材産業が今後継続できない」と。事業を継続するための費用、あるいは、サプライチェーンを日本全体として維持するための費用ということで、(日本製鉄が納める側にも)価格の是正をお願いしたのが5年前からです。

それが2021年度ぐらいから実現し、その流れの上で2022年度からの海外発のコストアップが展開してきた。今後は働き手不足に起因する賃上げが当然ですし、物流費がアップしているといわれますが、根っこは結局働き手不足です。ですから、今後も継続するということだと思います。

■「お互いにサプライチェーンを守るために応分の負担をしないといけない」

Q.2021年、自動車メーカーなどに対して橋本会長自ら価格交渉を行ったと聞きました。

橋本会長
自動車メーカーだけじゃなくて、あらゆる業界に対してお願いして認めてもらったわけですが、これは理屈だけではなかなか実現しないんです。最終的には、私ども自身が当時抱えていた余剰能力を大幅に削減した上で、「一定の価格の是正を認めてもらわない限りは受注を一部カットせざるを得ません」という厳しい交渉にまで至りました。その結果、認めていただいたということです。

最初の時は交渉も大変でしたけれども、今ではやはり「外部要因によるコストアップというのは、お互いにサプライチェーンを守るために応分の負担をしないといけない」という考え方は、取引先の間でも随分、浸透したと思っています。

■世界一の品質で世界一安かった鉄

Q.価格転嫁は数年の中で段々と浸透してきて、今は外部要因に対する価格の引き上げというのはある程度、広く受け入れられているか。

橋本会長
日本全体としてどうかは別として、鉄の価格というのはおよそ30年の間、「品質は世界一だけれども、価格は世界一安い」というのが実態だった。それを是正をしたというのが第1弾です。2021年度にまずファーストステップができて、今も継続しているわけですが、相当浸透してきた。

新しい話として、賃金を上げていかなければいけない、そうでないと適切に労働力の確保ができないというようなこと。今後、日本の競争力を取り戻すために、設備投資をしなくてはならない。そうするとやっぱり外国人の(働き手の)力も借りるなど、いろいろな手立てを打たないと必要人員を確保できないというふうに、労働力の需給構造が変わった。働き手不足というのは日本全体で起きていることですから、これは当然のことながら賃金は上がっていく、上げざるを得ない。

逆に言うと企業物価をそれぞれが、大企業、中小企業関係なく、上げていくと。最終的には国民の皆さんの理解ですが、これが賃上げに繋がれば、それは一つの良い循環ですよね。あとはやはり商品力を高めて、日本は輸出が多いので、海外市場できちんとそれぞれの価格を上げていくということが大事。

■社員の賃上げに連動して協力会社の取引価格も引き上げ

Q.サプライチェーンのトップに位置する企業の会長として、二次請け三次請けなどの企業に対して、価格転嫁に関して伝えていることは何ですか。

橋本会長
いわゆる大企業、中小企業という観点からの質問ですね。これについては、日本製鉄の場合には昔からフォームを決めてあります。最近は私どもの社員の賃上げを相当大幅に行いました。それに連動して協力会社の賃上げ分の価格の引き上げを認めるというシステムを取っていますので、それは日本製鉄の場合にはスムーズにいっています。ですから、社員の賃金を上げる時には、社員の賃上げに伴うコストアップの2倍以上かかるんです。それを覚悟した上での大幅な賃上げを行ったということです。

日本製鉄は素材産業なので、海外から材料を買ってくる。これは取引先が大企業か中小企業かに関係なく、しかるべき価格転嫁を行う。私どもに対する日本でのサプライヤーとか協力会社、昔の言葉でいえば下請けさんは製鉄所の中で一緒に働いてもらってるんですよ。当然、その方々に払う作業の単価は人件費が大きいですよね。その支払いは、社員の賃上げと連動して上げるというシステムにしています。

国内の製鉄所でいうと、日本製鉄の社員が3割、協力会社が7割なんです。したがって3割の社員の賃上げをする前提は、連動で協力会社も賃金が上がるというシステムにしているので、賃上げを決める時には、社員の賃上げに伴うコストアップのみならず、それの倍以上のコストアップっていうのを織り込んで賃上げをしているというんです。

■取材を終えて

橋本氏は「サプライチェーンを守るために応分の負担をしないといけないという考え方が取引先の間でも随分、浸透したと思う」と話した。「世界一の品質で世界一安く売られていた」という鉄の価格を是正したという。橋本氏が取り組んだように、日本全体で、「価値にあった値をつけて、受け入れられ、利益も増え、賃金も増える」という好循環が期待される。