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【解説】トランプ発言の謎解き「買収はイヤ、投資はOK」とは 日本製鉄のUSS買収のシナリオ

2025年2月12日 7:00
【解説】トランプ発言の謎解き「買収はイヤ、投資はOK」とは 日本製鉄のUSS買収のシナリオ

トランプ大統領の「買収は嫌だけど、投資は大好き(=OK)」発言で急進展するかの「日本製鉄によるUSスチール買収計画」。バイデン前大統領からは全面拒否され、裁判沙汰にまでなっていたが、政府高官や経済界から「前進した」と評価する声が相次いだ。しかし、“投資ならいい”とはどういう意味なのか? まさか、買収はするものの「いえいえ、これは投資です」と言えばいいという話でもあるまい。予想される方法と課題を探った。
(日本テレビ経済部・安藤佐和子、渡邊翔)

■「買収」でなく「投資」とは…

日本製鉄はUSスチールの株式100%取得による完全子会社化を目指してきた。

トランプ大統領の“買収は嫌だったけど、日本製鉄は私が大好きな投資をするんだよ”という発言の直後、アメリカメディアの解釈は分かれた。「majorityを持たない=50%未満」とするメディアもあれば、「not fully own=丸ごと所有しない=100%未満」とするメディアも。つまり、トランプ氏の意味するところは、株式の取得割合を抑えることだと推測した。

実際、石破首相との対談後となる9日、トランプ大統領は大統領専用機内で記者団に対し「誰もUSスチールの株式の過半数を持つことは、できない」とより具体的にコメントした。

■ほぼ100%保有でも「支配しない」方法

通常、50%以上取得で「子会社化」なので、49%など50%未満に抑えれば、「買収ではなく投資だ」という理屈も立つ。

一方で、ほぼ100%出資しながらも「支配しない」方法もある。無議決権株式だ。

株式の保有割合が重要なのは、それによって、「役員の選任」や「会社の定款変更」「合併・買収の承認」など、重要な議案の決議への影響力が変わるからだ。しかし、それは「議決権付きの株」でなければならない。

裏を返せば、日本製鉄が買収を受け入れられるための一つの方法は、議決権を過半数、持たなければいい。よって、例えば【日本製鉄は99%の株式を取得するも、そのうち50%を「無議決権株式」とする】などのスキームが考えられる。

無議決権株式はアメリカでは、よく活用されているという。

■日本製鉄にとって

日本製鉄にとっても「絶対に認められない」とされたところから前進ではある。トランプ氏の発言を受け、「明確に可能性が見えている」(経産省幹部)、「もう一段、検討のステージに入ったのは事実だと思うので、歓迎したい」(経団連十倉雅和会長)、「前向きな形での進展」(経済同友会新浪剛史代表幹事)と肯定的な受け止めが相次いだ。

しかし、課題もある。

例えば、今後の技術供与だ。これまでは100%子会社の前提で、日本製鉄の誇る技術力を提供して、生産することを想定してきた。それが過半数の支配権もないところに重要な技術を使うのかという懸念が降ってくる。

ただ、自らをタリフマン(=関税男)と称するトランプ大統領が、鉄鋼の関税を課してくることを考えれば、アメリカ国内で生産を確保することは一層、重要となる。

経済界からは「日本製鉄は最後のカードを切ることになる。今、切るのは、ありだと思う。トランプがまとめたがっているのだとすれば…」との言葉も聞こえてくる。

難しい状況の中での、国を巻き込んだ交渉。日本製鉄は明るい未来につなげる“最後の一手”を打てるだろうか。

最終更新日:2025年2月12日 7:42
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