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もてなしの“サプライズ”と皇后さまの笑顔にあふれた両陛下のインドネシアご訪問【皇室 a Moment】

2023年7月15日 13:31
もてなしの“サプライズ”と皇后さまの笑顔にあふれた両陛下のインドネシアご訪問【皇室 a Moment】

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。令和初となった両陛下のインドネシアでの国際親善訪問。もてなしの“サプライズ”と皇后さまの笑顔にあふれたご訪問を現地で取材した客員解説員の井上茂男さんとスポットをあてます。

■友好をここから育てる…両陛下と大統領夫妻の植樹

天皇皇后両陛下は、6月17日から23日にかけて、東南アジアのインドネシアを公式訪問されました。即位後、初めての国際親善訪問で、皇后雅子さまにとっては21年ぶりの親善訪問でした。両陛下は、首都ジャカルタ近くの学校を訪問して若い人たちと交流するなど多くの人々と親善を深められました。

――井上さんも2日前からインドネシアに入り取材されたということですが、どんな場面が印象的でしたか。

滞在3日目の6月19日、ボゴール宮殿で植樹式が行われたあと、ジョコ大統領が皇后さまの手にひしゃくで水をかけている場面です。

――両陛下も大統領も笑顔なのがわかりますね。

この日、両陛下はそろって公式行事に出席され、ジョコ大統領が執務を行う宮殿で歓迎式典が行われました。

その後、庭に出て植樹式に臨み、両陛下はジョコ大統領夫妻と一緒に、「マラッカジンコウ」という香木の苗木を植えられました。

天皇陛下と大統領が小さなシャベルで3杯ずつ土をかけ、皇后さまとイリアナ夫人が続き、次にそれぞれに水をかけ、最後に大統領が手水をかけてタオルを手渡し、自分も同じようにします。

植樹式でホストはにこやかに植樹を見守るのが一般的ですが、ゲストとホストが一緒に土をかけ、水を注ぐ。そこに友好をここから育てていきたいという思いを感じました。また、大統領が自ら手水をかけ、タオルを渡したところに“おもてなしの心”を感じました。

■人口2億7500万人 平均30歳の活気あふれる国

インドネシアは1万7000の島々が東西約5000㎞の範囲に点在する国で、首都ジャカルタはジャワ島の北西部にあります。広さは日本の5倍、人口は世界4位の2億7500万人に上る多民族国家で、その9割がイスラム教徒の国です。

印象をひと言で言いますと、“大渋滞の国” “若い人であふれる活気ある国” “笑顔の国”でした。首都ジャカルタは近代的な高層ビルが立ち並んでいますが、その街がどこも車やバイクであふれて大渋滞していました。しかし一本裏の通りに入ると、昔ながらの庶民の町並みが残り、“貧富の差”も大きいと感じました。

平均年齢は日本より15歳ほど若い約30歳。町は子どもや若い人たちがいっぱいで、高齢化と少子化が進む日本とは大きく違うなと、活気と熱気を感じました。

警備にもインドネシア流を感じました。両陛下がお泊まり所のホテルに入るときは、ものものしい警備でしたが、一旦入られたら規制は解除され、外では日常の生活がごく普通に行われていました。

こちらは同じ場所で私が撮った、夜のホテル前の様子です。若い人たちが集まるスポットになっていて、みな座り込んで話に熱中していました。ものを食べている人もいます。他の国ならお泊まり所の前は排除されるでしょうが、インドネシアはのんびりした雰囲気でした。

こちらは両陛下が供花をされたカリバタ英雄墓地です。私たちは一般の人と並んで広い通りを挟んだ場所から取材していましたが、両陛下が拝礼されている間も、普通に車が通っていましたし、通りを挟んで一般の人もその様子を見ることができました。

こうした取材を通じて、インドネシアの警備は“面”ではなく、“点”を固めるピンポイントの警備と感じました。警備に当たる警察官から、たとえば手を合わせて数歩下がってもらえないかとお願いされたり、また一緒に写真を撮ってくれとスマホを向ける警察官もいたり、非常にフレンドリーな感じでした。

■“サプライズ”だった大統領のカート運転と植物園のスピーチ交換

宮殿での歓迎式典のあと、ジョコ大統領自身がカートを運転して隣接する植物園に行かれた場面はまさに“サプライズ”でした。

植物園に行くことは前日に知らされ、当日の朝の情報では、大統領の警護官がカートを運転するとのことでしたので、大統領がハンドルを握るシーンには「えっ?」と驚きました。

さらに驚いたのは、宮殿から植物園までおよそ15分間、両陛下や大統領夫妻の様子が途切れることなく撮影されていたことです。カメラは前からカートをずっと捉え、にこやかな様子がよく伝わってきました。

――皆さんの物理的な距離が近いということもあるのかもしれませんが、和やかで柔らかい雰囲気がよくわかります。

大統領は「とても緊張した」と話していましたが、そこにも“おもてなしの心”を感じました。カートの正面に日本のヤマハのロゴが見えましたので、日本製で案内する気遣いもあったのかなと思いました。

ボゴール植物園はランをたくさん栽培していることで有名で、両陛下がいつか行ってみたいと思われていた場所だったそうです。スピーチの交換もこの場所で行われました。

天皇陛下のスピーチ)
「大統領ご夫妻にはただいまはこのようなあたたかいおもてなしをいただき、またカートで植物園までご案内いただき、ランのところを細かくご案内いただきました。そのご厚意に対して私たち二人から心からお礼を申し上げたいと思います」「テリマカシ(ありがとう)」

スピーチも“サプライズ”でした。当初、スピーチの交換は午さん会で予定されていましたが、大統領の「打ち解けた会にしたい」という意向でなくなり、蓋を開けてみればこの形になりました。陛下はペーパーを持たずに話されていますので、アドリブだったと思います。

日本は先の大戦でインドネシアを占領した歴史があり、正式なお言葉となるとそこを踏まえない訳にはいかなかったでしょう。大統領のスピーチなしでという意向は、“もう過去はいいですよ。未来志向で”というメッセージが感じられ、それでカジュアルな形でのスピーチになったと思いました。

■皇后さまの笑顔がはじけた21年ぶりの外国親善訪問

天皇陛下はジョコ大統領と会見されましたが、皇后さまは、陛下と別れてイリアナ夫人と交流の時を持たれました。宮殿内でインドネシア文化の様々な実演が行われる中、皇后さまは30分あまり説明を受けながら見て回られました。

こちらは画家と交流された場面です。画家に勧められて皇后さまが真っ白なキャンバスに絵筆で黒い線を1本描かれると、その線が髪の毛の一部となって、あっという間にアジアの女性を描いた絵になりました。完成までわずか7、8分しかかかりませんでした。この若い画家はろうあの方で大統領夫人が以前から支援しているそうです。

インドネシアの有名なろうけつ染めの布製品「バティック」の制作過程もご覧になり、皇后さまも自ら下絵を描く体験をされました。さらに下絵に沿って蝋を置いていく工程にもチャレンジされました。この布を染めると、この蝋の部分だけが染まらずに残ります。

こうして出来たバティックを皇后さまが羽織られるシーンでは、「着せていただけるのですか?」とうれしそうに語り、インドネシアの人の「いいね!」のサムズアップに、日本のカメラマンも親指を立てて応じ、皇后さまがさらに満面の笑みを見せられました。

――こうして歯を見せて笑われている様子を久しぶりに拝見したように感じます。

皇后さまの外国親善訪問は21年ぶりでしたので、この笑顔を私達はすっかり忘れていたと思います。

――今回、カメラがとても近いことにも大変驚きました。

実は、当初の取材設定は各行事の冒頭だけの撮影で、日本の外務省は「あとはインドネシア政府のYouTube中継があるのでそれを見てください」などと言っていました。

しかし蓋を開けてみれば、日本のカメラマンも、インドネシア側について行って、日本のように「冒頭のみ」とか「移動しながらの撮影は不可」などの制限のない“インドネシア・スタイル”での撮影が許されました。

インドネシア政府がなぜYouTubeでのみ中継するのか少し不思議でしたが、現地の通訳の話では、インドネシアではスマホが広く浸透しており、より多くの人に届けるのにYouTubeが効果的で、それが“インドネシア流”とのことでした。

――ドローンを使ったシーンもあって、今回の中継に力を入れているというのもよくわかります。

■シェア6割 インドネシアで親しまれる調味料「Masako」

――インドネシアでは皇后さまのお名前がとても親しまれていると聞きました。

そうなんです。インドネシアでとても有名な調味料でして、その名は「Masako」(マサコ)です。

――呼び捨てにするのがちょっとはばかられますね。

日本の「味の素」が1989年から販売していまして、現地のシェアは6割とのことですので、「Masako」はインドネシアで誰もが知っている商品の名前です。

マーケットの中のどのお店にも「Masako」が目立つ場所に下げられていて、食卓に欠かせないことがうかがえました。スープや炒め物、料理の下味などに使われるそうで、チキン味とビーフ味があります。インドネシア語で「masak」は“調理する”という意味で、日本の企業なので日本人的な名前にと「Masako」という名にしたそうです。

この「Masako」が人気となりまして、その後、照り焼きソースなどの調味料「SAORI」、マヨネーズの「Mayumi」も売り出されています。

■高校生や大学生 若い世代と意識して交流

インドネシアは日本との関係が非常に深い国です。4万人の技能実習生、6300人ほどの留学生など、在日のインドネシア人は約8万3000人に上り、看護や介護の分野でも欠かせない存在になっています。

今回、両陛下は意識して日本に縁のある若い世代と交流されていました。ダルマ・プルサダ大学では日本語を学ぶ学生たち10人と時間をかけてじっくり言葉を交わされ、次のようなやりとりもありました。

大学生)「例えば『水くさい』という言葉、私たち外国人からすると『水が臭い』と感じます。調べましたら、語源は水分が多いと味が薄くなるということから、愛情が薄くなりよそよそしい様、日本語は奥が深いなと感じております」

天皇陛下)「テーマが面白いですね。私たちが当たり前に普段使っている言葉も、よく突き詰めてみると不思議なものですね」

皇后さま)「日本に行かれたことはありますか?」

大学生)「行ったことないです」

天皇陛下)「ぜひ日本に来て下さい」

さらに西ジャワ州の大きな工業団地にある「ミトラ・インダストリ」という職業専門高校では生徒たちの研究の成果を視察されました。こちらの学校訪問は、当初天皇陛下お一人の予定でしたが、皇后さまも急きょ同行され、関係者は大喜びでした。

皇后さまは「こういうプログラミングはどれくらいされているんですか?」「面白いですか?」などと言葉をかけ、生徒たちと触れ合われました。

翌日、改めてこの高校を取材しました。

日系企業が運営し、生徒の大半が工業団地の企業に就職して、1割は技能実習生として来日しているそうです。大家族のインドネシアでは生徒たちは弟や妹の学費を稼ぐためにいい就職をしようと必死で、それが勉強に対するひたむきさになって表れているそうです。

両陛下も「皆さんの目がキラキラ輝いていますね」と夢に向かう生徒たちに感心されていたそうです。創設者の小尾吉弘さんは、「両陛下がまずインドネシアの高校生の実態をまず経験していただいた。そのことが日本の高校生が興味を持ってくれて、海外の同じような高校生と交流をしたいなというふうに思ってくれると、これも一つのきっかけとして、いろいろな国と高校生同士が交流ができる」と話していました。

■「令和流」 自分の言葉で話された “ぶらさがり取材”

天皇陛下は、旅の終わりに改めて若い世代の交流について「学生さん方が非常に高い志を持って日本語あるいは日本文化を学ぼうとしている様子、しかも自分の思っていることを非常に洗練された良い日本語で私たちに語りかけてくれたことが非常に印象に残っております」「将来的にこの日本に関心を持っているようなインドネシアの方々、またインドネシアに関心を持っている日本の若い方々、相互の交流によって両国間の親善関係がより深まることを心から願っております」と振り返られました。

――天皇陛下が現地の衣装を着て、ご自身の言葉で話されているところがとても新鮮に感じました。

記者たちが囲んで話を聞く取材を“ぶら下がり取材”と言いますが、これこそ“令和流”だと思います。陛下は皇太子時代から外国訪問先で“ぶら下がり”に応じてこられましたので、このやり方を即位後も踏襲されたのだと思いました。

■大きな成果 ポイントを押さえた皇后さまの同行

――皇后さまの体調が戻られたら、いつかお2人でこういう場面があるとうれしいですね。井上さん、今回の取材を改めて振り返ってどう感じられましたか。

当初、皇后さまの同行が予定されていない場面もあって、心配する声もありましたが、終わってみれば、若い世代との交流に急きょ同行するなど、ポイントとなる行事は外されなかったという印象です。

そうしたなか、ボゴール宮殿では、インドネシア側の仕切りのもと“インドネシアスタイル”で両陛下の笑顔が伝えられ、今後、日本でもこうした取材が許されてほしいと強く思いました。

即位後初めての親善訪問は、若い世代との触れ合い・励ましに意識しながら、残留日本兵の遺族らも含めて交流の輪が広がって大きな成果を収められたと思います。天皇陛下はかねて若い世代との交流を意識されてきましたので、今回のスタイルが令和のやり方としてベースになって、皇后さまと二人で親善を広げられていくと思いました。

――天皇皇后両陛下がそろって国際親善の場に立たれているところを見て、見ている我々もとても平穏で温かい気持ちになりました。またこういった場面が見られたらうれしいなと思います。

【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。

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