天皇陛下61歳誕生日 会見全文4/5
会見は、2021年2月19日、赤坂御所「日月の間」にて、感染症対策のため、初めて陛下の前にアクリル板を立てて行われました。質問は事前に提出してあった5問と、関連の3問です。約40分間の会見の全文を紹介します。4/5は、問5の前半です。
陛下は、この1年で印象に残ったこととして「感謝」の気持ちをあげ、コロナ禍での様々な人の努力に感謝を示されました。問5は、広く陛下のお考えが分かる内容となりました。
(問5)
この1年を振り返って印象に残った出来事についてお聞かせ下さい。間もなく東日本大震災から10年になります。陛下はこれまで皇后さまと被災地をたびたび訪問し、被災者に心を寄せてこられましたが、被災地の人々や復興への思いもあわせてお聞かせ下さい。
(天皇陛下)
この1年は、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るいました。新年のビデオメッセージでも述べたとおり、私も雅子も、この感染症がなかなか収束しない状況を憂慮しております。
また、この感染症の感染拡大の影響により、特に、多くの可能性を持つ若い人々が苦境に陥っていることや、女性や若者の自殺や家庭内暴力・児童虐待などが増加していることなども危惧しております。
他方、この苦難に直面しての我が国の国民の忍耐力や強靱(じん)さに感銘を受けるとともに、この1年でとても多くの「感謝」の気持ちを感じたことも印象に残ったこととして挙げられます。
医療従事者の皆さんが、新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからというもの、自らの感染の脅威にさらされながらも、強い使命感を持って、最前線で、昼夜を問わず、患者さんの命を救うために尽力いただいていることに心から感謝いたします。
また、保健所の方々など、患者を適切に医療現場につなぐべく、努力をしている方たちにも心からの感謝の気持ちを伝えたいと思います。
この1年、新型コロナウイルス感染症の様々な影響に苦しんでいる方々の思いや置かれている状況をより深く理解し、寄り添えればとの気持ちから、様々な分野の専門家や現場で対応に当たられている方々から、雅子と共にお話を伺ってきました。
高齢者や障害者、あるいは生活困窮者や生活困窮世帯の子供たちなどの現状について理解を深めるとともに、たくさんの方が、社会的に弱い立場にいる人々を支え、その命と暮らしを守るために力を尽くしていることを大変有り難く思いました。そのような方々が、自らも感染症による負担や苦労を強いられる中で、なおも大勢の他者のために尽くす姿に大変感心いたしました。
また、教育現場では、多くの学校行事が中止とならざるを得ない中、小学6年生たちが、自らプロジェクトチームを立ち上げ、様々な演出を凝らして思い出に残るイベントを作り上げた話や、地域で子供たちの学びを支えるボランティアが増え、例えばボランティアの皆さんが教室の消毒作業に協力してくれた話などを伺い、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって様々な制約が課される中、子供たちのたくましさや人々の優しさを今まで以上に感じる話を聞くことができました。
長引く感染症の流行への対策を継続することは努力を要します。自らのできる範囲で感染の拡大防止に努める多くの皆さんに感謝いたします。親族・友人など親しい人との直接的な接触を避け、暮らしの隅々に注意を払う生活にはストレスを感じる方も多いと思います。皆さんお一人お一人が、人知れず続けている努力を多といたします。
英国で、歩行器の補助を必要としながらも、新型コロナウイルス感染症に対応する医療従事者を支援するため、100歳の誕生日までに自宅の庭を歩いて100往復する活動により多額の寄付金を集め「キャプテン・トム」の愛称で知られるようになったトム・ムーアさんの行動とムーアさんへの爵位授与、そして、今月、ムーアさんが新型コロナウイルス感染症で残念ながら亡くなった際に、多くの人がその死を悼み、功績を讃えて拍手を送ったことも深く印象に残りました。尽力する医療従事者を、自分のできる精一杯の努力で支援しようとする人を、更に無数の人々が優しく包むように応援する姿に感銘を受けました。ムーアさんは、生前「明日はきっと好(よ)い日になる」との言葉を残しています。今は確かに困難な日々を送らざるを得ませんが、一人一人が自分にできる感染防止対策を根気強く続けることで「明日は好(よ)い日になる」と私も信じ、そうなることを願わずにはいられません。
新型コロナウイルス感染症について、日本国内への影響を中心に述べてきましたが、昨年強い印象を受けたのは、この感染症が全世界的な広がりを持つものになっているということです。
先日、私は雅子と共に「国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)」満了5周年のオンライン国際会議に参加しましたが、その場でも感染対策としての水の重要性が話題になりました。感染拡大防止対策として、我が国では、いわゆる三密回避、マスク着用と並んで手洗いが当然のこととして行われていますが、世界には、手洗いに適した衛生的な水が満足に得られない地域もあります。
また、世界では、特に発展途上国を中心に、新型コロナウイルス感染症以外でも、結核、マラリア、HIV/エイズ、エボラ出血熱など、様々な感染症が非常に多くの人命を奪っています。これらの感染症を克服するには、一国のみの努力では不十分であり、国際的な協力が不可欠であることを改めて認識させられています。
(※会見全文5/5に続く)