日航機事故から37年…事故の悲しみから前を向いて生きる家族を描いた物語が舞台化
1985年8月12日、日本航空123便が群馬県上野村にある、御巣鷹の尾根に墜落。520人の尊い命が犠牲となった。
夫の正勝さんを亡くした谷口真知子さんは「当たり前の日々がいかに大切かということを伝えたい」と、絵本「パパと柿の木」を制作。絵本には、夫が残した柿の木の成長に励まされながら前を向く家族の姿を描かれている。その絵本が先月、大阪で舞台化。“若い人たちにも事故のことを知って欲しい”という思いからだった。
夫・正勝さん役を演じる28歳の中井孝充(こうしゅう)さんは、事故が起きた後に生まれた世代。事故自体は知っていても演じる上で当初、特別な思いはなかったという。しかし、真知子さんと出会って、その心境に変化が。
「責任があるものだなと思った。自分大丈夫かなって」中井さんが感じたのは“演じる責任”。“突然夫を失った悲しみをどうやって乗り越えてきたのか” もっと話が聞きたいと中井さんは、他の役者と真知子さんの自宅を訪ねた。
そこで見たのは、生前、正勝さんが植えた柿の木。正勝さんが亡くなった年、“家族を心配するかのように”初めて実をつけたという。
さらに真知子さんが見せてくれたのは「まちこ、子どもよろしく」と描かれた、正勝さんの最後の手紙。「柿の木も手紙も、必死に残してくれたものがあるから頑張ることができた」と話す、真知子さん。
一方、思いを知れば知るほど“正勝さんを演じる覚悟”が揺らぐ中井さん。そこで、少しでも正勝さんの思いに近づくことができればと向かったのは…日航機の墜落現場。あいにく台風の影響で御巣鷹の尾根には登ることができず、事故の犠牲者を弔う慰霊の園へ。
慰霊碑の奥には、亡くなった520人の名前が刻まれた石碑が。その中には谷口正勝さんの名前も…。「こういったものを見たからこそ、僕だからこそ伝えられる役割というか、やれる役割とかもあると思う」と思いを新たにした。
舞台本番、会場には日航機事故を知らない若い人たちも。中井さんは、真知子さんの思いを胸に、舞台へ。初めに描かれるのは、パパを中心に笑顔の絶えない家族のあたりまえの日常。しかし、事故は起きてしまう。場面は墜落直前の機内へ。
最後の手紙を書くシーン。「どうして…どうしてこんなことに。ママ…子どもをよろしく」中井さんは、正勝さんを演じきった。そして、残されたママと2人の子ども。悲しみにくれる中、二男が見つけたのは、庭に実った柿。この柿をきっかけに、家族は笑顔を取り戻す。「前を向いて生きる…」3人に力を与えてくれたのは、パパが生前植えてくれた1本の柿の木だった。
事故の記憶や命の大切さを伝える今回の舞台。その思いは、今後もカタチを変えながら若い世代へと受け継がれていく。
※詳しくは動画をご覧ください。(2022年8月10日放送「news every.」より)