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命をも左右……避難を遅らせる「正常性バイアス」 濁水が迫っても「死ぬわけない」“自分は大丈夫”のワケ【#みんなのギモン】

2024年6月29日 13:52
命をも左右……避難を遅らせる「正常性バイアス」 濁水が迫っても「死ぬわけない」“自分は大丈夫”のワケ【#みんなのギモン】
災害などで危機に見舞われる可能性があるのに、「自分は大丈夫だろう」と思い込んでしまうことはないでしょうか。誰もが持っているこの「正常性バイアス」は、避難が遅れる原因とされています。実際に起きたケースや、陥らないための取り組みを紹介します。

そこで今回の#みんなのギモンでは、「避難ためらう 正常性バイアスとは?」をテーマに、次の2つのポイントを中心に解説します。

●無意識に? 「大丈夫」と思うワケ
●陥らないために新たな取り組みも

■「自分は大丈夫だろう」の思い込み

小野高弘(日本テレビ解説委員・調査報道班)
「各地で今、大雨で大変なことになっています。災害が起きる危険も高まっています。ここ数年、今の季節に数多くの災害が起きてきました。だからこそ目を向けてほしいのが、命を左右しかねない正常性バイアスです」

「私たち誰もが持つ感覚です。例えば、大雨災害の危険がありテレビで避難指示を伝えている、自治体の防災無線で避難を呼びかけているのに、『自分は大丈夫だろう』と思い込んでしまう場面。身に覚えないでしょうか。避難が遅れる原因とされています」

刈川くるみキャスター
「正常性バイアスという言葉は知りませんでしたが、この感覚は分かるなとドキッとしました」

忽滑谷こころアナウンサー
「自分は大丈夫だろうと思ってしまいがちなのは、分かります」

森圭介アナウンサー
「こういった災害もあれば、泥棒が入ってくる、地震が起きるなど、いろいろなことに対して正常性バイアスが働くんですよね」

■西日本豪雨で、避難を渋る父親の姿が

小野解説委員
「実際の例を見てみます。令和元年版の防災白書によると237人が亡くなった、2018年7月の西日本豪雨。岡山県倉敷市真備町に住む丸畑裕介さんが撮影した映像には、避難をためらう父親を説得する様子が映っています」

「映像では、濁った水が玄関まで迫ってきています。水が町の中まできて、自治体からは避難情報が出ています。丸畑さんは声を荒らげて説得しますが、父親はかたくなに避難しようとしません」

丸畑さん
「早く逃げよう」

父親
「死ぬわけないから」

丸畑さん
「そうやって言って何人死んでるの今日!」

父親
「死ぬわけない。崩れるわけない」

丸畑さん
「水まだくる」

父親
「くると言っても土手越えるわけない」

丸畑さん
「全員もう逃げてる。みんなと違う行動するのが一番危ない。基本は逃げること」

■「家族は全然現実味がなかった」

小野解説委員
「説得の末、なんとか避難に応じたといいます。当時の様子を、改めて丸畑さんに聞きました」

丸畑さん
「家族は全然現実味がなくて、普通の日常の朝という感じでした。父も母も弟も、普段通りの。母もテレビを見ながら化粧しているみたいな。動画を見せたら『わーっ!』とびっくりはするんですけど、『ここまでは水はこないだろう』みたいな」

小野解説委員
「我々がこうして映像を見ると、『危険が迫っている。なぜ逃げないのだろうか』と思いますが、本人は『自分は大丈夫だろう』と思ってしまっています。これが正常性バイアスと言われるものです」

森アナウンサー
「第三者であればまだしも、自分の息子さんが呼びかけているにもかかわらず全く耳を貸さないことに驚きを隠せないですね」

山崎誠アナウンサー
「意味こそ少し違いますが、百聞は一見に如かずという言葉もあります。言われたり聞いたりしても、結局自分が見たものにしか実感が湧かないというのはあるかもしれませんね」

■正常性バイアスが生まれる背景

小野解説委員
「なぜ正常性バイアスが生じるのか。災害時の避難に詳しい、日本大学危機管理学部の秦康範教授に聞きました。『何かが起きて危険になるかもしれない』と普段から考えていると、心配で生活できなくなってしまう」

「そうならないために、ストレスから自分を守るために、ある程度『自分は大丈夫だ』との意識が働く。これは正常なことだそうです。ただ人は日常生活で危険な状態になることがほとんどないため、『今がその時だ』という認識を持ちにくいといいます」

忽滑谷アナウンサー
「私も楽観的な性格というかポジティブに考えがちなので、悩み事の9割は起こらないだろうと思って自分のメンタルを保っているところもあるので、ちょっと耳が痛いなと思います」

■自宅以外の場所に避難しなかった理由

小野解説委員
「実際に自然災害が起きた時、避難したかどうか。避難勧告や避難指示が出ていた地域の住民を対象にしたMS&ADインターリスク総研株式会社の調査(833人が回答)によると、自宅にいて『自宅以外の場所に避難した』と答えたのは16.9%でした」

「あとの8割以上は、家の中の安全な場所にいた、または特に行動を起こさなかったといいます。『なぜ自宅以外の場所に避難しなかったのか』という質問には、約24%の人が『自分は被害にあわないと思った』と回答。正常性バイアスが働いた可能性があります」

■避難の理由「差し迫った危機を感じた」

刈川キャスター
「災害が起きた時に正常性バイアスが働いてしまうと、誤った判断をして、自分だけじゃなくて家族や周りの人も巻き込んでしまいます。できるだけ働かせたくないですが、どういうことができるんでしょうか?」

小野解説委員
「陥らないためにどうすればいいのか。西日本豪雨の時に映像を撮影した丸畑さんは『家族が危険を認識し始めたのは、近くの土手から家の方に水が流れてきてからだった。自分の目で見ないと現実味を感じないんだなと思った』と証言されています」

「秦教授は『過去の災害の調査でなぜ避難したのか聞いてみると、目の前に差し迫った危機を感じたから、という回答が多い。危機が具体的に見えていないと、人は反応しづらい』と話しています」

山崎アナウンサー
「危機が来て逃げるのも大切ですが、危機が来る前に逃げるのがベストですよね」

■浪江町で“危機の見える化”システム

小野解説委員
「どうしたらいいのか。目の前の危険を『これはまずい』と感じてもらうしかありません。危機を見える化する取り組みがあります。福島県浪江町では4月から、津波の映像をライブ配信するシステムの試験運用を始めました」

「地震を感知すると、格納庫からドローンが飛行して沿岸部の様子を撮影します。津波警報が出た場合は、住民は専用のアプリを使って、映像をリアルタイムで見ることができます」

「開発を担当した企業は、『状況が分からないから家に戻るということがないよう、自分の見知った町の映像を見ることで命の危機を感じてほしい』としています。その上で、今後の課題についてこう話しました」

会沢高圧コンクリート・宮田達也常務取締役
「通常の水面の高さからどれだけ上がっているのかとか、可視化できる技術はこれから発展させないといけない」

小野解説委員
「今、調整や改良を重ねて実用化を目指しているそうです」

森アナウンサー
「こういった技術・テクノロジーで人間の要素を補完できるようになるといいですけど、なかなか難しいですよね」

■「バイアスが今働いているかも」が大切

小野解説委員
「秦教授は『正常性バイアスというものが人間には働くんだ、という知識を持っておいてください。もしかしたら今働いているかもしれない、と思うことが大切です』と言います」

「具体的にできることとしては、例えば避難場所に歩いて行ってみる。『とにかくあそこに行けばいい』と思えば、迷えず行動に移せます。まさに今、避難の情報が出ている地域ではあらかじめ見ておくどころではないので、とにかく命を守る行動をしてください」

森アナウンサー
「自分には正常性バイアスがあるんだということ、自分だけが大丈夫ということはない、自分にも起きるんだと自覚して、他人事ではなく自分のことにするというのがとても大事になるんですね。難しいけど、取り組まないといけないですね」

小野解説委員
「正常性バイアスは誰もが持つ感覚だ、ということを知っておくこと。これも備えの1つです」

(2024年6月28日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)

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お寄せいただいた情報をもとに日本テレビ報道局が調査・取材します。

#みんなのギモン

https://www.ntv.co.jp/provideinformation/houdou.html

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